次話前話小説目次 

奴に欠片でも父親を求めた私が馬鹿だった
僅かでもそれが見えたなら躊躇してやろうと考えた私が間違っていた

だが、お陰でもう迷いは無い
どちらにしろ神羅はいずれ私のものになるのだ
腐った金の力などたかが知れている
欲に塗れてプライドも信念も無い人間になどなるものか

私は恐怖・・・誰にも根付く僅かな感情を使いこの世界を支配する
神羅という存在、私という存在に、全ての者が恐れ、畏怖し、跪くのだ
その前には、欲に甘える脆弱な権力など、塵に等しい


私は


お前のようにはならない




Illusion sand − 15





口に広がる葡萄の香りに、ルーファウスは大きく溜息をついた。
無造作に置かれた上等なワインを、空になったグラスに注ぎ、一口だけ飲み込むと柔らかなソファにもたれかかる。

差し込む昼間の太陽のせいか、珍しく荒れ沈む気分のせいか、アルコールの廻りは悪い。
日も沈まぬうちから酔うつもりは無かったが、鳩尾に溜まる鬱憤をどうにかして散らしたかった。

室内に流れるクラッシックさえ鬱陶しく、殴りつけるようにリモコンの電源ボタンを押せば、ブツリと切れた音色の代わりに、窓から波の音が聞こえる。

何時に無く耳障りに感じるそれに、早足で窓に向うと、硝子が割れるような勢いで窓を閉めた。

子供のような八つ当たりを繰り返す自分に気付いた途端、大きな溜息が漏れる。
いつもの冷静さは何処へいったのかと、自嘲気味に口を歪めながら、彼はソファに身を沈ませた。

父親の反応などいくらでも予想していたというのに、胸の内は妙に晴れない。
なのに、何処か吹っ切れたような感覚が、次の一手二手を算段していく。

閉めたばかりの窓から覗く空に、行動を起したがる身体が言う事をきかず、苛立ちさえ感じる。
止める理性と、脳がはじき出す答えに感情を押さえながら、ルーファウスはグラスに残るワインを煽った。

ビーチではしゃぐ女を引っ掛け、そのまま夜まで溺れれば、幾分か気は晴れるかもしれない。
だが、社長の決めた会食やらその後の事を考えると、気が済むまで戯れる時間の余裕は無かった。


と、そこで、ふと昼間会った女性の事を思い出した。


といっただろうか。
常夏の町では浮いてしまうほど、透けるような白磁の肌をした女。
艶めく黒髪は傍らに居たセフィロスと対であるかのように、だが、あの男の傍に在りながら一目で美しいと思わせる容姿をしていた。

照りつける太陽の下、そこだけが月灯りの世界のような静謐。
水面に沈む月の様な、冷たく柔らかな空気を持った女だった。

美しい女にも飽きていたはずが、一目で欲しいと思わせた。
彼女の目も、纏う空気も、ただの女が持つものではないという事に、一体どれ程の人間が気付いているだろう。

セフィロスは、既にそれを知っているか、薄々感づいてはいるかもしれない。
ツォンは頭がいいが、角を隠されているかそれ程彼女を見ていないのか、まだ気付いていない。


記憶喪失の人間があれ程不安の無い眼をしている時点で、気付かない方がおかしい。
全く解っていないハイデッカーも社長も、そろそろ店を畳むべきだ。
トップが無能という事は、それだけで重罪だというのに。

怪しいと思わないのか?

軽口を叩いて、それに乗ってくればクロと判断するつもりだった。
だが、彼女の目は、たとえ社長に邪魔されなくとも、首を縦に振る事は無いと言っているようだった。

だから、異性としても、傍に置く者としても、狂いはないと自負する目が手を伸ばせと言う。
それは、この腕が掲げる野望が生み出した本能にも似ていた。

脳内で出来上がっている神羅上層部には、現職の人間は殆ど切捨てられている。
もし彼女が、神羅や自分に仇なす者でなく、才と器を持っていたなら・・・是非、この手に入れたいものだ。



