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遠くに見える城を眺めながら、風に乱れる髪を押さえる。


懐かしい景色に目を細めながら、木陰に佇む仲間達を見つけると、彼らは肩をビクつかせながら引き攣った笑みを浮かべた。


「笑ってないで、説明してもらおうか?」

「お・・・・怒るでない!何も全部ワシらのせいじゃないゾイ!」
「まぁ、半分は・・・俺達のせいだけど・・・」
「バッツ!余計な事言うな!」
「あのね、私たちも本当はもっとに女の子の幸せをあげたかったの!」
「レナの言う通りだよ!でも、ってば死んだアタシ達より力が強かったみたいで・・・」
「そうじゃ!お前が強すぎるのが悪いんじゃ!ワシらだって頑張ったんじゃぞ!!」
「まぁ、ホラ。なら俺らと違って何処でも生きていけるだろうから心配ないって!」

「お前達、何時になったらまとまりが出るんだ・・・・。
 まず状況を説明しろ。要点だけ。簡潔に。話はそれからだ。いいな?」
「「「「はい」」」」


忘れた景色に包まれ、懐かしさに浸る事も出来ず、何が楽しくて私は彼らに説教をしてるんだ・・・?

夢の中なのに・・・・1分で早速疲れてきた・・・。




Illusion sand − 03







どこからか聞こえてくる、何かの弾けるような音や男達の叫び声に、はそっと瞼を開けた。
見渡す視界は薄暗く、前に目覚めた場所より幾分か汚れたそこに、別のテントへ移動されたのかと考えながら立ち上がる。
起きた早々、混乱する間もなく回転する脳は、間違いなく先程の夢のおかげだろう。

やや眠気が残るものの、ベッドから起き上がる事も億劫だった時に比べ、体は何倍も軽くなった。
一旦大きく伸びをして、改めて辺りを見回すと、そこには他に誰もおらず、使い古したようなブランケットが数枚床に散らばっている。

賑やかなテントの外からは、『半身裸派の襲撃だ』やら、『アバラン地』だとか、聞きなれない単語が叫ばれてた。
絶える事の無い男達の歓声に、一体何の祭りだろうかと考えながら、は黒いコートの傍に置かれていた自分の荷物を見つけ出す。
セフィロスに預かると言われた自分の剣も、無防備に地面の上に放置されたまま、洗ってたたまれた服と一緒に隅に置かれていた。

明け方の冷気が肌を掠め、薄い布の衣一枚しか纏ってない自分を見る。
腕に刺さった管は、以前と同じように透明な袋のようなものに繋がっているが、何の行動を起すにも邪魔になるため、は仕方なくそれを引き抜いた。
随分長い間刺していたのか、腕には小さな穴が出来、それを一度軽く揉むと、は自分の荷物を漁り始めた。

服と装飾品と、防具とアイテム。
中に銀時計が無い事に一瞬驚き、は服の中を探るが、それらしいものは見つからなかった。

砂漠の中で落としたのか、セフィロス達が持っているのか。
ショックではあるものの、無い物を考えていても解決する訳ではなく、小さなため息をつくいたは、装飾品の中からクリスタルの入ったペンダントを付け、着ていた服を脱いだ。

と、予想通りと言うべきか。
男所帯の軍に、女の下着が用意されている訳も無いが、布の下から見えた一子纏わぬ自分の姿に、は二度目の溜息をついた。
手にした衣服の中にも、自分が以前使っていた下着は無く、捨てられたのだろうと考えると、では誰が捨てたのかと疑問が出た。
とはいえ、今だここに居る人たちの二人としか会っていないのだから、その他の人間かもしれないという事もあり、断定するには至らない。
何を考えるにしても、結局彼らに聞く以外答えは出ないのだ。

今だ騒ぎの収まらない外からは爆音や悲鳴も聞こえ、微量ではあるが魔法使用による魔力の波動も感じられた。
一体どれだけ賑やかな祭りなのだろうかと、恐ろしげな半身裸の男祭りと、それを止めながら悲鳴を上げ闘う人々を想像する。

