| 次話 ・ 前話 ・ 小説目次 | ||
|
実地学習は各地の大工に協力を得て、実際の建築現場に生徒を受け入れてもらう形だ。 今年はゴンガガの石油プラントから西に離れた山中の村が協力してくれたため、とセフィロスは試験に受かると同時に他の生徒と共に現地を訪れた。 『温暖な気候で良かったな』と言ったのは今回の講師である現地の大工だ。 『勝手にいなくなると、魔物に襲われたのか逃げたのか分からなくて捜索の手間があるから、逃げる時はちゃんと辞めると言ってからにしろ』と言ったのは、先に到着して建築を手伝っていた上級生たちの言葉である。 本来16人いるはずの上級生は、何故か10人しかいなかった。毎年実習中に数人は脱落していくらしい。 Illusion sand ある未来の物語 107 「本当はあと2人女性がいて女性用の宿舎を用意するつもりだったんだけど、この現場に来る直前に辞めるって言って帰っちゃったんだよ。だから、さんだけは、ここの村長さんの家に下宿してもらう事になるから」 「わかりました」 「悪いね。女性一人にするわけにもいかないし、夫婦一緒にするのも特別扱いになっちゃうからさ。今日の仕事が終わったら、棟梁さんが案内してくれるから、荷物持ってついていって」 「はい」 別に1~2年なら野宿でも大丈夫だが……と言いたくなっただが、そうなったらセフィロスから説教されそうなので口を噤む。 下宿は構わないが、もし赤ん坊や小さな子供がいるなら辞退してテント生活をしよう。 そう考えながら、早速現場に入る事になったは、建築予定の建物の説明を受けた後、近くの川まで資材となる石を取りに行き、上級生から指導を受けながら石の運搬をしてその日の仕事を終えた。 初めての実地となった第1学年は、終わるころにはヘトヘトで、終了の号令と共に地面に倒れこんでいる者もいる。 上級学年は軽く汗を拭くと、そんな後輩たちにダラけるなと声をかけて、帰り支度を急がせた。 この様子では、体力がない女性はもっと動けないだろう。棟梁に迷惑をかける前に声をかけなくては……と振り向いた上級生の目には、平然とした顔で大工たちに混じっているの姿があった。 「彼女……何で平気なんだ?サボってなかったよな?」 「ああ。他の1年よりは動いてた」 「でも、川で1回いなくなった気がするぞ?」 「お前、見てなかったのかよ?あの人、林の中にいたモンスターを倒してくれてたんだ。瞬殺だったわ」 「前は魔物狩りの仕事してたって言ってたぞ。だから体力もあるんだろ」 「旦那の方も、かなりしっかりした体してたもんな」 「だったら、今回の実地は、魔物に襲われる心配はいらないな」 「やめろ、それフラグだぞ」 「雑談はそれくらいにして、1年を宿舎に連れてくぞ。俺、棟梁にさんの事、改めてお願いしてくるわ」 もしかすると、上級学年より体力が残っているのでは? そう考えながら、学生の代表になっている生徒が、改めて棟梁にを託す旨を挨拶する。 仕事が終わると同時にデレデレで飲みに誘ってくる大工達の相手を程々にしていたは、上級生と共に頭を下げると、既に帰り支度を澄ませている棟梁の後にくっついて現場を後にした。 小さな村は、大きな荷物の運搬以外は基本的に徒歩が移動手段であり、一番近いガソリンスタンドは、山を下りて1時間はかかる。 何となく、アイシクルエリアの家に似た環境だと考え、同時に、逃げたか魔物に襲われたかわかなくなると言っていた上級生の言葉がよくわかった。 他の生徒たちは村の中の空き家2軒を宿舎として借り、各学年半分ずつになるよう分けられるらしい。 セフィロスの科は人数が少ないため一つの家で全員過ごすそうだ。場所は、木工職人と鍛冶師の作業所の中間らしい。 「アンタが世話になる村長さん家にいるのは、村長とその奥さん、あと村長の親父さんだけだ。息子さんたちは都会で結婚してていないから、その部屋を貸してくれるらしい」 「そうでしたか。ご配慮いただいて恐縮です」 「……アンタ、ちょっと固いな。