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今まで出会ってきたモンスターの中にも竜族は沢山いた
中でも一番印象に残ってる、一番手強かった奴の事を思い出した

オメガを追って次元の狭間に来たと言う、何故か宝箱から出現した変な奴

神竜

あのレベルの竜だったら、ルーファウスを守りながら戦うのは正直辛い

防具も無い。武器も無い。


まだ死にたくないな・・・








Illusion sand − 17









ニブルドラゴンが吐き出した炎に、ルーファウスはを抱えて地に伏せた。
轟々と伸びる炎が止み、途端近づいてくるドラゴンに慌てて起き上がり銃弾を打ち込む。

目玉に命中した弾に、ドラゴンが悲鳴を上げてのた打ち回っている間に、腕や足に続けて銃弾を打ち込んだ。
陳腐な武器では、急所意外の攻撃は効かないようで、ドラゴンは怒りに色を変えた目で二人を睨む。


「クソ・・・、逃げるぞ!」
「はい」


暴れまわるドラゴンに狙いが定まらず、ルーファウスはの腕を掴むと元来た道を走った。
逃げた獲物に気付いたドラゴンは、体中から血を流しながら二人を追い、その差が段々と縮まっていく。
地鳴りのような咆哮を上げて追いかけてくるドラゴンから、入り組んだ廊下をすばしっこく曲がりながら二人は走った。

が、何度目かの角を曲がった瞬間、向おうとしていた先の角から見えた大きな影に、二人は慌てて立ち止まる。

振り返り見れば、先程傷を負わせたドラゴンが、辺りを見回し近づいてくる影が見えた。
周りを見ても逃げ込める場所は無く、そう考えている間にも影はどんどんこちらに向かって来る。


「挟み撃ち・・・か。出来ればお前には戦わせたくなかったが・・・・
 、マテリアは持っているだろう?戦えるか?」
「かまいませんよ。
 向こうのドラゴンは私が。追ってきたドラゴンは貴方が。いいですか?」

「ああ。死ぬなよ」
「善処します」


小さく笑いあい、双竜が首を出した瞬間二人はそれぞれの相手に向っていった。
早速響いた銃声に、はバレないように、プロテス、シェル、リジェネ、ヘイストをルーファウスにかけ、そのままドラゴンの足にブリザドをかける。
身動きの取れないドラゴン目掛け飛び上がり、その首の上に踵を落とした。
悲鳴を上げる間も無く落ちてきたドラゴンの頭に、横から拳を打ち込み壁に叩きつけると同時に、表皮をブリザドで固め脳内で発動するようサンダーをかける。
本来であれば、最初からサンダーでドラゴンの脳を焦がせば1発なのだが、それだけで戻るのは早すぎるのだ。
吸熱による爆発は、ブリザドの中に留められたので、派手な死体にはならない。
ファイアでもよかったかと思ったが、火炎放射をするという事は、炎を吸収する可能性があったので雷にしたのだ。

目が白く変わったのを確認すると、ドラゴンが倒れるのを確認する間もなく、はルーファウスの元へ戻った。


「逃げてきたのか!?」
「いや、倒した」

「何!?」
「アタリを引いたみたいです」


嘘は言っていない。
確かに、このドラゴンはルーファウスの戦うそれと同種であり、同等の力をもっていただろう。
が、の言う「アタリ」というのは、戦っているドラゴンがそれ程強い種ではなかったという意味だ。
もちろん、ルーファウスが勘違いするのは解っていたが、それをわざわざ説明しては皮を被っている意味が無い。

言う間にも炎を吐き出そうとするドラゴンに、ルーファウスは口内目掛けて銃弾を放った。
ヘイストで早さが増している事には気付いていないようで、も一先ず安心すると間合いを一気に詰めた。
ドラゴンの懐にもぐりこみ、その腹に拳を入れると、ドラゴンの体が衝撃で軽く浮き上がる。
胃液のようなものを吐き出し、体制を崩した瞬間の足で、その頭は地面に叩きつけられた。

自分の状況に理解が追いつかず、目をぱちくりさせたドラゴンに、は十二分な間合いを取る。
その隙をついて、すかさず引き金を引いたルーファウスに、ドラゴンの眉間に小さな穴が開いた。
一瞬ビクリと動いた後、そこから溢れた血に二人は戦闘終了と、大きく息を吐いく。