何て恐ろしい世界だ。


肌を刺す寒さに、は今だ自分が何も着ていない事を思い出した。
このままでは「全身裸派だ」と変態扱いされてしまうかもしれない。
変態半身裸集団の仲間と認識されるなんて冗談じゃないと、は手近にあった上着に手を伸ばす。

が、その瞬間何か小さなものが目の前を過ぎった。

一瞬虫かと思ったそれは、置いてあった木箱の鉄枠に弾けて、刺さるように地面に小さな穴を開けた。
もしまだ自分が寝ていたなら、間違いなく当たって怪我をしていただろうと考えながら、一体今のは何なのかと考えていると、テントの入り口を勢い良く開け誰かが駆け込んでくる。


ーー!」


けたたましい叫び声に、は上着を掴んだままそ、一体何かと振り向いた。
目を丸くして大口を開け、暗がりでも解るほど一気に赤くなった黒髪の青年は、予想外の光景に持っていた剣を落とし、石になったように固まっている。


「ザックス・・・どうかしましたか?」
「ど・・・どうかってゆーか、まず!まず何か着てくれ!!」


必死に叫びながらも目を背ける事をしないザックスに、は「若いのう」と考えながら、手にしていた上着を羽織った。

てっきり悲鳴をあげられるかと思ったザックスは、さも当然というように話しかけてきたに、逆に自分が悲鳴を上げそうになる。
遊んでいる訳ではないが、それなりに異性と深い関係になった事のある彼でも、不意に裸を見られて悲鳴一つ上げない女性など初めてだった。
いや、上げなかったとしても、これほど動じる事も無く堂々している女など出会った事が無い。

隠された事に何とか落ち着いたザックスは、流れ弾は当たらなかったのだろうと小さく安堵すると、背を向けて着替えを始める彼女を見る。
理由はよくわからないが、この落ち着き様から見て、彼女は間違いなく大物だと思った。ただし、色々な意味で。


「弾には当たらなかったみたいだな」
「玉?先程の、速く動く黒い虫みたいなものですか」
「そうそう。虫じゃなくて銃弾だぞ。
 で、何が起きてるかっつーと、反神羅派が明け方にいきなり奇襲かけてきたんだよ。
 時間が時間だから、警備も薄くてな。お陰で五月蝿くなっちまったわけ」
「そうですか・・・。セフィロスは何処へ?」
「アイツは真っ先に前線に行っちまったよ。あ、俺はここの警備。
 の身を守ってろってセフィロスに言われたんだ。
 それにしても、元気になったみたいだなぁ。あれから今度は1週間寝てたんだぞ?」
「・・・・・そんなに・・・ご迷惑おかけしました」
「あぁ、いいってそんな事」


至極当然のように目の前で着替えを終える、何事も無かったかのように会話をはじめるに、ザックスは微妙な顔で返すしかなかった。
普通は、途中で別の方向を向いていて欲しいとか、何か恥じらいがあっても良いのではないだろうか。
否、それが普通の反応なはずである。


「・・・・・」
「どうかしましたか?」
「いや、何か・・・・着替え・・・・見られてよかったのか?」
「どうせ髪で足しか見えなかったでしょう?」
「いや、そうなんだけど・・・・」


確かに、着替える様子を見ていたと言っても、彼女の体は長い黒髪に隠れ、腿の下までしか見えはしなかった。
それに加え、明朝の薄暗闇の中である。肝心の部分など全く見えてはいない。

が、肝心なのはそこではなかった。
ここは、女性の着替えを見たことに対し、ザックスが何かしら責められるべき所ではないだろうか。
ザックス自身、彼女のそういった言葉を待っていたのだが、この様子ではそれが出る様子は皆無に等しい気がしてきた。
それとも、これは彼女にとって気にするような事ではないのだろうか?