緊張してんのか?村の奴らは気のいい人ばっかりだから、楽にしておけよ」 「ありがとうございます」 「ちなみにな、これから行く村長さんの親父さんは、この村の英雄なんだ」 「英雄……」 変態なのか? と、思わず口を出そうになった言葉を、は慌てて飲み込む。 セフィロスの裸にコートと、ストーカー男のせいで、この世界で英雄というとどうしても変態がセットだと思ってしまう。 悪い癖だと自分を戒めている間に、棟梁はの呟きに大きく頷き、自慢気な顔で口を開きだした。 「アンタはまだ小さかった頃だろうがな、昔、世界で新種騒ぎが起きた時、この村は封鎖区域になっちまった。軍から退避命令が出てたが、急すぎて間に合わなくてな。村民の殆どが逃げられなかったんだ。そんな時、当時あった小学校……ん?分校だったか?まあ、どっちでもいいが、その校長だった村長の親父さんがな、村人全員に戦い方を教えてくれたんだ。それで、この村は校長を中心に魔物と戦って、無事生き延びた。俺もビシバシ鍛えられたが、校長先生は本当に強くてなぁ……。昔、神羅で兵士してた事もあったらしい。あんな強い兵士が沢山いたんなら、 神羅が世界を支配してたのも納得だ」 「そんな事があったのですか……」 何処かで聞いた話な気がするが、あの時代、密かに生き延びていた村落は少なくないので、はすぐに気に留めるのをやめた。 しかし、世話になるのがある程度の手練れとなると、気配も威圧も、色々と抑えるのに気を使いそうだ。 やっぱり野宿の方が楽そうだな……と思っていると、坂の上に着いたところで棟梁が立ち止まったため、も足を止める。 「あそこに二つ並んで見えるのが、他の奴らの宿舎だ。アンタの旦那さんがいる別の科の宿舎は、そっから畑三つ挟んだどこにあるやつ。わかるか?」 「少し横長で、家の前に井戸があるところですか?」 「そこまで見えんのか?アンタ目がいいんだな。で、手前に来て、村の真ん中にある商店は分かるか?その隣が俺の家だ。何か困った事あったら来い。さっきウチの奴らに、飲みに誘われたろ?上手く相手してくれてたから大丈夫だとは思うが、しつこいようなら、俺の方から言っておくからな」 「ありがとうございます。覚えておきます」 「おう。まあ、アンタに旦那さんがいるってのは皆知ってるから、変な事にはならないと思うが……。ここは田舎だから、若くて美人な女の人が来ると、はしゃいで浮足立っちまうんだ。すぐに落ち着くと思うが、気を悪くしないでくれ」 「ええ。分かっていますので、安心してください」 「よし……よし。それとな、これから行く村長さんの家だが、この坂の下にある家だ。庭先にミカンだか柚子の木があるだろ。そこだ。分校跡の広い空き地の隣だから、すぐに分かると思う」 「……あれは、もう少し大きい柑橘類では……?」 男の拳ほどの実がついている木を見て、は小さく首を傾げたが、それは重要ではないのですぐ気にするのをやめた。 言われて村長宅の横を見れば、確かにから見て奥側に、草がまばらな広めの平地がある。 「この村の人間は、殆ど毎朝その空き地で剣の鍛錬してるんだ。閉鎖時代の名残というか、もう習慣になっちまってな。アンタ魔物狩りの仕事してたんだろ?もし体を動かしたくなったら、村長さんに言えば空き地を使わせてくれると思うぞ」 「そうですね。ありがとうございます。後で、話をしておきます」 「じゃ、そろそろ村長さんの家に行くぞ。……ん?何だあの車?来客か?」 首を捻る棟梁の呟きに目をやれば、確かに村長の家に車が停まっている。 来客に来客が重なって大丈夫なのだろうかと考えながら歩いていくと、5分もせずに村長の家に着いてしまった。 見慣れない車をじろじろ見た棟梁は、しかし迷わずドアの前に行くと、ノッカーを3回鳴らして大声で名乗る。 すると、ドアが開いて赤毛に白いものが混じる老婦人が顔を出した。 「いらっしゃい棟梁さん。そちらがお義父さんが言っていた学生さんね」 「どうも、奥さん。