「哀れなものだ・・・」



既にの首は神羅に繋がれているも同然。
神羅に拾われたのが、彼女の最たる幸運であり、同等の不幸だろう。


小さく息をつき、目を閉じれば、澄まされた耳に廊下から扉を開ける音がする。
そう遠くない場所の音に、が隣の部屋だった事を思い出し、ルーファウスは瞼を開けた。

同時にまた聞こえた扉の音に、どうやらセフィロスが彼女の部屋から自分の部屋へ戻ったのだろうと考えた。
彼はの、かなり過保護な保護者だとツォンが言っていた。
あの冷たい男が過保護など、何の冗談かと思ったが、どうやら本当らしい。

セフィロスもまた、神羅に首を繋がれているも同然だが、それは上辺だけに過ぎない。
あの男が自由を手に入れようとした時、一体誰が止められるだろう。

神羅が彼女に仇となるなら、あの英雄はその首を繋ぐ糸を造作も無く引きちぎるかもしれない。
だが、逆に彼女が神羅に繋がれ従順である限り、あの英雄も神羅との繋がりを切りはしないだろう。

セフィロスと
ルーファウスにとっては、どちらも欲しい人間だった。

腐った人間の元に置くには、勿体無い。それこそ宝の持ち腐れだろう。

だが、たった数秒の逢瀬で彼女の全てが解ったわけではない。
ルーファウスはこれから、その直感を確かめねばならないし、出来るなら今すぐにでも行動を起したいと思った。

ミッドガルに戻れば、自分も彼女も時間の余裕など皆無。

時間つぶしには丁度いいと、ルーファウスは微かに口の端を歪めると、いつも身に付けている護身用の銃を懐に忍ばせ、沈黙に帰る部屋を出た。






廊下にはそれぞれの部屋の護衛として呼ばれたらしい、数人のタークスがいた。
ルーファウスにはレノ。社長にはツォン。ハイデッカーにはルードが、それぞれ部屋の前に控えていた。


自分の部屋の前に居たレノに何処へ行くのかと引き止められたが、散歩ぐらいさせろと言って隣の部屋の前に立つ。
何かレノが小さく声を漏らした気がするが、ルーファウスにとってはどうでも良い事だった。


彼女の部屋にも、護衛に呼ばれたタークスが居るのかと思ったが、その役目はセフィロスが行うらしい。
が、彼は今自分の部屋に入ったままで、の部屋の前は無人。

廊下に精鋭が3人も居て、尚且つ英雄までいるのだから、相当頭が馬鹿でない限り何か仕出かすことはないだろう。
が、逆に守られる立場としては、軟禁されているようで少々息が詰まる気がした。
気晴らしにと誘えば、恐らくも外へ出たがるだろうと、ルーファウルは迷わず部屋の扉を叩く。

扉越しの返事の後、近づいてくる足音と同時に、扉を開ける音が響く。
が、まだ開けられていない目の前の扉に、音のした方を振り向くと、扉から顔を覗かせるセフィロスが居た。

一瞬、何故とルーファウスは思ったが、すぐに答えに行き着く。
よもや、ここまでセフィロスが過保護とは思っておらず、その行動に彼は柄にも無く目を丸くした。


「聞いていた通り・・・随分な保護者ぶりだな」
「・・・・・彼女に何の用だ」

「どちら様ですか?」


意図してではないが、扉越しに尋ねた声に、二人の会話を阻は阻まれた。
セフィロスから彼女の部屋のドアへ視線を移したルーファウスは、周りに居る人間など気にしないように、彼女に話しかける。


「ルーファウスだ。先程会っただろう?開けてくれないか?」
「少々お待ち下さい」


すぐに扉を開けられた扉から、目当ての彼女が顔を出し、ルーファウスは極上の笑みを浮かべる。
大抵の女は、これで頬を染めて見惚れるか、何も言わず室内に促すので、彼もそれを予想していた。


「先程は見苦しい所を見せた。
 お詫びと言っては何だが・・・これから散歩にでも行かないか?
 会食までには時間がある。部屋に篭っているだけでは息も詰まるだろう。
 もちろん、君がよければ・・・の話しだが」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私はかまいませんが・・・・セフィロス・・・」



期待に反し、妙な沈黙の後微妙な返事をした事に加え、眉一つ動かさなかったに、ルーファウスは一瞬面食らった。
しかも、その後許可を問うようにセフィロスの名を呼んだ彼女に、逆にルーファウスの眉が動く。