が・・・


、見間違いとは思わないが、念のため聞くぞ」
「・・・・・・・なんです?」

「お前がドラゴンの腹を殴った時、奴が一瞬浮いたように見えたのは気のせいか?」
「・・・・・・・・」


やっぱり見られていたかと、は手加減不足に頭痛を感じた。
彼女自身、まさかあの巨体が浮き上がるとは思ってもみなかったので、けり落とした瞬間マズイと思っていたのだ。

が、ここで焦ってはいけない。


「まぐれだと思う。確かに私は他の女性より力があるらしいけど、流石にあの巨体は浮かせられない。
 ドラゴンも、殴られた方向に避けていたから、吐く以上のダメージはなかったと思う。
 というか、この腕にそんな筋肉があるように見えるのか?」

「・・・・・動きも随分慣れているようだが?」

「え?自分では我武者羅に動いただけなんですが・・・。
 というか、記憶喪失の人間にそんな事を聞いても、大した答えなんて出ないでしょう?」

「・・・ああ、そういえばそうだったな。あまりにもらしくないので、忘れていた」
「らしいって・・・・記憶が無い事ですか?以前にも記憶喪失になった人が?」

「いや・・・。そうだな、確かに記憶を無くした知り合いは、お前が初めてだ。
 少し先入観がありすぎたようだ。気を悪くしたか?」
「いえ、それほどでも。兵の方々にも似た事を言われてましたから」

「そうか・・・」
「はい」



うん。だって記憶喪失じゃないから、らしいわけないもん。
あるとするならば、長生きから来るボケぐらいだろうと考えながら、は何食わぬ顔で彼の質問をかわした。

敵が竜族だからと気負いすぎた分、力を出しすぎたようだと、は内心舌打ちをした。
それには、思った以上にルーファウスは冷静に物事を分析するという事も含まれている。

彼が、自分の身が危険だという状況で、技量があるに留まらず、動きの慣れについてまで見れるとは思わなかった。
ほぼ故意によって、自分を此処に連れてきたルーファウスの目が、生ぬるいものではないだろうとわかっていたはずなのに、彼の見る目は考えていた以上に養われている。

もっとも、拉致され監禁されるという状況も慣れている彼なのだから、その身を守る者たちも腕の立つ人材ばかりなのだろう。
故に、戦うものの力量も自然と目や感覚でわかるようになってしまうのだ。
解っていたつもりだが、やりすぎたらしい。

彼の身を守る事を重視していたためか、この世界に来て気を抜いていた為か。
自分の取りこぼした油断で、後処理をしなければならない恩人の事を考えると、は心に暗雲が立ち込めるようだった。

マテリアを使っているフリをしながら、魔法を使っていった方がよさそうだとも考えるが、この世界での魔法の平均的な威力を知らないため、それも面倒の種になる。

日常生活等はさておき、戦闘に関して普通のフリをするのが、これ程緻密なものだとは・・・。
戦い続ける時間が長過ぎたとは、思っていても知らないフリをした。

それは考えても仕方の無い事だったから。
穏やかな日常は、祖国を出たときに夢にしてしまった。
長い時を経た今では、それは所詮憧れであり幻であり、未来にや現実に結びつける糸が何処にあったかも忘れてしまったから。
これから探さなければと思ってはいるものの、夢になった平穏な生活がどんなものだったのかすら、今は漠然としかわからない。


だが、今考えるべきはそんな事ではなく、どうやってこのツメを引っ込めるかだ。
ザックスにしたように、「力が尽きた」などという嘘は、ルーファウスには通じないだろう。

それだけ彼の洞察力は鋭い。
彼の目をかいくぐる事は可能だったが、目の前の敵に焦ったせいで、逆に引っ込みがつかなくなってきている。

徐々に動きを鈍らせ、「瞬発力はあっても体力が無い」のだと印象付けなければ、後々どう突っ込まれるかわからなかった。
それもあくまで自然に、馬鹿に振舞わず、彼の目をかいくぐりながらだ。

可能な限り迎えと合流して戦線から離脱しなければならない。
戦う姿を長く見せるのは、何より危険だった。


そんな事を考えながら、瞳にも顔色にも出さずにルーファウスと歩く自分が滑稽に思える。
まるで悪党か珍獣になった気分だ。

人に化け、正体がバレないように必死に振舞う魔物・・・とも考えられるが、それは洒落にならないと、気分は一気に落ち込んでいく。
常人の平均。
普通の体力、戦闘能力、多方面への反応等、全てにおいて考えなければ出来なくなっているのは、少し悲しい事だった。

