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Illusion sand − 18 出会い頭に火を吹きかけるドラゴンを倒しながら、セフィロス達は地下の廊下を探し回っていた。 かつては豪邸だっただろう建物も、長い間放置されては廃墟という一言でくくられてしまう。 地上に顔を出す大きな建物と、同等と思われる面積がある地下は、妙に入り組んでいて捜索も思うようにいかない。 辛うじてついている電気の灯りを頼りに、埃に塗れた廊下をひたすら走る。 途中、壁に打ち込まれている銃弾や、点々と続く血の跡を見つけた。 今二人は、それを辿りながら歩いている。 近くにあったススだらけの壁は、触れると手に黒い粉がつき、最近できたものだとわかる。 恐らくこれは二人の戦闘跡。運悪くニブルドラゴンにでも会ったのだろう。 引き摺られるような血の跡は、踏めば薄く延び、まだ新しいものだとわかった。 モンスターのものか、二人のものか判断はできなかったが、丁度良い道しるべにはなる。 「死んでたらどうする?」 「その心配は無い」 「何で?」 「・・・勘だ」 「・・・・・あ、そう・・・」 続く血の跡を見ながら、渋い顔をするレノに、セフィロスは静かに答えながら廊下を進む。 血の量を見る限り、もし人間だったら死んでいるだろうし、血痕を見つけた場所に死体があってもおかしくない。 そう冷静に判断しながらも、脳裏によぎる万が一という可能性に、セフィロスは歩調を速めた。 程なく進んだ先に、曲がり角からはみ出たドラゴンの尻尾を見つけ、二人は足早にそこへ向った。 血痕の主と思われるドラゴンは、体中に銃弾を浴び、青緑色の身体の半分を赤く染めている。 そこから少し先にある、もう1体のドラゴンは特に外傷がないようだが、ピクリとも動かない。 足元にあるドラゴンの頭部からは、広がった血溜まりが出来ている。 回り込んでみれば、固まり始めた血が眉間の辺りを黒く変色させていた。 「社長息子もやるねぇ」 「見かけによらんな」 軽く口笛を吹きながら、死体をまじまじ眺めていたレノは、ルーファウスの思わぬ力量に口の端を吊り上げた。 暴れ回るモンスターの急所を的確に捉えるその銃弾は、当てようと思って当てられるものではない。 人を守りながら、歴然とした実力の差がある相手に当てるには、それ相応の技量が必要なのは二人もわかっていた。 的確な補助があるならばいざしらず、同行していたのはただの女性。 もし社長息子でなければ、タークスかソルジャーにスカウトされていたかもしれないと、レノは目を細めた。 「で、こっちのモンスターは・・・・?」 「死んでる。が・・・」 傷らしい傷など1つも無く、横たわるドラゴンに、二人は首を傾げた。 ルーファウスが戦ったのなら、銃痕の一つでもあってよいはずなのに、魔法を使われた跡すら無いそれは、一見気絶しているようにさえ見える。 目玉が真っ白になっていなければ、眠っているとさえ思えた。 唯一、壁にあるおおきな凹みが、戦闘の形跡として残っているが、それだけでこのドラゴンを倒すことなどできるだろうか? 「コイツ・・・・どうやったんだ?」 「さあな・・・」 「社長息子じゃぁ・・・ねえよな?」 「・・・・・」 仕留めたのが誰なのか、考えうる一人を頭に浮かべながら、二人はちらりと視線を交し合う。 と、その時、真っ白な瞳孔で倒れていたドラゴンが、視界の隅で微かに動いた気がして、二人は同時に死体に目を向けた。 その瞬間、ドンともベシャッとも言えない様な、肉と骨を砕いた鈍い音が廊下に響いた。 肉体の内側から爆破したのなら、こんな音が聞こえるのかもしれない。 動かなかったはずのドラゴンの頭がビクリと振るえ、次の瞬間ドラゴンの頭に赤い亀裂が走った。 眉を寄せた二人が凝視していると、二度目の鈍音が響き、弾け飛んだ赤が視界を覆う。 生々しい音と同時に、目の前にあったはずのドラゴンの頭は消え去り、肉片が辺り一体に広がった。 身構える間もなく降りかかった肉片は、唖然としたままの二人にかかり、服どころか顔まで赤く染めた。 首の先が無くなったドラゴンを前に、二人は何が起きたのかわからず、頭があった場所を呆然と眺める。 鼻腔を刺激した、血と肉の焼け焦げた匂いに、二人はようやく我を取り戻すと、信じられないと言う顔で互いを見合った。 「なあ、何かしたか?」 「いや・・・・・・・・・・酷い顔だな」 「お前もだぞ、と。服までビシャビシャだ」 「・・・・・・・・・」 銀の髪に赤い体液を滴らせ、顔半分を真っ赤に濡らしたセフィロスに、レノは密かに身震いする。 