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「美しい・・・」 開口一番にそう言ったルーファウスに、そこに居た全員がまさかと思った。 「名前は?」 「と申します」 「・・・・・美しい貴女にぴったりの名だ」 「・・・どうも」 皆の視線が社長に向う。 「私の名はルーファウス。神羅カンパニーの次期社長だ。親父は年だからな。じき神羅は・・いや、世界は私のものになる」 父親であり現社長の目が、鈍く金色に輝いた気がした。 「どうだ?その隣で咲く花になる気はないか?」 皆の心が一つになった。 親子だ・・・・と。 「・・・が、それはお前がそれ程の女であればの話しだ。戯れに置くのも悪くはないが、美しいだけの花はいらん。、お前が私の傍で咲き誇る価値のある女か、見せてもらうとしよう」 「この馬鹿息子がぁあああ!!!」 の手をそっと取り、甲に口付けようとしたルーファウス目掛け、プレジデント親父の、怒りの鉄拳が飛んだ。 Illusion sand − 14 「よく似た親子でしたね」 「そうだな」 用意されたホテルの部屋に着いたは、ようやくそれまで黙っていた感想を零した。 部屋の設備も、知らないものだらけだろうと訪れたセフィロスは、先程のことを思い出しながら静かに答える。 今頃は社長の部屋で親子喧嘩か説教でもしているのだろう。 自分の部屋から、向かいにあるの部屋へ廊下へ出ただけでも、社長の怒鳴り声のようなものが響いていた。 暑いのによくやるものだと思う。 いや、暑いからやるのだろうか? 「飲み物は冷蔵庫の中だ・・・が、冷蔵庫はわかるか?」 「いえ」 「そうか・・・」 本当に、解らない事だらけだと考えながら、セフィロスは彼女を呼び、目に付くものの説明をはじめた。 電気のスイッチ、エアコン、テレビ、シャワー、電話、インターホン、オートロック、カードキー、水洗トイレ、他にも沢山。 説明しながら、姿や思考は大人でも、彼女のここでの知識は赤子同然なのだと、今更ながらに気付く。 だが、彼女は「何故」と聞くことは無く、それが何の役割か、どんな事ができるのかという事だけで納得していた。 彼女なりの気遣いなのだとすぐに解ったが、よくこんな解らないものだらけで平気でいられると思う。 平気なフリをしているだけなのだろうか? お陰で妙なイラつきもなく、説明はすぐに終わってしまったが、彼はそのまま部屋を出る気にはなれなかった。 「他に解らない事はないか?」 「粗方説明していただきましたから・・・恐らくは」 「そうか・・・・」 「何か飲みますか?」 「淹れられるか?」 「多分・・・」 小さく笑って、は説明されたばかりの冷蔵庫から、アイスコーヒーのボトルを出した。 ケースに入れられたグラスを出し、氷を入れると、教えられた通りにキャップを開けて中身を注ぐ。 残ったボトルを冷蔵庫に仕舞い、失敗はないだろうかとセフィロスを見れば、彼は言葉の代わりに小さく頷いた。 ソファに腰掛けるセフィロスにグラスを渡し、も向かい合ってソファに腰掛ける。 上等な皮で出来たそれは座り心地も良く、長くそのままでいれば眠気が襲ってきそうだった。 室内に流れている有線放送からは心地よい弦の響きが流れ、開けられた窓から届く漣と溶け合う。 そよ風に揺れるカーテンが目に涼しく、遠く広がる天地の青に、楽園と呼ばれるのが解る気がした。 「我慢してるのか?」 「は?何をですか?」 「・・・・・不安に・・・ならないのか?」 「・・・・・・・・」 昨夜のように真っ直ぐ見つめて言うセフィロスに、は目を丸くする。 何に対しての不安か、解らなくはないが、どうやら彼は自分を買いかぶっているらしい。 見知らぬ土地、見知らぬ物に囲まれれば、確かに人は恐れ、不安に怯えるだろう。 が、ここが異世界であると知った時、割り切る以外の思考を彼女は持っていなかった。 怯えて何か変わるわけでもなければ、不安になってなにか得られるわけではない。 そこで開き直ってしまうのは、既に彼女の習性のようなものだった。 