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Illusion sand 番外編もしもシリーズ Family Fanyasy 7 最近、姉さんが変だ。 「ヤズー、どうして睨むの?お姉ちゃん何かした?」 「・・・別に」 ソファに腰掛けて、テレビを見ている姉さんは、CMになってからやっと俺を見た。 いつもは隣に座ったらすぐに振り向いてくれていたのに、最近の姉さんはたまにこんな感じだ。 そんな態度をさせるのは、殆どが姉さんの携帯だったけど、今日は珍しくテレビ。 面白い番組なのかと思って、一緒に画面を見てみても、画面に映ってる人たちは難しい話をしていて、俺にはさっぱりわからない。 画面を見ている姉さんは、何だか凄く機嫌が良さそうだ。ほっぺまで少し赤い。 父さんは今カダージュとロッズをお風呂に入れてる。 さっきまでは二人の楽しそうな声が聞こえてきて五月蝿さかったけど、父さんの怒鳴り声の後静かになった。 きっとまた父さんの髪で遊んだんだろう。 ちなみに、俺はさっき姉さんと入った。 CMが流れてる間、姉さんは首をかしげながら、俺の頭を撫でてくれていた。 この間の旅行で日焼けした姉さんの肌は、前のように白くはないけど、そんな姉さんも可愛いと俺は思う。 だって姉さんだもん。姉さんはどんな風だって可愛い。 そんな姉さんに頭を撫でてもらうのが、俺は大のお気に入りだ。撫でるだけじゃなくて、手を繋いでもらうのも、ほかにもいっぱい。 けど、CMが終わって番組が始まると、姉さんの手は離れてしまった。 クッションを抱きしめる姉さんの横顔は可愛いし、少しピンクのほっぺとか、ちょっとぼんやりした目が凄く綺麗だ。 こんな顔をするぐらい、姉さんはこの番組が好きなのだろうか。 だったら俺も、もっと勉強してこの難しい話が好きになれるようになろう。 テレビの中では、カツラっぽいオジサンと、金髪のお兄さんが話をしている。 オジサンの方は知らないけど、お兄さんの方は前に父さんが教えてくれた。新神羅の社長のルーファウスさんだ。 ルーたん隊長のモデルになった人だって言ってたから、覚えてる。 ルーたん隊長はあんまり喋らなくて、でも凄く色んな事を考えてて、冷たい事を言うけど凄く優しい。 けど、画面の中のルーファウスさんは、よく喋ってて、難しい事ばっかり言ってて、あんまり優しいって気がしない。 顔はカッコイイけど、何か俺は好きじゃない。 そう思うのは、多分姉さんがテレビに夢中だからだろう。 オジサンが映ってる時と、ルーファウスさんが映ってる時。見比べてみると、姉さんの顔は何か違うんだ。 ルーファウスさんが映ってる時、何か姉さんは幸せそうな顔をしてる気がする。 やっぱり姉さんも年頃なんだと思う。 今まではそんな事言わなかったけど、14歳なら恋愛してても不思議はないし、彼氏がてもおかしくないし。 クラスの女子だって、芸能人の誰それが好きとか言うし、姉さんがそんな風に思ったっておかしくないんだ。 本当は嫌だし、俺が姉さんの一番でいたいし、ずっと俺だけの姉さんでいてほしい。 でも、こういう事には寛大な心で見守ってあげるべきなんだ。 『恋は一瞬。愛は永遠』って、ジェネシス兄さんが言ってた。 どんな時も紳士的に見守って、時には手を差し伸べて守ってあげるんだって教えてくれたんだ。 やっぱりジェネシス兄さんはカッコイイ。皆は変な人だって言うけど、そんな事無い。 ジェネシス兄さんは凄い人だ。 俺は将来、ジェネシス兄さんみたいな、強くてカッコよくて謎めいてて言葉一つにも深みがある男になりたい。 姉さんのお婿さんは、俺以外の奴は許したくないけど、ジェネシス兄さんならいいと思う。 ジェネシス兄さんは凄く強いから、父さんが敵にならない限り、どんな奴からでも姉さんを守ってくれる。 だから前に、ジェネシス兄さんに、姉さんと結婚してってお願いしたけど、軽くあしらわれた。 傍にいたアンジール兄さんやザックス兄さんは、凄く変な顔してたのに、ジェネシス兄さんは笑顔のままだった。 きっとあれが大人の余裕っていうやつだ。 やっぱりジェネシス兄さんはカッコイイ。 姉さんとジェネシス兄さんなら、美男美女でお似合いじゃないか。 だから俺は、姉さんに聞いてみる事にした。 姉さんは相変わらずテレビに夢中で、俺の方なんか見向きもしてくれない。 ボーっとした顔で、時々指をいじったり、小さく溜息をついたりしながら、それでも真剣にテレビを見てる。 さっきよりほっぺが赤くなってて、もしかして風邪なのかと思ったけど、今はそれよりジェネシス兄さんの事だ。 姉さんには、絶対ジェネシス兄さんと結婚してもらわなきゃ。 