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考えてみた事無い?


寄り添える誰か
かけがえの無い誰か
だだの女として、傍にいたいと思える誰か

そんな人と出会って、恋をして、
普通の女の子が夢を見るような、普通の幸せを手に入れて


貴女にはそれを見つけて欲しい
この世界にはそれが出来る人がいる

この世界にしかいないたった一人の人


貴女に見つけて欲しかった
その人と出会って欲しかった


それは恋にならなくてもいい
それは愛にならなくてもいい
ただの友情でも何でもいいから

貴方の孤独を分け合えるような人と生きて欲しい


だからお願い
今、貴女の傍にいる人

『彼』を


愛さないで










つまりは結婚しろと言いたいのうか?

私の事は知っているはずなのに、随分無茶苦茶なお願いをしてくる。
まぁ、彼女らしいが。

死んでまで、人の心配するなよ・・・。
大丈夫。
だって人は
私のように100年以上生きる事はできないだろ?

ちゃんとわかってるんだ。
だから


心配するな








Illusion sand − 11






「こちらでお待ち下さい」




黒い服の男に案内され、はセフィロスと1室に通された。
鉄の壁で覆われた船内の奥。
甲板が見える豪勢な作りの部屋で、彼は二人を中に入れるとそのまま部屋を出て行く。

朝セフィロスから説明を受けたように、これから軍の統括をしている人間と、神羅の社長が来るのだろう。
自分は記憶喪失だという事になっているらしかったので、余計まで答えずにいられそうだと安心した。
何かきかれても、「わかりません」「覚えてません」で許されるとは、なんと便利な事だろう。
世の中嘘も方便とはよく言ったものだ。

助けてもらった大元に対し、嘘をつくのが平気だといえば嘘になる。
だが、セフィロスもザックスも、気にする必要は原子程も無いと言っていたので、考えないようにした。
良き統治者、良き指導者というわけでは無いらしい。





呼ばれて見ると、壁にかけられた大きな地図の前でセフィロスがこちらを見ていた。
すぐに彼の傍に行き、知らない文字で地名がかかれた地図を眺めていると、セフィロスが1点を指差す。


「ここがお前を拾った砂漠。そして此処が今居る場所。コンガガエリアの外れだ」


地名を出されても、文字はさっぱり読めないが、は小さく返事を返す。
すっと地図をなぞる指を見ながら、道中眺めた景色を思い出した。


「今日はここからヘリでコスタ・デル・ソルまで行く」
「減り?」
「ヘリ。・・・・知らないのか。空を飛ぶ乗り物だ」
「空・・・・竜型や鳥型のモンスターですか?」
「違う」



この女はモンスターに乗るのだろうか。
の世界はモンスターに乗るのが普通なのか?
モンスターは乗れるのか?

考えた事も無かった疑問に、セフィロスはついモンスターに跨る彼女を想像し、何とも言えない気分になった。
ザックスならばすぐに口にするだろうが、帰ってくる言葉を想像するとセフィロスは口を噤む。


「飛空挺・・・みたいなものですか?」
「そうだ。だが、それよりは小さい」


自分が持つ常識の範囲内に帰ってきてくれた彼女に、セフィロスは内心安堵すると、再び地図を指さした。


「ここがコスタ・デル・ソル。そこから船でジュノンまで向かい、その後ミッドガルだ」
「どれぐらいかかるのですか?」
「早くて3日。長くて5日といったところだろう」
「そうですか」


言って、ドアを見たに、セフィロスもそこを見た。
近づいてきた足音に眺めていれば、軽いノックの後、先程案内したタークスの男が入ってくる。



「失礼します」


彼が静かに礼をし、扉を開けると、赤いスーツに身を包んだ男と、黒い髭を生やし顔に傷跡がある男が入ってきた。
入るや否や、地図の前で並んでいた二人の姿に、一瞬立ち止まる。
静かに頭を下げたに、我を取り戻したような彼らは、思い出したように口を開いた。


「ご苦労だったねセフィロス」
「ガハハハハハ!
 今回は随分荒れていたようで、殆ど一人で片付けてしまいましたからなぁ!」


これが言っていた二人かと、がセフィロスに視線で問えば、彼は冷ややかな目で小さく頷いた。
随分嫌っているようだと思いながら、が視線を彼らに戻せば、やはり二人は彼女を凝視している。


