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ずっと思ってたんだ

どうしてあの時俺が残らなかったのか
どうして一人を次元の狭間に残したのか
どうして一緒に残らなかったのか

そしたら、ずっと一緒にいられたと思わないか?

今も
に触れられたのに




いや・・・私が勝手に残ったんだからお前らは悪くないんじゃないか?
ってか、お前ら死んでまで昔の事なんか気にするなよ。
辛気臭い顔してないでさっさと成仏する事をお勧めするぞ

それにバッツ
お前は私の名前を思い出させてくれたじゃないか。
現実は駄目でも、夢の中では皆に触れられるだろ?
忘れてた事、思い出させてくれるだろ?

それ以上の贅沢があるか

何事も謙虚である心を忘れてはいけないと思うぞ。当然を当然と考えては、物事の有り難味がわからない人間になるからな。
お前にはいつも言っていただろう。本当に何度言われても忘れるんだな。一体この話は何度目だ?そもそもお前は普段から・・・

『せっかく人が夢枕に立ってんだから説教なんかすんなよ!!』
『何でそういう所だけ変わってないの!?』
『やっぱりだな・・・』
『普通、そこはトキメいたり、切なくなったりしてもらうはずじゃない・・・』
にそれを求めるのが間違っとるのかもしれんのぉ・・・』



お前達・・・前より失礼になってないか?




Illusion Sand - 06





結局、セフィロスが運転席との窓に壁として立つ事で、は着替える事が出来た。
新しい衣服の感触に懐かしさを感じながら、素肌の上に神羅兵の制服を纏う。

の報復による車両の暴走が相当効いたのか、無言になったザックスは着替えが終わると同時に荷台に下ろされた。
散らかった木箱を片付けるとセフィロスは、隅で丸くなったまま蒼白な顔で黙り込んだザックスに深い溜息を吐く。
余程怖かったらしいが、放っておけば治るので、もセフィロスもあえて手出しはしなかった。


「本当に怖かったんだぞ・・・」
「すみません。まさか奴があんな暴挙に出るとは、私も思いませんでしたので」
「恨むなら運転手を恨め」

「死ぬかと思ったんだぞ・・・」
「お前の言い分はわかった。、話を始めてくれ」


早速ザックスの相手が面倒になったらしいセフィロスは、黙れという視線を送るとに向き直った。
それにヘソをまげたザックスに苦笑いを零しながら、は彼らにとって解りやすい説明を考え始める。

此処がどの世界か、どんな世界なのかはにはまだわからない。
ただ、自分の生まれた世界ではないという事だけは解っていた。


夢で聞いた仲間の言葉もその要因の一つだが、道中耳にした聞き慣れない地名だった。
1000年も経てば、町の呼び名も変わるかもしれないが、有る程度の文明がある場所であれば何かしらの名残はあるはずである。

何より、今も胸に下げているクリスタルが何の反応もしないのだ。
本来それが有るべき世界に戻ったのなら、この力は不要。
となれば、今の手元にあるクリスタルは砕け散り、それぞれのクリスタルが眠る場所へ還るはずである。

世界を包むクリスタルの力も、此処では感じられない。

魔法の使い方まで違うのだから、これは否定出来ない事実だろう。
少なくとも、はマテリアなど使わなくとも魔法を使える。


朝方のファイア。
手加減はしたつもりだったが、並みの人間のファイガを遥かに超えるものになってしまった。
それを出しておいて、マテリアなど持っていないのだから、今目の前にいる二人はこれからが口にする言葉を嫌でも信じる他ないだろう。

この分では、自分が身に付けている様々な攻撃形態も、ここではマテリアによる力になっているかもしれない。
まぁ、自分の手の内を全て教えるほど、も頭の悪い人間ではないので、大まかな説明しかするつもりはないが。


昨日の長い夢のお陰か。
この世界で初めて目が覚めたときより・・・否、次元の狭間に居た頃より、生まれた世界の事を多く思い出せるようになった。
育った家も、仕えた城の構造も、仲間と旅した日々の事さえ、今はすぐに脳裏に思い浮かべられる。


