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あの戦いから1000年
人も文明も大きく変わっちゃったけど
世界は今もクリスタルに守られてるから

心配しないで

一緒に旅した頃の事
今はもう御伽話になっちゃったけど
誰もの事忘れてないよ

カルナックには今も
世界を救った赤い戦神の像が立ってるの
の故郷はの事忘れてないから
1000年経っても



そんな恥ずかしい像
今すぐ壊してくれ・・・・




Illusion Sand 05






「大分体力は戻ったようだな」
「はい。お陰様で」


真っ直ぐに見つめてくるセフィロスに、は微かな笑みを作りながら静かに答える。
出立の数分前、早朝の戦闘で全滅した1つの班のトラックが空いているという話を聞いたセフィロスは、彼女とザックスを連れ、無人のトラックへ乗り込んだ。
もちろんザックスはお仕置きの為、まだ幌の上に縛られている。

薄い鉄板で隔てられてるとはいえ、エンジン音と無線の音に包まれている運転席には、話の内容は聞こえない。
その上、余計な事に口を出してくる他の兵が居ないそこは、の話を聞くには最適だった。


「何からお話すれば良いでしょうね・・・」
「ある程度の覚悟はしている。遠慮するな」
「そう言っていただけると助かります」


朝のファイアが余程効いたのだろう。
上手くいけば布石。悪ければ猿芝居と考えていたが、状況は彼女にとって有利に運んでいるらしい。
やはりハリボテの嘘では彼の目を欺く事は出来ないらしく、実力差故の彼の反応には内心小さく安堵した。


「では・・・」
「いや、話の前に・・・・」
「?」


突然立ち上がり、隅に置かれた木箱を開けたセフィロスに、は首を傾げた。
彼が何をする気なのか検討もつかないまま見つめていると、中から取り出されたいくつかの衣類を投げ渡された。
透明な・・・寝ている間に腕に刺されていた『点滴』とかいうものが入ったより薄い袋に入った服を、は黙って見つめた。
防具こそないものの、青い布で作られたそれは、この軍の兵達が着ているものだとすぐわかる。


「これは・・・?」
「いつまでも汚れた服でいるわけにはいかないだろう。それに目立つ。
 兵士の制服だが、その格好よりはマシなはずだ」
「ありがとうございます。着替えても・・・?」
「ああ」


洗われていたと言っても、布に付いた血は簡単に落ちない。
が着ているた長年の愛着は、昔次元の狭間で戦っていた時の血と、先日砂漠で被った血で酷い有様だった。
元が暗い色を基調にしているため、まだマシに見えてはいるが、逆の色であったなら自分でも着る気が起きないだろう。

上等で丈夫な布で作られたものだったが、今となっては目も当てられない。
長い旅で着回し、その上次元の狭間で100年以上も仲良くしていたのだから仕方ない事だったが。

流石にこれだけ長い間着ていると愛着も一入である。
が、こんなものを着て目の前に居られたらと考えれば、着替えろと言ったセフィロスの気持ちも良く分かった。
いや、それ以前によく今まで着替えろと言わなかったものだと感心すらした。

セフィロスが荷台の後ろにある木箱に腰掛け、顔を背けたのを確認すると、は脱いだコートを木箱の上に広げた。
中に着ている服は、防御力を考慮した上での仕立てになっているため、金具やボタンの数が多い。
渡されたこの世界の服は、珍しい作りだったが着易そうだった。
恐らく、自分の服をこの世界の人間に着てみろと言えば、間違いなく着方が分からないと言われるだろう。

その上、この相棒は職業柄軍服仕様に近く、いたる所に隠し武器を入れる事が出来るようになっていた。
まず普通の人間が着る代物ではない。

今着ている時点で、それらの武器は殆ど外されているが、細かい場所に隠していた小さなものはいくつか残っていた。
それらを広げたコートの上に並べながら、はちらりとセフィロスの方を見る。

ザックスとは違い、ちゃんとこちらを見ないようにしている彼に好感を持った。
同時に、これだけ物騒な服を着ていた女と、二人でいられるセフィロスの神経の図太さに再度感心する。
自分なら、間違いなく不審者として縛り上げているだろう。