なってしまったもの、来てしまったものを他にどうしろというのか。 不安に肩を震わせ、誰かに頼り、その背について歩くのが、一般婦女子の反応なのだろう。 だが、残念ながら自分はそれほど女性的な性格はしていないのだ。 そんな事では、軍を率いて戦う事も出来なければ、狭間で正気を保ち続ける事も出来ない。 出来ないというか、普通の女性はそんな事しようと思わない。 この、自他共に認め讃えられる、図太さを早々に教えてやらねば不憫だろう。 気遣いが報われない時ほど、空しいものは無い。 空回っていると知った時ほど、恥ずかしいものは無い。 昔から、人が自分に抱くイメージは、か弱い貴婦人という傾向が多く見られた。 外見からくる第一印象が大きな理由なのだろうが、相手が描いた理想のイメージを壊すのは、どんな時も罪の意識と何とも言えない空しさを感じるのだ。 もっとも、セフィロスの場合に限っては、血まみれの正体不明生物という第一印象だったと思われるので、いくらか心配は和らぐが。 「ご心配には及びません。私には不安も、戸惑いもありませんから」 「・・・・・・」 「むしろ喜んでいるくらいです。 実際の所、あのまま次元の狭間で永遠に生きていくのかと思っていました。 ですが、たとえ知らぬ世界とはいえ、私はこうして出る事が出来のです。 あそこに比べれば、この世界は楽園そのもの。何を不安に思う必要があるんです? まぁ多少の知識不足はやむを得ないでしょうけれど、時間は沢山あります」 「・・・・・・・・」 正直な事を言っているのに、探るような目で見てくるセフィロスには内心大きく溜息をついた。 確かに、見たことも無い物ばかりで多少驚いたりしたが、それはさして口に出すほどの事でもなかったのだ。 自分の中では、「へー。そうなんだ」の一言で片付けてしまっているのに、彼は何を期待しているのか。 わからん・・・ 「・・・・・・・セフィロス?」 「何だ?」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「私は結構幸せです」 「それは昨日の夜聞いた」 「貴方は、私に何を言って欲しいのですか?」 「・・・・・・・・わからん」 「オイ」 お前がわからんっつの・・・・ 完全に止まった会話に、はどうしたら良いものかと思考をめぐらせる。 が、それ以上その話題を引いても何が出てくるわけでもないという事ぐらいはわかった。 「では、それがわかったら、聞きに来て下さい」 返す返事は無いが、セフィロスは一度だけ小さく頷き、一応の納得をした。 実際の所、聞きたい事も言いたい事も山ほどあった。 ただの兵を、数時間で格段に強くする指導力と技量はどれほどのものなのか。 何故こんなにも落ち着いて、幸せだと言えるのか。 魔物ばかりの場所に閉じ込められ、どうやって生きていられたのか。 染み付くほどの血の匂い、どうやったら洗い落ちないほどになるのか。 どれだけ血を、どれだけ長い間浴びればそうなるのか。 どれだけそこにいた?狭間に閉じ込められた時は幾つだった?一体今幾つなんだ? 誰も居ない、自分の知ることのない狭間という世界で、何故正気でいられたんだ? どうやったらそんなに強くなれるんだ? 死を望んだ事は無かったのか? 遠くの情景を見ながら、瞼の裏に見ている場所は、この世界じゃないんだろう? その目に、この世界はどんな風に映っていいる? この世界を見ながら、別の場所を眺めて、割り切れていると考えているのか? 気付いていないのか? それが勘違いじゃない事ぐらい、見てれば解る。 眠っている間だって、何度も誰かを呼んでいたのに、そう簡単に割り切れるはずないだろう? 俺の頭を撫でてくれたお前は、そんなに冷たい人間には見えなかった。 「、俺は・・・お前の事が知りたい」 「・・・・・・・・」 ん? ・・・・もしかして私 ・・・口説かれてるのか? いや、何か違うな、あの目は。うん。違う違う。 愛や情熱の言葉とは程遠い、疑問が混じった見透かすようなセフィロスの視線に、は一人納得した。 