「隠すとかしないのか?」
「既に見られたものを隠しても無駄では?」
「・・・・・・つまり開き直ったって事か?」
「誠心な若者へのサービスだと思ってください」
「なるほどね」
「目を背けない貴方にも驚きましたが」
「いや、あれは・・・・ごめん」


頬を赤らめて頭を掻くザックスに、は小さく笑いながら外の音に耳を傾ける。
それに気付いたザックスが、そっとテントの外を覗くが、そこでは今だ銃弾が飛び交っている。
セフィロスが出た事により自軍の混乱は落ち着き、士気も上がりつつあるが、戦場である限り油断など出来はしなかった。


「随分賑やかですが、それほど楽しい祭りなのですか?」
「祭り?そうだなぁ・・・まぁ、確かに楽しんでる奴もいるかもな」
「ザックス達は、その半裸集団を鎮圧しにここへ?」
「半裸?いや、俺らが闘ってるのは反・神羅組織だけど?」
「・・・・・・半身・・・裸では無いのですか」
「・・・・ハァ!?んなわけねぇだろ!そんなのただの変態じゃねぇか!
 俺達は『神羅』の兵士なんだ。神羅軍なの。
 で、その神羅に反抗するのが、今闘ってる反神羅組織アバランチ。
 文字通り、反・神羅・・・ん?
 まさか・・・・身体半分裸推奨派とか、そうういうのだって思ってたのか?」
「何分・・・世間知らずなもので」
「・・・・し・・・・」
「・・・・・」
「信じらんねぇー!!」
「・・・・・」
「ダハハハハハハハハハ!!反神羅組織が半裸かよ!是非討伐しなきゃなんねぇじゃねぇか!!」


腹を抱えて笑い転げるザックスに、は頬を赤らめつつも苦虫を噛み潰した顔をするしかなかった。
そこはかとなく、この人を笑い馬鹿にする反応が昔の仲間に似ていると思うのは気のせいだろうか。
目の前の小僧に微かな殺意を覚えながら、は『大人になれ』と自分を叱咤した。


「ハハハ・・・はぁ・・・はぁ・・・まぁいいや。とりあえず、俺はの護衛だから、そこんとこヨロシク」
「わかりました。ですが・・・・」


言葉を止め、一瞬真面目な顔をしたに、ザックスは何かあるのかと意識を向けようとした。
が、その刹那、彼の視界は乱れ、同時に布を裂く音と男のぐぐもった声が鼓膜に届く。
何が起きたのかと考える時間も無いまま、次の瞬間には目の前に見知らぬ男が倒れ込み、口から出た泡を頬へ伝わせていた。


「いかなる状況であれ、戦場で油断なさるのは危険ですよ」


自分が立っていた場所に突き刺さる剣を抜き、ニヤリと笑ったにザックスはようやく状況を理解した。
目の前に倒れている男は、自軍の兵の格好ではない。間違いなく今襲撃してきている反神羅組織の者だろう。

先程あれだけ大声で笑っていたのだ。騒音にかき消されていたとはいえ、見つけてくださいと言っているようなものである。
周りが見えないテントの中に居たのでは、文字通り袋の鼠。

が庇ってくれなければ、今頃自分は真っ二つにされていただろう。

護衛だと言った直後、守るべき人物に命を救われた事に幾許かの情けなさを感じる。
だがそれ以上に、油断していたとはいえ、神羅兵としてはそこそこの腕を持つ自分が気付かなかった敵に気付き、一瞬で倒してしまった彼女への驚きの方が大きかった。

やはり只者ではないと思いながら、ザックスはゆっくり立ち上がるとズボンに付いた土埃を払う。


「どっちが護衛かわかんないな・・・」
「ご安心下さい。よっぽどの事が無い限り、もう手は出しませんので」
「そりゃ残念。楽できるかと思ったんだけどなぁ〜」
「貴方の仕事を取るような事は出来ません。それに、勝手な真似をされるのもお困りでしょう」
「確かに・・・・」


これは神羅とアバランチの戦い。
第三者であるが手を出すべきではない事は、ザックスでなくても解る。

本社へを保護したと連絡した後、ミッドガルではその事を大々的に報道したらしい。
神羅はただの冷血な軍隊ではない。素性の知れない人間であろうと、弱い者を放って置く事は無い。
神羅はか弱い人民の強い味方なのだ。と