思い出が語りたがる蛇足を省きながら、は二人にこれまでの事を話し始めた。






自分が生まれた世界の事。 <4つのクリスタルが支える美しい世界>

自分が育った場所。 <赤く燃ゆる炎の守護国>

自分が軍に入った理由。 <大恩を返す為に>

自分がどんな地位だったか。 <私は盾であり槍であった>

何故旅を始めたのか。 <あの日私の知っている陛下は居なくなった。もう城には居られなかった>

世界の軋み。 <それは復啓であり贖罪であり、だが柔らかな日々だったのを覚えている>

悪しき者との戦い。 <世話の焼ける奴らと一緒だった>

次元の狭間。  <『無』の力は・・・語るべきじゃないな・・・念のため>

何故残ったのか。  <悲劇ぶるのは気分が悪し、捕まったとでも言っておくか・・・>

次元の狭間での生活  <100年か200年か・・・常識的に考えて・・・解らないと言うべきだな>

どうやって出られたのか  <自分でも解らない>



「・・・それで、今に至るという事です」

全て話し終わり一息ついたは、黙って聞いていた二人を見た。
予想通り、セフィロスは黙って考え込み、ザックスは理解が追いついていない顔をしている。
だが、今自分が言った言葉が嘘であるという考えはないようで、必死に理解しようとしている様子は見て取れた。

「全てを理解し、信じる事を強要はしません。私が少し変わっているぐらいに考えて下されば、それでいい」

既に尾の先は見せてしまったが、理解したくないならばそれでも構わないと思った。
今の状況で彼らの元を離れるのは少々分が悪いが、一生世話をかけようと思うほど礼儀知らずでも無い。

軍があり、戦いがあるというのなら、傭兵でもして生活を立てればよいのだ。
赤子でも子供でもないは、それ以外にも生きる術を腐るほど持っている。

恐れられ、出て行けと言われれば、それに従うのみ。
ただ、その前に砂漠で助けてもらった恩を返す事を忘れなければ良い。

狭間での生活で、一人は苦にならないようになった。

だがここは閉鎖された世界ではなく、規則的な時が流れ、生命ある世界。
が関わらずとも、生と死を繰り返す命が巡る世界なのだ。

それを楽園と言わずして、何と言うのだろう。

そこで生きる事が出来る幸せに、贅沢など考えられるはずも無かった。



完全に腹を決めている顔のに、セフィロスはザックスを横目で見た。
目が合い、苦笑いした彼に、どうやら考えている事は同じらしいと静かに目を伏せる。

理解に苦しむのは当然。
だが、お陰で何故彼女の肝がここまで据わっているのか、何故ここまで頭が回るのか理解出来た。


「残念だが、俺たちはお前が現れた時目の前でそれを見ていた。
 あれを見て、信じないと言い切れる理由は無い」

「まぁ、ビックリはしたけどさ、信じれないわけないだろ?
 マテリア無しで魔法使う奴が、普通の人間って言われる方が怪しくなる。
 それに、此処で嘘ついたって、の立場が不利になるだけだろ?」


ニヤリと笑う二人に、は微かに目を丸くし、そして小さく頷いた。

己のテリトリーにある力を手離さない為には、表面的に相手を受け入れる体制を取るのが上等。
そうでなくとも、何かしらの裏を持っているものだ。

だが、この二人を見る限りそんな考えではない。
随分お人よしな事だと、軍人にしては楽観的な志向の持ち主達だと呆れる一方、少しばかりの嬉しさもあった。

昔、こんな目で自分を受け入れた人間が5人程いた覚えがある。


「今朝から今まででしかお前の人間を知る機会などなかったが、
 俺は・・・お前が信頼に足る人物だと思った」

「ま、信じる理由なんて、それだけで十分なんじゃないか?
 細かい事気にしてたらキリなんかねぇじゃん?」

「そんな事を言われては、どんな期待にも答えなければならないじゃないですか・・・」


苦笑いを零しながら、はセフィロスに差し出された水を受け取る。
キャップがついたままのペットボトルを受け取り、珍しげに眺めるを二人は黙って見つめた。

ビニールも知らない。マテリアも知らない。
では、このペットボトルにどう反応するのか。

動物実験をしているような気持ちだが、これは二人が出した最初で最終テストだった。
難なく開けてしまえば、先ほどまでの話は嘘。
開けて欲しいと言われたり、飲まずに持っているなら、そのまま暫く様子を見る。

恐らく後者だろうと考えながら、二人はの行動を待った。
それは、最低限必要な軍人としての判断である。

一方のは、訳のわからない物体に入った水と思われる液体に、首を傾げるしかない。
彼らが何を考えているのか解らなくもないが、助けを求めても疑われるのは目に見えている。
彼らが納得のいく、予想外の行動が必要だった。