だが、彼が何を指してそれを言ったのか、何故聞いてこないのか彼女には全くわからない。 「・・・・・・・・聞いてくだされば、何でもお答えしますよ。気を使わないで下さい」 「・・・・・・・・・そうか」 言って、また黙ったセフィロスに、はどうしたものかと、引き攣る顔を正す。 一方のセフィロスは、彼女の答えこそ気遣いではないかと、口に出せない言葉を飲み込む。 お互いの考えが全く別方向に飛散しているとは知らず、二人はそのまま暫く見つめあっていた。 「無理はせず、とっとと隠居しろ親父。」 「お前のような奴に会社を任せられるか!修行して出直して来い!!」 「俺は親父の体を心配して言っているんだ。だから神羅を俺によこせ」 「何が心配だ!お前は力が欲しいだけだろうが!ケツの青い小僧が何を言う!」 「こんな孝行息子を邪険にするのか?寂しいな。さぁ、息子の情に流されて隠居するがいい」 「やかましい!そんなものに流されて世界を手に乗せられるか!とにかくお前に会社はやらん!」 「明日も10年後も宇宙の歴史に比べれば同じだろう。心の狭いことだ」 「屁理屈をこねるな!もういい、とっとと海にでも山にでも遊びに行ってこい!」 怒り心頭のプレジデントに部屋から蹴り出され、ルーファウスはようやく説教から解放された。 部屋の外に控えていたツォンに受け止められ、立ち上がると閉じられた扉に向って鼻で笑う。 「お怪我はございませんか?」 「平気だ。・・・全く、軽い冗談なのだがな。親父は血の気が多すぎる」 鬱陶しげに溜息をつくルーファウスは、服の汚れを払い、落ちてきた前髪をかき上げた。 毎度の親子喧嘩に慣れた自分に溜息をつきそうになりながら、ツォンはポケットに仕舞っていた部屋のキーを渡す。 「ルーファウス様を気遣っての事だと思いますが」 「気色の悪い事を言うな。 あの男は薄汚れた権力にしがみついてるだけだ。 私と奴の間にある、血の繋がりなど、何の価値もない。 あれでは、軽蔑された息子に人と見られなくなるまで、時間の問題だな。」 「・・・・・・・・・」 「上辺だけの名声と欲に汚れた金で、夢を見ている自分にさえ気付いていない。 哀れな男だ・・・」 感情の欠片すら感じられない、冷めた目で隔てるドアを一瞥すると、ルーファウスは自分の部屋へと歩いていった。 静かに部屋に入って行く彼を見届け、扉が閉じた途端ツォンは大きく溜息をつく。 本人がどう思うかは知らないが、何だかんだと言ってまだ父親と思っている事に、彼は気付いていないのだろうか。 だが、社長より幾分か頭の良い息子が、それに気付いていないはずはないだろう。 たとするなら、この冗談という喧嘩が、最後の繋がりなのか。 時間の問題と言いながら、ドアを透かして親を見る目は、既に道端に転がる石を見るに等しかった。 争う声は、ドアを隔て聞こえていたが、そこに息子を心配する父としての言葉は無かった気がする。 ルーファウスは珍しく、社長の事を「親父」と、自分を「息子」と言っていたが・・・。 返ってきた言葉に、ルーファウスは答えを出してしまったのかもしれない。 彼らしからぬ、冗談の混じったような喧嘩が、子としての最後の賭けだったのか・・・ 「私が介入すべき問題ではないな・・・」 考えて答えがでるわけでもなく、社長とは雲泥と離れる思考のルーファウスの考えを、コレと当てられるわけでもない。 所詮憶測の域を出る事はなく、何が変わるでもない考えに、ツォンは小さく呟き幕を引いた。 今の自分の仕事は、社長の護衛なのだから。 |
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ルーファウスの年齢間違えて計算してたorz ・・・・・・いい。うちのルーファウス、今21歳です。永遠の21歳です。異論は認めない。 2005.05.11 Rika |
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