たまらず顔を顰める自分とは対象に、少々表情を険しくしただけの彼の姿は、あまりに様になっていて寒気がした。 冷静に状況を把握しようとしているのだとは解るが、セフィロスは人間らしい混乱も驚きも、乏しすぎるのではないだろうか。 戦い続ける日々に、この血塗れの状況すら経験済みなのかもしれないが、それだけではこの反応に頷けない。 内ポケットから出したハンカチが無事だとわかると、レノはそれをセフィロスに手渡した。 皮のコートを着ていたセフィロスは、ハンカチを遠慮なく受け取り、かかった血を拭っていた。 レノもまた、制服の汚れていない場所で、手に付いた血を拭い、袖で顔についた血を拭う。 舌打ちをしながら大きく溜息をつき、もう一度首の消えたドラゴンの死体を眺めると、レノはセフィロスに向き合った。 ルーファウスがこんな芸当出来るはずは無い。 今しがた全滅させたアバランチに、こんな芸当が出来る人間はいない。 ドラゴンはボムみたいに自爆なんかしない。 そもそも、これは人間が与えられる攻撃かもわからない。 出来るとするなら、どうやって? 唯一予想が立てられるのは、これを誰がやったのかという事。 考えられるのはやはり一人だけだが、脳内では否定と肯定が半々で出したい言葉も舌の上で空回る。 目の前に居るでもなく、数十分は経っているだろう死体の頭を爆破させる方法など、考え付かなかった。 小型の爆薬でも脳内に仕込めば可能だが、下準備など出来るはずは無いのだ。 保護した人間ならば、ある程度の正体はわかっているのではないかと、レノはセフィロスの瞳を覗いた。 何か隠しているのか、それとも種明かしをしてくれるのか、はたまた本当に何もしらないのか。 彼が考える事の断片が、覗き込んだ瞳に映るのではないかと期待してみた。 だが、セフィロスはそんなレノに小さく溜息をつくと、赤く色の変わった廊下を先に進んでいく。 「アンタ、どう考えてるんだ?」 「・・・・・・・・俺達の目的は、二人の保護だ」 「ほー・・・・」 命じられた事のみを忠実に行い、無駄な事には一切首を突っ込まないつもりだろうか。 その口ぶりは、例え二人を保護しても言及する気など無いように聞こえる。 思考を破棄した答えを返すセフィロスに、レノの脳には「神羅の犬」という文字が浮かんだ。 他の人間よりは、幾らか考えているだろうかと期待していたが、自分の中で彼の評価が一気に下落していくのを感じる。 「あの女がやったとは考えねえのか?と」 「他に誰がいる?」 最後の悪態と言わんばかりに、レノは挑発半分に呟いた。 が、すぐさま帰ってきたセフィロスの、思わぬ返事に、レノは少々の予想外と顔を上げた。 「考えて答えを出すより、直接聞いた方が確実だ」 「言うと思うのか?」 「聞けば答える。彼女はそういう人間だ」 「随分あの女を理解しるみてえだな。でも、ありゃ人間業じゃぁねえぞ?と」 「実際やっているのだから人間業だろう。実際彼女も、自分は人間だと言っていた」 「証拠は?」 まるで子供のように、言われた事を鵜呑みにしていると、レノは嘲笑しながら喋っていた。 自分が見ていた英雄は所詮虚像でしかなく、実際はただの馬鹿でしかなかったのだろうかと、小さな苛立ちさえ覚える。 彼女の何がここまでセフィロスを信用させるのか。 まだと数度しか話した事の無いレノには想像もつかない。 その状況で、彼女が自分を惹きつけたものがあるとするならば、その容姿と、どこからか感じる色気ぐらいしか思いつかなかった。 とはいえ、どれだけ優れた容貌を持っていても、それだけでは遊びにもならない。 一度ぐらいはお相手願いたいとは思ったが、馬鹿ならそれ以上関わる気も起きないのだ。 よもや既に二人が深い関係になっているとも思えなければ、そんな雰囲気も感じられない。 セフィロスがに対しているときに見えるのは、保護者意識と信頼。 それに、目に見える独占欲と甘えもあるが、それは母子のようなものであり、男女として考えるならば百歩譲らなければならないだろう。 反対に、がセフィロスに対しているときは、信用と、見守るような擁護に似た雰囲気。 よくは解らないが、彼女の目は誰見るにも、遥か年長者の視線のようで、ともすれば神が人を見る様にも似る。 並べば確かに絵にはなるし、双方の色気もあってただならぬ関係に見えなくも無い。 だが、一度近づいてその空気を感じれば、男と女の空気など到底感じられなかった。 幾らなんでも油断しすぎではないかと、レノは黙ったセフィロスをじと目で見つめた。 