一頻りペットボトルを眺めると、は正面のセフィロスを見つめ小さく笑みを零した。
上部を毟り取っても問題無さそうだが、それではただの怪力で終わる上に、借り物の服を汚す事になる。
雷は容器が爆発し彼らを感電させるし、炎では水も蒸発するだろう。
実験云々は別にして、自身喉が渇き冷たい水を飲みたいとも思う。

ちらりとザックスに目をやり、手の中のペットボトルに視線を戻すと、は指先に微かな魔力を集めた。
発動した微力な魔法に水は段々と凍りつき、爪のような形に成長した氷が内側から容器を破っていく。


よもやこんな芸当までするとは思わなかったのだろう。
呆然とする二人には内心噴出しそうになりながら、氷で切り取った容器の先をザックスに手渡した。
次いで容器を切った氷の欠片をセフィロスに手渡し、薄笑みを浮かべながら容器を振って見せる。


「合格ですか?」
「・・・フッ・・・ハハハハハハハハ!!」
「とんでもねぇや・・・満点だよ」

「それはどうも」


答えなど解っているだろうに、わざわざ聞いてくるにセフィロスは笑い出し、ザックスは苦笑いを浮かべた。
力の差を見せ付けると同時に、自分の尻尾を見せる彼女には、この先何で試しても倍の答えを返されるだろう。

自分を超える者がいる事が嬉しいのか、彼女が予想を超えてくれることが嬉しいのかはわからない。
ただ、彼女との遣り取りが、今まで会った誰とのものより楽しく、セフィロスは緩む頬を正す気にならなかった。
かつて、これほどに面白いと思わせてくれる人間が自分の周りに居ただろうか。


「本当に・・・変わった女だ」
「それはどうも」
「波乱万丈もいい所だな。タダモノじゃない訳だ」
「褒め言葉として受け取っておきますよ」


悪びれなく言うに、ザックスは溜息交じりの苦笑いをする。
本日二度目のセフィロスの笑顔に、ザックスは怯え半分驚き半分で手のひらのプラスチックを見た。
は、1度ならず2度までも、この仏頂面で有名な英雄を笑わせたのだ。

交流ある人間ですら、微かに目元を緩めるか否かのセフィロスに、興味を持たせるだけでも十分。
だがは、会話をするようになってたった数時間で、彼の理解を手に入れるばかりか、純粋に人としての好意を持たせた。
ザックスもまた、に対し、セフィロスと同じような理解と好意を持ってしまったので、不平に思う事すら出来ない。


「では、今度はそちらからご説明いただけませんか?」
「説明って?」
「この世界の事について・・・」
「あ、そっか。そうだな・・・」


納得した顔のザックスは、隣に座るセフィロスに視線を移した。
視線が合ってすぐに目を伏せ、聞く体制に入った彼にやはり自分が説明するのかとザックスは小さく肩を落とした。
一般家庭育ちの自分より、英才教育を受けたセフィロスの方が適任なはずが、当の本人がこうである。

数秒視線を彷徨わせながら、彼女が理解しやすいように脳内で情報を整理すると、ザックスは言葉を紡ぎ始めた。


この世界の事  <星を廻るライフストリーム>

この世界の力。 <魔光の力と、マテリア>

神羅カンパニー <世界を支配する強大な力と、ソルジャーの存在>

自分達が戦っている相手  <ウータイとアバランチと依頼と命令次第で何でも>

科学文明  <ペットボトルは、キャップを回せば空くんだよ>

俺の事  <年と身長と彼女募集中〜って、何だよセフィロスその溜息・・・>

セフィロスの事  <これって本人が言うべき事じゃないか普通・・・?>

今回の任務  <アバランチの討伐。朝戦ったのもそいつら>

その他、の世界とこの世界の違い  <この世界に国なんて・・・ウータイがあるぐらいか?王様と騎士なんて昔話だ>

諸注意  <片膝着いて礼とか、こっちじゃしないんだよ・・・>



「このぐらいか・・・?」


一通りの説明を終え、視線で確認するザックスに、セフィロスは小さく頷いた。
それを見たザックスは、「以上!」と笑い、自分のペットボトルを口に運ぶ。


「何かあれば、追々説明する
「承知致しました。では、よろしくお願いします」


深く頭を下げたが顔を上げると同時に、ザックスは大きく伸びをした。
堅い木箱の上で長く揺られていたせいで、どうにも身体を動かしたくなる。


「なぁ、って剣持ってたけど、使えるんだろ?」
「嗜む程度ですが・・・」


謙遜するに、セフィロスは彼女の手を見た。
細く綺麗な指先は確かに女性特有の柔らかさを感じさせ、口にしなければ武器など似合いはしないものだろう。
だが、その掌はかなり長い間剣を握っていたと語るように、僅かではあるが皮が厚くなっている箇所があった。
手の形自体が変わっていないのは、厚手のグローブでも着けるか気を使っていのだろう。