今も、そこには何もいないと知りながら、ルーファウスと共にすぐ傍の物陰に注意している。
同時に、無意識に遠くから聞こえる僅かな物音で、魔物との距離を測りながら、遭遇しないようにと歩調を誘導しているのだ。
普通はこんな事しないし、出来ない。無意識にやるもの、出来るのもおかしいのだ。

それ程、この身体には戦いが染み込んでいる。
そんな事を考えてしまうのは、出口が無い、捕らえられているという状況が、あの場所に居た頃と同じだからかもしれない。

迎えが誰とは知らないが、関係的にはセフィロスが有力だろう。
違ったなら違ったで、早々にこの場から退散したかった。

考えて、水面下で神経を済ませて、表面は能天気なフリをして、自分を冷静に見つめただけ疲れてくる。
この馬鹿馬鹿しい茶番も、昔ならば気にしなかったのに、今は楽しむのも億劫に感じた。
身に余るほどの力が自分と人間を離していくのを知ってしまっている今は、胸中を重くするだけに過ぎなかった。

自分で選んだ道に後悔は無いが、強大な力が欲しかったわけではないのだ。
ただ、この力を捨てて、いつかまた大切なものが出来た時、それを守れないなんて事が嫌なだけだ。

捨てることも出来なければ、捨て方も解らないが。



セフィロスは、この力量に感づいているが、全てを知っているわけでも見たわけでもない。
だが、彼は何をいう事も無く、恐らく先の戦闘を十数回目の前で繰り返しても何も言わないだろう。

無関心が半分、優しさが半分という、具合に。
不器用で幼ささえ感じるが、気遣いと優しさのある人間だというのが、数日間共に居たの印象だった。

記憶喪失の裏事情をしっているというのもあるが、無駄な危惧の必要ない彼の傍は、今のところ一番気を抜ける場所だった。








「疲れたか?」




早くセフィロスに会えないだろうかと考えた途端、油断が溜息になって漏れた。
ルーファウスに声をかけられ、数秒見つめ合ってからその事に気付き、は苦笑いを零す。

自棄にならないだけの冷静さは持っているつもりだが、やはり出るものは出てしまうのだろう。




「少し休むか?」
「平気。行こう。いつモンスターが来るかわからない」

「・・・・無理はするな。後から倒れたら困るのは私だ」
「倒れませんよ。このぐらいなら平気ですから」

「急ぐ必要は無い。
 既に迎えは此処に着いているのだから、下手に動くよりじっとしていた方が見つけやすいかもしれない。
 そこら辺の部屋に隠れていれば、モンスターもやり過ごせるだろう」
「わかりました」



手近にある部屋の扉を指すルーファウスに、は小さく頷き中に入った。
ドアの近くにある電気のスイッチを入れ、埃くさい部屋の中を見回す。

監禁されていた場所同様、殺風景な室内は端に壊れた木箱が積みあがり、破れたソファーが倒れていた。
壁際にある大きな本棚は既に蜘蛛の巣がかっており、ヒビの入った硝子テーブルは所々抜け落ちて、床に破片が散乱している。
扉を閉めたルーファウスは、転がっていたソファーを起こした。
近くにあった布を引っ張り出し、埃を払うとその上に掛けて、目でを促す。

ゲルニカの中にあったもの程ではないが、上等なものだっただろうソファは、腰を下ろすと丁度良い柔らかさだった。
ルーファウスもゆっくり隣に腰を下ろし、手にしていた銃の弾を入れ替える。

廊下にいるよりも、魔物達の物音は聞こえないが、それは向こうも同じ事。
室内への出入り口は、目の前の扉一つだけなので、背後を取られる心配は無かった。
もっとも、火を噴かれたらひとたまりも無いのだが、今のポケットに入っているマテリアの1つが氷属性のようなので、魔法で防ぐ事は出来る。