彼女の保護者であり、一応は監視役も勤めているセフィロスに、が許可を求めるのは当然。
当然なのだが、何故だか無性に腹が立つ。
すぐに余裕の笑みに表情を戻すものの、ルーファウスの腹の中で渦巻く感情が消し去れるわけではなかった。

いっそ、彼女の了承の意から、勝ち誇った笑みでもくれてやろうかと、彼はセフィロスを見る。
が、そこには特に何の感情も無く、恐らく警護の面等について数秒考えるだけの彼が居た。

と同じように、特に何の障害も問題もあるわけでもないという表情。
だが、懇意にしている二人のそれは、まるで自分など眼中にないとさえ受け取れてならない。

彼女もセフィロスも意図したわけではないが、その遣り取りにルーファウスの男としてのプライドは逆撫でされていた。
それを察して、笑いを堪えるレノに、更に腹が立つ。


「・・・・いだろう。が・・・・」
「・・・心得ています」
「なら良い。気をつけて行ってこい」
「はい」



大人になれ、私。
私は・・・そう、神羅を、世界を手に入れる男なのだ。
これぐらいの事で・・・・フッ・・・・

熱くもうざったくもないものの、ある種の二人の世界を作る二人に、ルーファウスは心の中で言い聞かせた。
彼女を連れて行けるとなれば、主導権はこちらのもの。

後は野となれ山となれ。さらば英雄、お前の上司は私なのだ。未来の主人は私なのだ。

最後に極上の笑みをセフィロスに向け、「感謝する」と言い残すと、ルーファウスはを引き寄せ歩き出す。
さり気無く彼女の腰に手を回しながら、護衛について来ようとするレノを目で制す。

最後のおまけと、勝ち誇る意地の悪い笑みをセフィロスにくれてやった。

が、横目で眺めたそこには、既に閉じられた扉だけがあり、英雄の姿など影も残っていなかった。


「・・・・・・・・・・」
「副社長、どうかなさいましたか?」
「いや、何でもない。さて・・・・そうだな、まずは街を案内しよう」
「よろしくお願いします」
「フッ敬語はやめろ。それと、ルーファウスでいい」
「どうも」


沸々と煮えたぎる怒り。
傷つけられた男としての自尊心を表情から隠しながら、ルーファウスは打倒セフィロスと心に炎を燃やすのだった。




















腰に回された手など、全く意識していないは、これからルーファウスとする会話に内心構える。
確かに息抜きをするのは悪くないが、記憶喪失という体面上、ボロを出すわけにはいかないのだ。
それが、セフィロスが言葉にせず、だがが頷いた言葉の内容。

初対面時の遣り取りで、ルーファウスの下心云々については、一応の警戒をすべきなのかもしれない。
が、例え実力行使をされても、一介のボンボン相手にが負けるはずなど無く、セフィロスもその心配は除外していた。
言葉巧みに流されたとしても、それを脱する事が出来る脳は持っているだろう。

もっとも、女性をエスコートするに当たり、男性が腰に手を回すのは当然の流れになる。
それを自然とやってのけ、言葉が無くとも、それが女性への礼儀と理解させるだけの品格を、ルーファウスは持っていた。

それは、セフィロスやザックスとの違いでもある。
セフィロスの場合は何か危険があったのかと相手に思わせ、ザックスの場合は笑いを取るか下心か血迷ったか調子に乗ったかという具合だ。

一般的な家庭で育つ少女達には驚きとなるそれも、上流階級育ちのには普通のことにしか思えない。
記憶云々ではなく、体がそれを覚えているようだ。
とはいえ、そう日常的に誰かに手を取り歩いていたわけではなく、貴婦人としての教養の一端だったに過ぎないが。



あ・・・・普通は腰に手を回されたら驚くんだよな・・・・。


早速一つ目の失敗を見つけて、は内心小さく舌打ちをした。
が、「それはルーファウスの動作があまりに自然だったので気付かなかった」と言えば、品格の差として誤魔化せるだろう。