「君が例の女かね」
「彼女は。名前以外は覚えていない
 、これがプレジデント神羅。
 向こうの髭が軍時統括のハイデッカーだ」


名を名乗ろうとした途端、それは先に口を開いたセフィロスに阻まれた。
さり気無く肩に置かれた手に、幾分かの所有権を主張しなければならないほど、警戒すべき人物なのかとは彼らを見る。
が、何故か口を開いて呆けたような彼らと、少々の驚きを見せる黒い服の男に、は内心微かに首を捻った。

上に立つ人間と言われたが・・・随分直球で感情を出すものだ。
もしかして、曲者だからじゃなくて、馬鹿すぎるから警戒しているのか?
・・・・まさかな。


「・・・と、失礼。まぁ、君の事は報告で聞いているよ。砂漠で遭難したらしいね」
「覚えてはいませんが、そうらしいと伺いました」
「なるほど・・・・。ふむ。噂には聞いていたが・・・・」


葉巻を咥え、まじまじと見てくる社長に、はさして気にする事も無く答えた。

この場合、警戒するか怯えていた方が、記憶喪失らしいだろう。
が、彼女の辞書に怯えるという文字は無く、おどおどするのもその性格が許さなかった。
何も解っていない身の程知らずな馬鹿のフリをする方が、何万倍も楽だったのである。

彼女にとって、目の前に居る人間達は皆、力も年齢も赤子同然なのだから。


「・・・君の今後については、我が社で既に検討中だ」
「過分な恩遇、あり難く存じます」
「・・・・が、少々気が変わった」
「・・・・・・・と、申しますと?」


煙を吐き出し、何処か勝ち誇ったような笑みを浮かべた社長は、彼女の傍に歩み寄る。
改めて彼女を眺め、何度か小さく頷くと、そっと彼女の髪を掬う。


気安く触るでないわ無礼者め


思わず口から出そうになった言葉を飲み込み、無表情で彼を見る。
隣のセフィロスから、冷たささえ感じる視線を向けられても、彼は気にせずの髪で遊んでいた。



「私のモノにならんかね?」





・・・・・・・・・神よ、貴方は私にこの子をどうしろと言うのだ?







どこから何処まで言葉で切り捨ててよいのか、それは言ってはならない事なのか。
別の意味で返答に悩むは、ちらりとセフィロスを見た。
面白いほど無表情に、だが相当な威圧を放っている彼に、断っても問題ないと判断する。

が、何より面白いのは目の前の社長である。
数歩離れているハイデッカーとやらも、社長に御付の黒い服の男も蒼白でこちらを見ていた。
にも関わらず、しか見ていない社長は、セフィロスのそれに全く気がついていない。

やはりこの社長、かなりの大物のようだ。





「悪い話ではないだろう。私の元に来れば、好きなだけ贅沢ができるが?」




ホンットこの子どうしよう・・・・





「一生楽しく暮らさせてあげよう。どうだね、私の愛人になるというのは?」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


殺るか?
殺っちゃっていいのか?
いや、それは犯罪だ。

どうする?
あ、私女の子が好きなんですとか・・・
切腹だ。

美少年が好きです!
アホか

私より美しくなきゃ!
頭おかしいのか私は

結婚してます!
記憶喪失だろ

チョコボが好き!
関係ねぇ
しかもそんなに好きじゃねぇ



どう対処すれば良いものか、は無表情のまま悩んだ。
が、回る思考は段々とあふれ出し、次第に眉間に皺がよっていく。



「口約束だけでは嫌かね?ではすぐに用意させよう。いくら欲しいんだね?」
「は?」

「まずは5000万ギルぐらいでどうかね?もちろん、言えば後から幾らでも出すが」
「・・・・・」


得意げな顔をする小僧に、は怒りを通り越して呆れ顔で溜息をついた。
類する輩の典型的とも言える種だ。
断りの許可をもらうためにセフィロスを見れば、彼は先程よりも険しい顔で社長を見ている。

そう熱くなるな少年よ。
というか、何故君が怒る?