「・・・・・・背中と腕に古傷があったが、それ以外身体に不審な点は無かった」 「へぇー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」 そろそろ会話を放棄してしまおうと考えていたレノは、セフィロスの言葉に数秒間思考が止まった。 彼が何を言っているのか、分るのだが、分らない。 傷跡を知っているという事は、彼はの身体を・・・裸の状態を見たという事だろうか。 不審な点は無かったとは、つまり彼女の裸体を調べたという事だろうか。 まさか、20歳を超えたいい男が、軍医でもないのに、遭難して死に掛けていた女の身体を隅々まで調べたのか。 彼女はそれに同意したのだろうか。 よもや、「お医者さんゴッコ」にも似た馬鹿馬鹿しく変態的な事をして二人は楽しんだのだろうか。 それも行軍の最中に。 その上そんな空気など微塵も残さないという事は、もしかしたら二人にとっては自然な事に近いのだろうか。 そんなの俺が知っているセフィロスじゃない!! 「よもや」と「まさか」が脳内でぐるぐる回り、レノは足を止めてセフィロスを見つめる。 心の叫びを口にしないよう押さえるものの、開いてしまった口は金魚のようにパクパク動く。 「・・・・なんだ?彼女は普通の人間だ。人の皮を被ったモンスターではなかった」 「いや・・・いやいやいや、そうじゃなくて!!」 赤と青にせわしなく顔色を変えるレノは、平然と言い足すセフィロスの言葉を止める。 怪訝な顔で振り返るセフィロスに、レノは逆上して殺されたらどうしようなどと考えながら、必死に言葉を探していた。 が、レノの挙動不審な態度に、ふと自分の言動を思い出したセフィロスは、小さく唸って呆れた声を出した。 「お前が何を考えているか、大体は想像がつくが・・・私は彼女の体を洗っただけだ」 「や、でもアンタ軍医でもないだろ!?それ、十分問題だぞ!!・・・と」 「見つけたとき彼女は血塗れだった。こびりついていた血で、何の生き物かも分らない状態だ。 迂闊に人に任せて、もしモンスターだったらどうする? 人と判断して保護はしたが、あの時の彼女は他の誰も人間だとは思えない状態だった。 俺以外に、誰も近づこうとはしなかったんだ」 「・・・・・・・・・・・」 毅然と答えるセフィロスに、レノは何処か腑に落ちない顔をしながら、再び歩き始めた。 仕方が無かったのだろうと考えてはみるものの、やはり彼の行動はどうかと思わずにいられない。 下心など皆無だったのだろうと、セフィロスの口ぶりから察しがつくが、それもまたに対して失礼な気がする。 下心があるなら、余計に失礼なのだろうけれど・・・。 「彼女は納得したのか?と」 「・・・・・・・・・・・」 溜息混じりに呆れた声で言ったレノに、セフィロスはふと記憶を手繰ってみた。 が、自分の記憶が正しければ、確か彼女に自分が身体を洗ったと言った覚えが無い気がする。 忘れていたな・・・と、考えながら、そういえば時計を返すのも忘れていた事を思い出した。 とはいえ、彼女に裸を見たと言っても、「見たものは仕方が無いでしょう」としか返ってこない事はすぐに予想がつく。 洗うために、素肌に触れていた事まで、「触ったものは仕方が無いでしょう」で済ませてもらえるかはわからないが・・・。 流石に自分の知らない間に、関係があるわけでもない男に身体を触られていたのは嫌だろう。 だが、軍医は忙しくて手が回らない状況だったし、自分がやる以外、他にどうしようもなかったのだ。 よもや何処の誰とも知らない兵にそんな事をさせるわけにもいかないし、妙な事をする気が無い自分がやるのが、その時の最善だった。 まぁ、本人がその事を思い出して聞いてこなければ、忘れたままでいてくれた方が助かるというのが本音だ。 故に、彼はその事についてわざわざ口にしなかった。 「怒らせちまったのか?と」 「いや、言うのを忘れていた」 「・・・・・は?」 「さして問題は無いだろう。 彼女は軍医がやったのだと思っているのだから、そう思わせてやれ。 言ってもどうせ、やったものは仕方が無いとしか言わん」 「・・・・・・・・・・へぇ・・・」 本気とも冗談とも聞こえない言葉に、笑顔を作ろうとしたレノだったが、引き攣る顔の筋肉は、微妙だった表情に輪をかけるだけだった。 人の表情など気にも留めず、セフィロスは辺りを見回しながら黙って廊下を突き進む。 地下に進入してから十数分程しか経っていないが、既にモンスターの気配は殆ど無い。 