プラスマイナス0に出来ると考えている間に、二人はホテルから出て町へと歩き出す。

灼熱の太陽に照らされながら、海が運んだ風に肌を冷やされ、高く伸びる椰子の影をなぞるような道を歩く。
賑やかな露店が並ぶ道は、休暇を楽しみ集う人々や、この町に住む人々に溢れていた。
何処からか聞こえる威勢のいい客引きの声や、はしゃぐ子供と少女達の声。

確かに存在する「生きる町」に、は目を緩めてそれを眺める。
記憶を辿り霞む情景を思うだけだったそこに、自分が存在している事が夢のようだった。
だが、人込に流され、はぐれないようにと、しっかり腰に添えられたルーファウスの手の感触が、現実だと教えてくれる。

それは別の意図で触れている手であったが、には、自分がそこに居ると言う何よりの確証だった。



「ルーファウス、ありがとうございます」
「気にするな。私も気晴らししたかった」



見上げて柔らかく微笑むに、ルーファウスはかすかに口の端を上げて答える。
世の女の見本にしたくなるような彼女の笑みに、言葉を失いそうになったのは、少し悔しい気がするので黙っておいた。

あのセフィロスが傍に置きたくなるのも理解できる。
ほんの一瞬、彼女が微かに目を緩めただけで、その隣は何処より居心地のよい場所に思えた。

それは、凡庸な家庭で育つ者にとっては、珍しくも無いものだろう。
だが、跡継ぎとして、戦う者として幼い頃から育てられた自分達には知ることの出来なかった場所なのかもしれない。

あの家は日の光が入って明るくて、だがいつも冷たかった。
神羅は栄光という光と大きな力を後ろ盾にしながら、流れる血と求められる力に、凍えるようだった。

だから自分達は、こんなにも早急に彼女に惹かれているのだ。
氷の世界に迷い込んだ彼女を、無償で平等な温もりを与えてくれる女神と錯覚してしまうのだ。


考えて、急激に彼女が欲しくなった。
それは強く、大きく、願いという欲望となり、胸の内に押し寄せる荒波にも似る。

衝動と同時に、傍に置くことへの恐れを感じた。
傍らにある事が、自らの甘えとなり、進むと決めた道への躊躇に成り得るだろう。

長く傍に居ることは、危険だと思った。
それはいつか、これまで作り上げてきた自分を捨てるという選択を迫られる切欠になるだろう。

無害であるが故に有害。
自分にとって、彼女は何より危険な存在になるかもしれないと、彼は穏やかになっていく心の片隅で考えていた。


こんな時、こんな未来を見る自分は、翼を縛る鎖の無いセフィロスが羨ましかった。
柔らかな瞳を輝かせながら、雑多で埃っぽい町並みを見るに、それを知られることはきっとないだろう。



高級店が立ち並ぶ地区を避けたのはルーファウスの判断だった。
貧富の差を見せ付けるような場所を歩いても、に気負わせるだけかと考えた。

ただでさえ、記憶の喪失という非現実にいる彼女に、わざわざそれを思い出させる事も無い。
誰にも混ざれるような、こういう場所に連れて来る事の方が、彼女にとっては良い息抜きになるだろう。
見る限り、結果はどうやら成功らしい。

四六時中護衛の保護者と共に居て、軍の中にいるよりも、一般という枠の中に居た方が安心する。
生まれや育ちは知らないが、自分の知る限り要人の手の中に居る女が行方知れずになったと言う話しは聞いていない。

となれば、恐らくは一般の出だろうと、ルーファウスは考えていた。
だから余計に、他の町ににた、賑わう場所を歩かせる事が良いと思った。

その選択には、セフィロスへの小さな対抗意識もあったが、女性を大切にするのは紳士としてのたしなみ。
何だかんだで自分も金持ちの子だと考えてしまうが、擦り込まれてしまったものは今更どうしようもなかった。

は、ただ深く考えるでもなくまとわりつく女とは違っている。
それぐらいは、ルーファウスにも解っているつもりだった。

故に、経験が出す2択3択問題で行動を決めるのではなく、思考と直感を織り交ぜて考えねばならない。
が、自室でめぐらせていた鬱憤交じりの思考のお陰か、今はそちらの方が楽に思えた。



「さて・・・何処を見ようか?」
「ルーファウス、アレ何だ?あの妙な禍々しくも愛らしいお面だ」



が見つめる先を追った先には、地元独特の雑貨や土産が飾られる露天があった。
柱に掛けられた大きな面は、この地方では有名であり、古来は神の化身として崇められてたと聞く。