広さの見当もつかない建物の中、迎えが来るのが何時になるかはわからなかったが、此処で黙っていればボロが出る心配は無さそうだった。


と、その時、突然肩にかかった重みと、視界に入った金色に、は目を向けた。
見れば、ルーファウスが自分の肩にもたれかかり、力なく腕を垂らしている。

どうしたのかと身じろぎした途端、彼の体は崩れ落ち、首筋に小さな針が見えた。
途端、小さな痛みと同時に一瞬霞んだ視界に腕を見れば、ルーファウスの首に刺さっているのと同じ針が刺さっている。

それが何なのか、すぐに理解しルーファウスに解毒魔法を使いながら、は針が飛んできたと思われる方向を見た。
壁に並ぶ本棚の、本と本の隙間。
人の頭一つ入るぐらいのそこに、6つの赤い目玉を持った大きな蜘蛛を見つけた。

途端、それは口と思われる場所から腕に刺さっているのと同じ針を3本飛ばし、同時に本棚から飛び出してくる。
だが蜘蛛はこちらへ飛びつく事も新たな針を吐く事もしないまま、が放ったブリザドで本棚ごと氷漬けになった。
同時に、ルーファウスの背中を狙った針は、寸での所での手に捕らえられる。

中に閉じ込めた蜘蛛ごと、氷柱が砕け散る音が部屋に響く中、はルーファウスの首から針を抜き顔色を確かめた。
全身に回る前に解毒魔法を使ったため、命を落とすことは無いだろうが、青ざめて気を失う彼は戦闘不能だと一目でわかる。

手にしていた針と、腕に刺さった針を抜き捨てると、はすぐに彼にレイズをかけた。
アレイズやケアルを使うまでも無く、HPを全回復したルーファウスは意識を戻さない。
丁度休憩していたのだから、このまま寝かせていても問題ないだろうと考えると、は部屋の壁という壁を氷で固めた。

先程のように、何処か適当な場所に隠れていても、今のブリザドで凍りついてしまっただろう。
鼠1匹どころか蟻1匹も入り込めないように、壁の隙間や床板の割れ目も氷で埋めると、は彼を抱えたままソファに沈み込んだ。

一応も毒を受けているものの、それ程のダメージは無く毒も殆ど残っていない。
先の毒針は即死攻撃では無いようなので、二人のダメージの差はHPの差と、針が刺さった場所の違いだろう。

氷で囲まれた室内は、一見寒く思えるが、室温を常温にする事など造作も無かった。
念のため自分にも解毒魔法をかけ、再び外の気配に注意をしながら、は気を失ったままのルーファウスを覗き込んだ。

毒を解し、HPを回復した彼の顔色は平常に戻り、後は目覚めるのを待つだけのようだ。
地位ある者の跡継ぎは、だいたい軟弱か強靭かのどちらかに別れるが、彼は後者だったようだ。
細身ではあるが、適度な筋肉もあり、内面も方向性はどうあれ器のある人間だと考えて悪くないだろう。
少なくとも、自分はルーファウスには、それなりの器が備わっていると思っている。

騒動に乗じての正体・・・皮を被っているならその中身を暴こうと言う魂胆があったのだろう。
ドラゴンまで出てきたのは予想外だったようだが、お陰で彼にはそれなりの収穫を与えてしまった。

戦闘不能にさせたのは申し訳ないが、これは彼女には思いもよらない幸運だった。
おかげで、毒に浮かされ夢でも見たのだと言いのがれ出来るのだから、蜘蛛様様である。

機から見ても、自分がドラゴンを蹴り倒すだの殴り上げるだのするようには見えないだろう。
この先、彼の観察が輪を掛けることは予想できたが、そうしなければ彼を盾にするしかなかったのだ。
容易に倒せる敵を前に、それより非力な者を差し出して戦わせるなど、自分が彼を殺そうとしているようなものだった。

不可抗力とはいえ、後々の石拾いは長期戦になりそうな気がする。
尻尾を掴もうとするかもしれないが、それはまた皮を被れば良いだけの事。
ただ、あまり長々と相手を出来るほど、自分の気が長くないという事だけが、今のの唯一の危惧だった。


































「おう、奇遇だな」

血の飛び散る廊下。
重厚な扉の前に居たセフィロスは、聞きなれた声に振り向いた。

悠長に銃の弾を入れ替えながら歩いてくるレノは、軽く肩をすぼめて、二人の不在を語る。
敵のアジトに入ってから数十分。
近辺をウロつく敵や、放たれたと思われるモンスターを倒しながら、二人はルーファウス達を探していた。
お互い目に付く場所は探しつくし、残る1箇所に向っていた所、顔をあわせたのだ。