下宿の話は、村長さんじゃなくて親父さんからだったのかい?」 「ええ。何でも、昔お世話になった方のお孫さんなんですって。お義父さんは今、別のお客様が来てるのだけど、気にせず入ってちょうだい。棟梁さんも、少し上がって休んでいって」 「いやいや、カミさんが家で待ってるから、村長さんと親父さんに挨拶だけしていくよ。お邪魔するよ」 「お世話になります。お邪魔します。こちら、つまらないものですが、よろしければ召し上がってください」 実地学習中の楽しみに持ってきていた生ハムとワインを、そのまま手土産として婦人に渡すと、は棟梁に続いて家の中にお邪魔する。 田舎の実家という言葉がイメージするままの室内は、婦人の趣味だろうか、チェックとレースの可愛らしいカーテンや、季節の小物で飾られていた。 棚に入っている食器の隅には、手のひらサイズの縫いぐるみが隠れていて、窓辺には小さな花の植木と手作りっぽい人形が外を眺めている。 同じ田舎にある家でも、自分達が住んでいたアイシクルエリアの家とはかなり違う様子に、はついつい中を観察してしまった。 「物が沢山でしょう?うちのお義父さんが学校で先生をしていた時ね、生徒さんたちから沢山もらったのを、飾ってるのよ」 「慕われていらっしゃったんですね」 「ええ。それに、今は皺くちゃだけど、昔はカッコよくてね。モテモテだったらしいわ。後で若い頃の写真を見せてあげる」 「そうでしたか。楽しみにしておきますね」 ニコニコ笑う婦人と和やかに話ながら奥へ案内されると、そこには3人の男性がいた。 奥の一人掛けの椅子には深い皺が刻まれた、アイスブルーの瞳が特徴的な高齢の男性。 その右のソファには、老婦人と同じ年頃だろう老年の男性。恐らく彼が村長だろう。 そして、その向かいのソファに座るのは、つい1年ほど前、ルーファウスの家に行ったときに会った、ピチピチお肌な永遠の16才カーフェイだ。 何故カーフェイがここに?と首を傾げたは、ふと気が付いて、中央にいる老人に目をやる。 呆けたような、諦めたような、ちょっと心配になる虚ろな瞳をしている老人。 恐らくこの村にあったという学校の元校長であり、村長の父親と言う男の顔を、は記憶から探り確かめるように見つめた。 あの…………あの子。顔はボンヤリ出てくるけど、名前が出てこない。サ……サ?違うな。あれだ、ロバートじゃなくて……あの金髪の……えーっと……ロンツァ?ちがうこれは生ハムの種類だ。 あー……… 無理だな。思い出せん。 「もしや…………うん。初めましてと申します。ジュノンの建築学校の生徒をしております。この度は実地学習の間お宅に受け入れてくださるとの事で、どうもありがとうございます。暫くお世話になります」 カーフェイとガイと一緒だった士官学校の生徒で、ミディールやジュノンへ行く行事でも一緒だった、班長をしていた金髪の生徒。 そこまでは思い出せるが、名前とハッキリした顔は思い出せず、は諦めて初対面の挨拶をした。 が思い出せないと分かってカーフェイは声を上げて笑い、肩を落としながら苦笑いする老人の肩を叩く。 困惑した顔でそんな2人とを見比べる村長に、は何も知らないフリをするために、同じく困惑した顔を作ってカーフェイと老人を見た。 「ドンマイ、アーサー。まあ、アーサーがさんと最後に会ったの、かなり前だし、思い出せないのは仕方ないって」 「カーフェイ、俺は別に落ち込んではいない」 「親父、カーフェイ、どうしたんだ?えーっと、さんだっけ?棟梁も、お疲れ様。とりあえず、座ってくれるか?母さん、悪いけど、お茶をいれてくれないか?」 「いや、村長、俺は挨拶したら帰るから。奥さん、お構いなく」 それだ。アーサーだ。……『ロ』はついてなかったな……。 やっと名前が思い出せて頬を緩めたは、改めて彼の顔を見つめ……瞳の色以外に面影が残っていなくて笑いそうになるのを堪える。 ルーファウスよりは少し若かったはずなので、今は90歳前後のはずだが、その年齢にしては背筋が伸びているし筋肉もある。 