それに、彼女から預かった剣は、一見するだけでも、かなり使い込まれているのだとわかった。

幾ら見事な剣であっても使う者が剣に長けていなければ、すぐに壊れる。
その分手入れも修復も入念にされた跡あるが、嗜む程度の人間が修復や手入れにまで気が行くはずがない。

にも関わらず、刃毀れどころか装飾の小さな破損すらなく、使うものの技量を語るようだった。
一見骨董品にさえ思える品物だが、細部に至る細かな装飾だけでも、元の価値が相当なものだとわかる。

仮にこれと同じ物を作るとなれば、それこそ世界中の鍛冶屋を廻っても出来るかどうか。
愛刀の正宗と交換してもお釣りをあげたいくらいの品物だった。

そんな名刀とそれを扱う技量を持ちながら、どの口で嗜むとまで言葉に遠慮するのか。
謙遜ではなく、面の皮が厚いのではないかと、セフィロスはをまじまじ見つめた。


「・・・・何ですか?」
「・・・・いや」


微かに寄ったセフィロスの眉間の皺に、は何か失言でもしたかと首を傾げる。
呟くような返事と同時に顔を背けたセフィロスは、判断しかねると考えながら足を組みなおした。


無駄な会話は元々しないセフィロスに、ザックスは相変わらずだと小さく溜息をつく。
普通の女性であれば、こんな態度の男には怖がるか苛立つかするものだが、は全く意に介していないようだ。

自分達に対して興味が無いわけでもなさそうだが、同年代の女性と比べるとどうも違和感を感じる。
何というか・・・・弟子を見守る老年師匠のような・・・怒ると雷親父のような・・・。
年頃の女性に失礼かとは思うが、とにかく大きな年の隔たりを感じてしまうのだ。

彼女の実年齢を知らないザックスは、何食わぬ顔をしつつも内心大きく首を捻っていた。
とはいえ、流石に女性に年齢を聞くのは失礼というもの。
いつか教えてもらう機会があるだろうと楽観的に考えると、その他の興味ある話題に頭を切り替えた。


「魔法は失敗してたけど、体術は強いし剣まで使えるんだな」
「大した力量はありません。どれも護身程度ですから」
「へぇ〜・・・」


実際の所、剣に限らず武器は一通り使えるのだが、はそれを口にする事は無かった。
警戒が無いわけではないが、説明するのが単に面倒なだけである。
自分の技量を驕り、声を大にして言うのは、彼女の美学に反するので、「謙遜は当然」がの昔からの常識だった。

確かに並みの人間よりは武に長けてはいるが、それも護身程度。
ただ、その護身が日常生活での護身か、魔物の巣での護身かという意識の違いはあったが、それを言う気も無い。
嘘はついていないのだから、さして気にする問題でもないというのが彼女の考えだった。

後でどう言われようと「あれ?言ってなかったっけ?ゴッメ〜ン♪テヘv」で済ませる気満々である。
そんな気色の悪い言い方、天地がひっくり返ってもしないが・・・。


「なぁ、今度手合わせしないか?」
「セフィロスの判断に従います」
「・・・・好きにしろ。だが目立つなよ」
「やった!!じゃぁさ、今日の自由時間になったら、早速!な!?」
「ええ。ですが、剣はセフィロスが持っていますよ」
「悪いが、まだ返すわけにはいかない。・・・誰かから借りてくれ」


軍の体面上、やはりまだ返してはくれないらしい。
セフィロスの答えを有る程度予想はしていたので、はさして気にする事も無く頷いた。
了解の返事を貰ったザックスは、待ちきれないと言う様な目でそわそわと外を眺める。

やがてトラックの運転席から、無線で連絡を取り合う声が聞こえ始め、程なくトラックは平野に停まった。

海から迂回してきた別隊との合同作戦。
この遠征の当初の目的であった、陸と海からの同時攻撃による、反神羅組織の殲滅作戦が始まった。



2006.04.14 Rika
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