縦の楕円に大きな目鼻。喜びを象る厚い唇とむき出しの歯。
黄と赤で全体に着色された紋様は、怒りとも悲しみともとれる表情を作り出すが、形状が形状なだけに、笑いを誘わずにはいられない。
世界史の端に、文化として取り上げられていた面だったので、それの知識はルーファウスもある程度覚えていた。

が、いくら目を引くからといって、開口一番にそれを聞くの感性がわからない。
普通は、その隣の店にある、珊瑚で出来た細かい細工の首飾りを見るものではなかろうか・・・・。
いや、綺麗な珊瑚の隣にあるからこそ、余計に目を引くのかもしれない。


「凄まじいチョイスだな。確かに目を引くが・・・・・。
 あれは、この地方の古い信仰の名残だ。
 確か、幸運をもたらすと言われていた気がするが・・・・・」
「幸運・・・・・・・・ねぇ・・・・」

「今にも不幸に叫びそうに見えるな」
「暗がりから出てこられたら、驚くでしょうね」

「そんな発想をするお前がわからん・・・・」
「・・・・・・・・あ、武器屋がある!」

「そのチョイスもわからん・・・」



普通な状況ではないからか、女性にしては妙な物に目移りする彼女に、ルーファウスは苦笑いを零す。
だが、他の女と一緒に居る時とは比べ物にならないほど退屈を感じなかった。
そう思わせる彼女も、この時間も、嫌いではないと思う。



進むごとに道は開け、途切れた露店の先には白い砂浜が広がっていた。
青緑に広がる海にはしゃぐ人々や、シートの上で肌を焼く人々の合間を縫うように歩き、人のまばらな方へと、ルーファウスは進む。

いくつかの看板に仕切られた砂の上を歩き、先程縫って歩いていた人々が豆粒に見える程の場所に来ると、彼は立ち止まる。


「ここは私の家のプライベートビーチだ。
 あちらは人が多すぎるからな。休むなら、こちらの方がいいだろう」
「気を使わせてすまない。ありがとう」

「君は、口調が少々男らしいな」
「・・・・まぁいいでしょう」

「・・・少々勿体無い気もするが、悪くないな」
「物好きな人だな・・・」

「そうだな。まぁゆっくりしろ。あまり長居は出来ないからな」
「ええ」


言って砂の上に腰を下ろしたルーファウスに続き、もそこに腰を下ろした。
確かに此処は、人でごった返すビーチより、海がよく見える。
耳障りな喧騒もなく、静かな波の音だけが響いていた。



どれだけ時が経ったか。
数分か、十数分か、それほど長い時間は経っていなかったが、背後の草むらからする僅かな気配に、はそっと振り向いた。
姿は見えないが、小さな気配と押し殺す殺気を感じ、そろそろ行くべきかと考える。

ルーファウスの立場上、ここで何者かに襲われたとしても、不思議ではない。
武器が無くとも体術に覚えがあるにとっては、彼の身を守る事など容易かった。

だが、ただの非力な一般女性としての皮を被り続けなければならない今、彼女が拳を使うことは出来ないのだ。
ボロが出れば、後々面倒になるのは明白であり、それらの責任はセフィロスの上にのしかかる。

いまするべき行動は、危機への対処ではなく回避。
善は急げと言うように、早々にこの場から立ち去り人込に紛れた方が、どちらの行動も出来る。



「どうした。何かあったか?」
「いや・・・だが、そろそろ行こう。宿までは道が長い」

「もう少し羽根を伸ばしていたかった所だが・・・仕方ない。
 また付き合ってくれるのだろう?」
「私でよければ」




言って立ち上がり、砂を払うルーファウスを見ながら、は茂みに意識を向ける。
微動だにしない気配は、本能に従う獣のものではないとすぐにわかった。

姿も気配も殺気さえも、上手く消しているほうだとは思うが、力の差というのはこういう所で大きいものだ。
多少腕に覚えがあれば、違和感ぐらいは感じるだろうが、ルーファウスは全く気付いていないようだ。
故に護衛を部屋の外に置いていたのだが、今はが彼の護衛をせねばならないようだ。