恐らくまだ剣を扱っているのだろう。 棟梁と村長に促されてソファに腰を下ろしたは、どういう事かとカーフェイへ視線で問う。 彼とアーサーが話をした結果、をこの家で受け入れると決まったのだと想像できるが、何も聞いていない状況では迂闊に口を開けない。 一同をちらりと見たアーサーは、カーフェイと一度視線を合わせると、小さく咳払いしてから口を開く。 「棟梁、まず、このカーフェイは、俺の古い友人の孫で、年が離れた友人でもある。今日はさんの事で、話をしに来たんだ」 「どうもカーフェイです。俺はさんの前の仕事の関係者です。それで、さんは、元々、俺……の爺さんと、アーサーの古い古い恩師の孫なんですよ。で、今回たまたまアーサーから村で実習と女性宿舎の話を聞いて、生徒がさんだって知ったアーサーが、面倒見てくれる事になったんです。ああ、そうそう、さんは覚えてないけど、生まれてすぐに一度アーサーとは会ってるはずなんですよ。でも赤ん坊の頃ですからねぇ、分かっていても忘れられててさみしくなっちゃったみたいですよー?」 「ああ、だから肩を落としてたんですか。親父さん、子供好きですからね。しかし、たまたま来た学生さんとそんな縁があったとは、偶然とはいえ凄いですね。しかし、これなら安心してお願いできます」 「ええ。私も、祖母から昔話は聞いておりましたが、このような偶然があるとは思いませんでした。カーフェイと会うのも1年ぶりくらいでしたし」 「うむ……。ところでさん、今は結婚していて、ご主人も同じ実地学習に来ていると聞いたんだが……」 「アーサー、夫婦だからって特別扱いできないから、セフィロスさんは他の学生と一緒に宿舎生活なんだってさ」 「えらい男前なんだってな。昼に携帯を見たら、カミさんや姪っ子からも、詳しく教えろってメッセージが沢山入ってたわ」 「……夫がお騒がせしております」 「予想してた事だから、さんは気にしなくていい」 「さーん、明日は我が身ですよー」 「ああ、違いねぇな。じゃあ、そろそろ俺は帰らせてもらうよ。カミさんが、早く帰ってこいって怒っちまう。親父さん、村長さん、奥さんも、さんの事をよろしくお願いします」 「わざわざ送ってくださって、どうもありがとうございました。明日からも、どうぞよろしくお願いします」 西日が差し始めた外に気づいた棟梁は、頭を下げて村長一家にを任せると、足早に帰っていった。 その後が用意された部屋に荷物を置きに行っている間に、カーフェイも帰ってしまっていた。 後で詳しい事を連絡するというメッセージを受け取ったは、とりあえず汚れた作業着から着替えると、台所にいる老婦人の手伝いに向かう。 アーサーは、夕食の時、次の休みにでもゆっくり話そうと言って、早々に寝室に行ってしまった。 鍛えていても、やはり高齢者の夜は早いようだ。 同じく早く休むという村長夫妻から、入浴とその後の風呂掃除を引き受けたは、今日の実地内容の復習とセフィロスへの軽い連絡をして布団に入る。 セフィロスの方は、夕食の当番だった一人が周りを顧みない辛党で大惨事を起こしたらしく、料理が出来る数人で、食べられる料理になおしたらしい。 それにより夕食が遅くなり、食材も余計に使ってしまったのだが、事もあろうに元凶の人間がそれについて文句を言ったため、一時空気が最悪だったらしい。 今は順番に風呂に入りながら、明日からの献立を考え直したり、各当番を決めなおしているそうだ。 こちらが美味しい郷土料理に加え、差し入れた生ハムや、婦人が作った果実酒まで出る夕食だったとは、絶対に言えない。 カーフェイが来ていた事や、アーサーの事は、もう少し落ち着いてから言った方がよさそうだと考えると、はセフィロスの心の安寧を願いながら目を閉じた。 |
||
何か、丁度良いところにアーサーがいましてね……。 2024.05.15 |
||
| 次話 ・ 前話 ・ 小説目次 | ||