「そちらにも居なかったか」
「敵さんなら沢山いたぞ、と。ま、人間の方は余裕だったけどな」

「モンスターは、何処か別の場所で捕まえてきたのだろう。面倒な事だ」
「余裕だろ?」
「当然だ」


この近辺には生息していないはずのモンスターの出現も、驚きこそすれ、彼らにはさした問題ではなかった。
状況などすぐに理解出来たが、建物の中を闊歩するモンスターのレベルは一般人では手も足も出ないだろう。
武器を取り上げられているだろうルーファウスが、脱走などしたらすぐさま屍に変わるのは明白だった。

これまで彼は、何度かの誘拐の度、敵の隙をついて脱走や、自力での帰還をしてきた。
今回も、おそらくそうするだろうと考えると、事態はあまり好ましくない。

がいるならば、その身の安全は保障されているだろうが、物には限度というものがある。
ボロはなるべく少なくしてほしいが、そうもいかない状況かもしれない。


結局、早々に助けに向かった方が良いことに変わりは無かった。



「1階から3階までは見た。残るは地下だけだ」
「いかにも・・・って感じだな」


番号式のロックがかかっている扉の前、二人は一瞬目を合わせ、パネルを眺めた。
ロックの解除番号など、彼らが知るはずもなく、敵を連れて来ようにも、此処へ来るまで全て始末してしまった。
蹴り破れるほど薄い扉に厳重なロックがされているはずもなく、銃弾を打ち込んだとしても、この鉄の扉はびくともしないだろう。


「任せるぞ、と」


言って数歩下がったレノに、セフィロスは刀を構えると数太刀振り、扉に綺麗な太刀傷が出来上がる。
金属が擦れる音も次ぎ、轟音を立てて崩れ落ちた扉の中から、煙のように埃が舞い散り、彼は顔を顰めて数歩あとずさった。

流石と言わんばかりに口の端を吊り上げるレノは、頭上につけていたサングラスを目の位置にずらし、ポケットから出したハンカチで口元を覆った。


「行きますか」
「・・・・・」




お前、その格好に疑問は無いか?

思わず出そうになった言葉を飲み込み、セフィロスも埃が落ち着き始めた地下の入り口を見つめた。
どちらが誘拐犯なのか。
怪しさ満点のレノを無視する事に決め、彼は薄暗い地下の廊下を眺めた。

上手く目を開けられず、視界は良いと言えないが、隣の赤毛のような格好は流石に気が引ける。
そもそも、サングラスなど持って来てはいないが、ハンカチで口元を覆うのも嫌だった。


「レノ、見えるか?」
「あー・・・サングラスが汚れ・・って、おあああ!!」


叫ぶと同時に、レノはセフィロスの身体を引き、入り口の脇へ倒れこんだ。
背中に鈍い衝撃を感じると同時に、二人が居た地下への入り口から真っ赤な炎が溢れ出す。
ギリギリ直撃を避けはしたものの、熱で辺りの温度が一気に上がったのはわかった。


「っ・・・クソ!地下もいやがんのかよ!!」
「炎属性か・・・」

「属性っつーか、多分ニブルドラゴンだと思うけどな」
「・・・・・面倒な事だ」


揃って大きな溜息をつき、ゆっくり起き上がった二人は、出口へ向かって来る大きな足音に武器を構える。
ゆっくりと出てきたドラゴンの鼻先から、微かに漏れた炎に警戒しながら、飛び出すタイミングを計った。
辺りを警戒しながら出てきたドラゴンの頭に、セフィロスは宙に飛び上がる。

床を踏みしめた音に、ドラゴンが振り向いた瞬間、レノの撃った銃弾がドラゴンの目に当たった。
次の瞬間、地に下りてきたセフィロスの刀が振り下ろされ、炎とは違う赤を噴出しながら、ドラゴンの首が転がり落ちる。

熱い床にジュウジュウと音を立てながら広がる血が、嫌な匂いを広げ、悲鳴を上げる事無く息絶えたドラゴンの頭がゴロゴロと転がった。
首が離れたドラゴンの体は、ズルズルと壁にもたれかかりながら倒れていく。

力なく横たわった手足の合間を歩きながら、砂埃の舞う地下への階段に、二つの影が消えていった。



2006.05.26 Rika
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