戦闘にはそれほど時間を費やしていないが、今だ二人の姿は何処にも無かった。 二人が監禁されていたと思われる部屋には、2組の縄が解けた床に残っていた。 そこから、二人の戦闘跡を辿って歩いてはいるものの、どんどんと奥に向っているようだ。 入り組み、見通しの悪い道筋では仕方が無いが、恐らく二人も逆方向に進んでいるとは考えもしないだろう。 此処まで歩いても、姿どころか話し声すら聞こえないという事は、何処かの部屋で休んでいるのだろうか。 向う先は、明かりこそあるが湿っぽく、耳を澄ませば、何か沢山のものが蠢く音が聞こえる。 恐らくはモンスターが溜まっているのだろうが、耳に届く物音は、あまり進みたいと思わせないものだった。 天井に張った蜘蛛の糸に、その先はここを拠点にしていた者達でさえ、あまり使わないのだろうと考える。 だが、だからこそ、二人がいる可能性もあるのだ。 薄暗い廊下に足を踏み入れ、ふと足元を見れば、仄かに照らされた床に真新しい足跡があった。 殆ど人が通っていないだろうそこには、土埃の上を走ったと思われる二人の人間と、細い棒のような跡が無数に存在している。 昆虫系か蜘蛛系か、とにかく足の多いモンスターが、大量にそこを通ったのだとわかる。 「足が多いのは嫌いだぞ・・・と」 「これだけ居ると考えると・・・気は進まんな」 模様のような足跡に、二人はたまらず顔を顰めた。 こんな事になると分っていれば、殺虫剤ぐらい持ってきただろうに、生憎二人が持っているのは銃と刀。 ただでさえ空気の薄い地下室で、セフィロスのファイガを使えば酸欠に陥るのは明白。 手にあるのは雷マテリア1つだが、全体化マテリアも無い状況では、多少不利でも慣れた武器を使う方が懸命だった。 「ウジャウジャいるのは嫌だぞ、と・・・・」 「四の五の言ってはいられん」 軽く武器を持ち直し、同時に溜息をつきながら、二人は一足早く鳥肌を立てた。 1歩、2歩進むたび、遠いと思っていた物音は大きくなっていく。 電灯の合間合間にある闇が、靴音に合わせて騒ぎ蠢くのを、二人は歯を食いしばりながら見つめ、進んだ。 近づく毎に、その先にある暗闇も蠢き始め、先程呟いたレノの願いも空しくその姿が見えてくる。 何本もの長い足と、人の頭ほどもある体のそれらは、黒い体のせいで、ぽっかりとあいた穴のようだった。 二人が近づいていくごとにざわざわと動く蜘蛛の集団は、壁や天井を這いずり回りながら、突き当たりにある扉の前で山のように集っている。 「き・・・気色悪い!!」 「来るぞ!!」 全身に鳥肌が立つのを感じながら、二人は身構え、同時に何匹もの蜘蛛が飛び掛ってくる。 気色悪さに顔が引き攣るのを感じながら、セフィロスが刀を振り上げ、レノが指先に力を込めた。 と、その時、それまで蜘蛛が集っていた突き当たりの扉が突然開いた。 身を刺すような冷気と雷撃が廊下に溢れ、二人は慌てて飛び退く。 その瞬間、氷の檻の中で雷に撃たれている蜘蛛達の姿が目に映る。 地に足を着いた瞬間、炎が目の前を覆い尽くし、数秒前まで蠢いていたはずのモンスターは、黒い燃えカスへと姿を変えた。 数えるにも満たない数秒の間に、何十匹といた蜘蛛が塵になり、二人は訳がわからず固まった。 熱した空気を冷ますように、一瞬冷たい風が吹き、頬を撫ぜるが、レノにもセフィロスにも、一体何が起こったのか全く理解出来ない。 幻でもみたように呆然とするしかない二人の視線の先には、開いた扉から姿を現したとルーファウスの姿があった。 「今回は大丈夫みたいだ。まだMPが半分ぐらい残ってる」 「・・・・・話の通り、お前にマテリアを持たせるのは危険なようだな」 「迎えが来たのだから、もう戦わずに済むし、いいでしょう」 「確かにそうだが・・・念のため預かっても良いか?」 「どうぞ。どうせもう使いませんし」 「ああ」 呆然とする二人とは対照に、マイペースな会話をしながら、人質二人組みはポケットを探る。 が持っていたマテリアを全て受け取り、ポケットに仕舞ったルーファウスは、ようやくレノとセフィロスの方を向いた。 「ご苦労。他の敵は片付けたのか?」 珍しく阿呆面で突っ立っている二人に、ルーファウスは何食わぬ顔の裏で大笑いした。 |
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さん、最強すぎ・・・(笑) 蜘蛛って気色悪いですよね 2006.06.06 Rika |
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