「君なら、金に糸目はつけん。どうだ?
 私の傍にいるという事は、世界をその手に入れているも同然だが?」
「お断りします」

「・・・・・・・・・・何?」
「申し上げた通りです。折角のお話ですが、お断りさせていただきます」



毅然と答えたに、プレジデントは一瞬表情を険しくする。


「・・・・なるほど・・・・・・っ?!」


少しの間何か考え、答えがまとまったのか、小さく呟くとセフィロスを見た。
が、その瞬間彼は顔色を真っ青に変え、一気に汗を噴出してそのまま固まる。

睨殺すような・・・という言葉がよく合う鋭い視線のセフィロスに、プレジデントはようやく身の危険を感じたようだ。



「俺の顔に何か?」
「うっ・・・・いや・・・・」



恐らく彼は、がセフィロスに惚れているとでも思って彼を見たのだろう。
今まで気付かなかったのが奇跡なのか、天然なのかは知らないが、可愛そうな事だ。

と、見れば部屋にいる全員が、セフィロスの放っている威圧に青くなっていた。
言葉を発する事も出来ないようで、良いとばっちりだと同情する。
だが、さすがにこのままでは、何時までたっても話しも何も始まらないと、は馬鹿の仮面を被る事にした。



「セフィロス・・・・」
「・・・・・・」
「それ程見つめるなんて・・・・もしや貴方、社長の事」
「違う」



睨む視線は幾分か緩むが、常人には厳しい事に変わりは無い。
否定の言葉と同時に、その視線はに向けられるが、彼のそれなど彼女に効くはずも無かった。
周りの者は、それにが怯えて泣き出すかと思ったが、彼女は首をかしげて「そうなのですか?」と言うだけである。

とんでもない天然馬鹿だと呆れる面子の中、それが偽であると解っているセフィロスは大きな溜息を吐く。
気を緩めるまではいかないが、随分和んだ場に、プレジデント達は大きく安堵した。


「ガ・・・ガハ・・・ハ・・・・」
「・ま・・まぁ・・立ち話も何だ。掛けたまえ」
「結構だ」


早々に会話を終了させろと凄みながら、セフィロスはプレジデントの気遣いをバッサリ切り捨てた。
またもや凍りついた空気に、は噴出しそうになるのを堪えながら、青くなった面々を見る。

とはいえ、流石にこれ以上馬鹿を演じる気にもならず、彼女は会話の主導権を全てセフィロスに預ける事にした。



「出発の時間だけ教えてくれればいい。細かい事はツォンに聞く」


勝手に人の仕事を増やしたセフィロスに、社長御付の黒い服の青年が微かに表情を変える。
仕方ないと言う様に小さく溜息をつきながら頷いた彼に、は彼がツォンなのだと理解した。


「承知しました・・・が、今後の予定は全て私がお伝えするのですが・・・ね」


御偉い社長直々に予定を教えてくれるなど、あるはずがない。
ツォンは胸ポケットから手帳を取り出すと、時計を眺めながら口を開いた。


「出発はこれから25分後。コスタ・デル・ソルまで2時間程です。
 その後、ルーファウス様をお迎えしまして会食。
 本日はそのままコスタ・デル・ソルにお泊りいただきます。
 明日は・・・・夜にでもお伝えします」
「わかった。話ておいた物は?」

「別室の方に。お持ちしますか?」
「いや、いい。
 、ツォン・・・あの黒い服の男について行け」
「わかりました」

「俺は社長と話がある。ツォン、彼女を頼む」
「はい」


何があるのかと考えながら、はツォンの元へ歩く。
行かないでくれと、縋るような目をする社長やハイデッカーの横を、成仏してくれと願いながらすりぬけた。
肩ほどまである髪を後ろで結い、眉間に小さなホクロがある青年の下まで行く。


「私は、神羅カンパニー総務部調査課のツォンだ」
「・・・・です」


・・・・・そうぶむ・・・・何?

聴きなれない上に、長い肩書きを覚えきれないは、彼の名前だけを脳に叩き込んだ。
軽く頭を下げ、はツォンに促されるまま部屋を出る。

戸を閉める瞬間、ちらりと中を見てみれば、そこには既に怒りの冷気を放つセフィロス。
そして、捨てられた子犬のような目で見るプレジデントとハイデッカーの姿があった。


上司である以上、殺される事も手を上げられる事もないだろう。
礼儀はなっていないが、自分を保護し、後の面倒を見てくれる彼らに少々の同情をしつつ、は静かに扉を閉めた。








2006.05.04 Rika
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