状況的には、身動きの取れない役立たずでいるしかないので、護衛にならない護衛だが・・・。



「ここから見る海は、どの時間も甲乙付けがたい。
 ・・・またつれて来よう」
「楽しみにしてるよ」


の答えに、小さく笑ったルーファウスは、来る時同様にまた彼女の腰へ手を回した。
随分慣れているようだと考えながら、護る分にはこの体制は好都合だと、もそのまま足跡を引き返そうとする。
その時だ。

軍の宿営に居た時、日きりなしに響いていた銃声が一つ、茂みの奥から鳴り響いた。
同時に、踏み出そうとした先の砂に弾が打ち込まれ、一握り程の砂が弾け上がる。

蜂の巣にされるかと、は咄嗟にルーファウスの身体を掴んだ。
が、続く銃声は響く事無く、代わりに茂みの中から数人の武装した男達が姿を現す。


「ルーファウス・神羅だな」
「想像はつくが、一応聞いてやろう。お前達は何者だ?」


腕に力を込め、を背に隠しながらルーファウスは男達に問うた。
ちらりと覗いたルーファウスの顔は、怯えも驚きも無く、余裕の笑みさえ浮かべている。
つまり、これは予測の中の一片に確かに含まれており、この状況も彼は慣れているという事だろう。
解っていて護衛のタークスをつれてこないなんて、馬鹿か大物か微妙な子だ。

出来れば立ち位置は逆の方が嬉しかっただが、とりあえず怯えたフリをして彼のシャツを握り締める。
その方が、撃たれた時に彼を放り投げ、襲撃者達を叩き伏せられるのだ。


「俺達はアバランチだ。お前の会社が今戦っている・・・な」
「いい御身分だよな。俺達の仲間は、今もお前らの軍に殺されてるってのに」
「そんな時、神羅の跡継ぎはビーチで美女を口説いてるってか?羨ましいね」
「残念だな姉ちゃん。このボンクラ息子のお眼鏡にかなったのが、運の尽きってやつだ」

「彼女に手を出すな」


出してくれた方が好都合なんだがな・・・・。
とは流石にいう事もできず、は黙って彼らの遣り取りを見守る事にした。

状況的には、ルーファウスは頼もしい王子様なのかもしれない。
が、ぶっちゃけた所、今の彼はちょっとばかり邪魔だったりする・・・なんて考えちゃぁいけない。


「ハッ!手を出すなねぇ・・・随分都合がいい台詞だな」
「お前ら神羅が、どれだけ女子供を殺したと思ってるんだ?」
「安心しろよ姉ちゃん。俺達は神羅とは違う」
「だが、無傷でいさせるという保障はない。覚えておけ」


安心しろ野郎共。私は一般婦女子とは違う。
そしてから君たちを無傷でいさせる保障は全く無い。
そんな君たちに、こっそり今日一番の残念賞をあげよう。
な〜んて、口には出さないけどな・・・・。

まぁ、お陰でちょっと面白いことになってきたとか・・・考えちゃぁいけない。
今自分達の身が安全な理由がルーファウスの存在だという事に、彼らは気付く事は無いだろう。
残念賞〜。


「彼女は無関係だ。見逃してはくれないか?」



お願いという言葉とは天と地程離れた声、表情で言うルーファウスに、襲撃者達は挑発されたように表情をこわばらせる。
絶対的な力の差、人格の差を見せ付けるかのような態度は、相手の気力を削ぐ手の一つだ。

だが、どうやら彼らは、そんな事は気にしていないのか、承知の上だったらしい。


「念には念を入れている。悪いが彼女だけを帰す訳にはいかない」
「ついて来てもらおう」



背中に銃口をつきつけられ、囲む男達が進むままに、二人は森の中へと消えていった。

残るのは波の音と砂の跡のみ。

そこに彼女が残す導がある事など、襲撃者達もルーファウスも気付く事は無かった。




13話の倍の長さになりましたな・・・。
で、何でルーファウスとセフィロスのVSっぽくなってるんだ・・・? セフィロス不戦勝。レノ蚊帳の外。アンタ頑張りなさいよぉおおお!!
さんは、上流階級出です。
2005.05.16 Rika
次話前話小説目次