世の中には心の広い若者がいるものだ。

再度意識を自分に戻し、は着ていた服を脱いだ。
余程砂漠で血を浴びていたのか、普通ならばコートに隠れ、汚れる事の無い二の腕の内側部分まで血の跡が付いている。
セフィロスを待たせているため、まじまじ眺める事は出来ないが、脱ぎ捨てた服のどれにも懐かしい縫い合わせの跡があった。
左腕の部分は風の神殿で出来た場所。
右腿の部分は、古代図書館。
背中の部分は、ガラフが死んだ時。

今、目の前にある世界を生きる為に、長い過去を脱ぎ新たな衣を纏うのだ。
それは決別ではないが、やはり感傷的にならずにいられない。

と、はある事に気がついた。





























下着が無い
























やはり軍は男所帯。
求めるのは我儘なのかもしれない。

第一、セフィロスにしろ、ザックスにしろ、そんな要求をしたとしてもイジメ以外の何にもならないだろう。
仮に言ったとして、間に合わせにと男物の下着を渡されても困る。

スースーして落ち着かない事この上無いが、無いものは仕方が無いと、は諦める事にした。

着ていたものを全て脱ぎ捨て、早速新しい服に着替えようと手に取った時、に難問が訪れた。





























この透明の袋























どうやって開けるんだ?
























神羅兵の制服が入った袋は、薄いビニールの中に入っており、当然はビニールだのプラスチックだのとい物を目にした事がが無かった。

力を入れれば破る事は出来るかもしれないが、そうなれば二度と使うことは出来ないだろう。
もし使いまわしているものだったとすれば、弁償しなければならないかもしれないが、生憎はこの世界での通貨を持ち合わせていなかった。

エリクサーを何個で手を打ってくれるだろうかと考えてみたりするが、そもそも弁償だの物々好感でどうにかなる品なのかもわからない。
もし、万が一これが貴重なものだった場合、責任は重大である。

破損させないように開ける事が出来ればよかったが、不運にも袋は糊付けではなく溶かして密封されている状態だった。

流石に先程のように諦めるだの開き直るだのできる事ではない。



「まだか?」



裸のまま袋を眺める事数十秒。
衣擦れの音が止んでも動かないの気配に気がついたセフィロスが声をかけた。
丁度説明しようと考えていたが口を開こうとするが、その瞬間セフィロスとは間逆の方向から視線を感じる。

目を向ければ、運転席のミラーからこちらを見ていた運転手としっかり目が合い、向こうが慌てて視線を逸らした。


「・・・・・」
?」
「あぁ、すみません。この透明の袋の開け方がわからないのですが」
「破れ」
「わかりました」


先程の視線はただの偶然だろうかと、は手に持っていた袋を破き中の服を取り出した。
が、どうもまだ視線を感じ、目を向ければ再び運転手と目が合う。

・・・愚か者め。

鼻の下を伸ばし、熱心に鏡から覗いていた運転手に心中で呟くと、は詠唱も称呼も破棄したブリザドを放った。
もちろん、3人の命を預かる人間に大きな仕打ちは出来ないので、威力は耳たぶを凍らせる程度に留める。


「うわぁあああ!!耳が!耳がぁああ!!」
「どうした!?」
「何だ!?おぅわっ!何が起きたんだセフィロスーーー!!?」


驚いた運転手がハンドル操作を誤り、荒地にタイヤを取られた事もあってトラックは大きく揺れた。
車の上からは括りつけられたザックスの悲鳴が響き、セフィロスも立ち上がって運転席を見る。


、無事・・・」
「これぐらいの仕打ちを覚悟せずに人の着替えを覗くでないわ馬鹿者が!!」
「セフィロス、何が起きてるんだ!?、何て怒鳴ってるんだ!?
 この車大丈夫なのか!?なぁ、俺死ぬのか!?なぁ!?」
「何故服を着ていない!?」
「途中だったんです」
「空しか見えないんだよ俺!助けてくれよ!リアル絶叫マシンなんか嫌だあぁぁ!!」


振り向いた瞬間、セフィロスの言葉はの怒号に遮られた。
裸で怒鳴るにセフィロスは一瞬言葉を失い、すぐさま状況を把握するも、頭上のザックスからの悲鳴が冷静な思考を邪魔する。


大幅に道を逸れたトラックが道路に戻り、揺れの収まった荷台で、セフィロスは大きく溜息をついた。



2006.04.07 Rika
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