お陰で神羅に対する支持率は少なからず上昇したらしい。
汚いイメージを覆い隠すには、彼女は大いに会社に貢献してくれたと言える。

だが、アバランチがそれを気に入るはずはなく、ともすれば偽計だと言い出す可能性も無くは無い。
そう思わせるだけ、神羅は悪どい事をしてきているのだから、仕方ないと言えば仕方ないのだが。
お陰でこの戦い、アバランチの士気は思いの外高い。その上、予測していた地点より遥かに早い場所での襲撃。

顔や名前こそ出さないものの、むさ苦しい男の中にのような存在がいれば、一目でそれと解るだろう。
そうでなくても、彼女の容姿は人の目を惹きつけるには十分だった。

故に、もし彼女が報道されている遭難者だとバレた場合、彼女の身は一層危険にさらされる。
今現在神羅の軍の中に居るとはいえ、本来彼女はこの戦いを傍観する立場であり、せっかく拾った命を他者の争いで落とすなど不条理だ。

意識の無い女性を殺す事など、子供だって出来る。己が正義を掲げ、神羅に強い反抗を持つアバランチならば、迷うことなく引き金を引くだろう。
セフィロスが、ザックスをの護衛に回したのもその為だ。
もう一つ理由があるとすれば、発見した手前、他のものよりが安心するだろうという事ぐらいだったが、恐らく近くにいたから適当に選ばれただけだろう。

あの瞳は、『信頼している』ではなく『まぁ大丈夫だろう。それとお前、少し邪魔くさいぞ』と言っていた。


ちょっとショックだった。


切り取られて半分無くなったテントの外は、暁に照らされて戦場に溶け込むようだった。
思いの外大きな戦闘に、前線で活躍できない事を歯がゆく思いながらも、時には童話の中の王子のようにお姫様を守るのも一興かと、ザックスはの手をとり頭を下げる。


「じゃ、俺の背中に隠れててくれますかレディ?」
「ははははは。殺気立った輩が大勢いますが?」
「え・・・?」


そのまま軽く口付けでもしてみようかと考えていたザックスは、の口から出た思いもかけない言葉に目を丸くした。
ガチャリという武器を持ち直す音に冷や汗が頬を伝うが、彼の視界にもまた、の後ろで殺気立つアバランチのメンバーが取り囲むようにして立っている。


「私は黙っているべきですか?」
「自信があるなら手伝ってほしいかな・・・」
「承知。我が命をお救い下さった貴方様の御身、身命を賭しても守り致します」
「は!?」


肩膝を付き、演劇のような事を口走るに、ザックスは周りの敵の事も忘れ素っ頓狂な声を上げた。
が、驚いているのは彼だけではないらしい。
先程まで、いつ料理してくれようかと殺気立っていたアバランチの面々も、彼女の奇行に驚き瞬きを繰り返していた。
それはまるで、童話の中の騎士が主に忠誠を誓っている姿を見ているようで、ただただ呆然とする他無い。


「ザックス、半分は貴方の仕事ですからね」
「へ・・・?」


立ち上がり静かに言ったに、今しがたの行為から抜け切れていないザックスはまたも妙な声を上げる。
が、それに応える事も無く、は身を翻すと、呆然としたままの敵に向かいその頬を足の甲で地に叩き伏せた。
大きな音を立てて地面に倒れた男を見る間もないまま、彼女は流れた足を囲んでいた男達の脇腹に入れ、更に別の男の顔に拳を入れる。
息つく暇も無い程の勢いで次々と敵を倒してゆくに、ザックスはハッと我に帰ると、慌てて剣を握りなおし背後の敵に向かっていった。




2006.02.26 Rika
追記:文中において、『反神羅派』という字が『半身裸派』となっている箇所がありますが、そちらは故意にそう表記しておりますので、誤字ではありません。※印は最初の『半身裸派』の部分にのみ入れていますが、その他の部分についても、故意にそう表記しております。
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