姉さんは上の空って感じだけど、こういう状態の方が本音が聞けると思うんだ。 「姉さん」 「・・・ハァ・・・」 「姉さんはジェネシス兄さんの事どう思う?」 「やっぱ・・・カッコイイん・・・だよなぁ・・・きっと・・・他の人から見ても・・・」 「カッコイイだけ?」 「・・・・・・意地悪だけど・・・何だかんだで・・・ちょっと優しいし・・・」 「嫌いなの?」 「・・・嫌いじゃないけど・・・他の人みたいな好きとは何か違うし・・・」 他の人みたいな好きとは違う? これって恋愛で好きって事じゃないか! やった!これで俺の夢が叶う!!姉さんはジェネシス兄さんを愛してて、だから結婚できる! 俺は、今日ほど嬉しい事は無い。夢が叶うって本当に幸せな事だ。 母さんは学校の実習旅行で明日までいないけど、帰ってきたら赤飯を炊いてもらおう! 姉さんはもうすぐ15歳になるから、あと1年で結婚出来る。きっとこれから忙しくなるぞ。 本当は今すぐお風呂場に走って、父さんに報告したい。 でも、さっきカダージュ達が怒られてたから、出てきてからの方がいいかもしれない。 だから、俺は今のうちに、姉さんにその気持ちが本当かどうか確認しておこうと思う。 後から、ただの憧れだっただなんて言われたら、ジェネシス兄さんが傷ついちゃうから。 「姉さん、それは恋してるの?」 「こ・・・・恋?」 「胸がドキドキして、でもキューっと締め付けられるみたいで、でもそれが気持ちいい気もして、何でもないのに顔を思い出しちゃったり、色々想像しちゃったり、考えるだけで幸せな気持ちになったり、する?」 「あ・・・え・・・・・・そんな・・・まさか・・・でも・・・」 「するんだね!?恋してるんだね?!」 「私・・・・・・・・・」 俺の言葉に、びっくりした顔で振り向いた姉さんは、どんどん顔があかくなっていく。 クラスの女子が言ってた『恋の病の症状』を言ってみたら、耳まで赤くなって言葉につまってるみたいだ。 けど、これは当たりって事に違いない。 やっぱり姉さんは恋をしてる。 ジェネシス兄さんが好きなんだ! 「俺、父さんに報告してくる!!」 「え!?ちょ、ヤズー!!!」 真っ赤な顔で目を丸くする姉さんは凄く可愛いくて、もっと見ていたい気持ちになるけど、今は父さんに報告する方が大事だ。 俺はすぐにソファから飛び降りると、お風呂場まで一直線に走った。 すると、丁度父さんとカダージュ達が脱衣所から出てきて、このタイミングは運命に違いないと思ったんだ。 「父さん!大変だよ!凄いニュースだよ!!」 「・・・どうした?」 「姉さんは恋をしてるんだ!!」 「・・・・・・」 「ジェネシス兄さんが本当に兄さんになってくれるんだ!」 「・・・・・・・・・・・・」 「両思いなんだよ!相思相愛なんだ!姉さんのウエディングドレスが見れるんだ!!」 「・・・・・・・・・・・・・・」 ビッグニュースに、父さんは驚いた顔をして、その後眉間に皺を寄せながら首をかしげた。 嘘みたいな素敵な事で、信じられないのは仕方ないけど、でも本当なんだよ父さん。 カダージュとロッズはポカーンとした顔で俺を見てたけど、そんなの今の俺にはどうでもいいんだ。 大事なのは父さんの反応と、その後の喜ぶ顔。 父さんとジェネシス兄さんは仲がいいから、絶対喜んでくれるに違いない。 姉さんの学校にも男子はいるけど、そんな何処の馬の骨ともわからない野郎なんか、俺が返り討ちにして泣かしてやる。 ワクワクしながら父さんを見つめてると、姉さんが廊下を転びながら走ってきた。 もしかして、本当は自分の口から言いたかったのかもしれないけど、ゴメンね、俺が先に言っちゃった。 だって嬉しくて我慢できなかったんだ。善は急げって言うしね。 「ヤズー!?アンタ何言ってんの!?ってか、今、ジェネシスお兄さんとか・・・何で!?」 「何でって、姉さんがジェネシス兄さんに恋してるからじゃないか!」 「・・・、どういう経緯でこんな話になっているんだ?」 「父さん、ごめん、私にもわかんないの。でも、これ嘘だから!ヤズーの勘違いなの!」 「嘘じゃないよ!姉さんは恥かしいだけだろ!?だって俺が聞いたとき、頬っぺた赤くなってたし、恋してるって言ってたじゃないか!」 「・・・とりあえず、皆リビングに行くぞ。話はそれからだ」 真っ赤な顔で声を上げる姉さんは、恥かしがって逃げてるみたいだ。そんな姉さんを、俺は凄く可愛いと思う。 けど、いつまでもそれじゃぁお嫁に行き遅れちゃうから、やっぱり俺が助けてあげなくちゃ。だって俺は何があっても姉さんの味方だ。 口論になりかけた俺と姉さんに、父さんは大きく溜息をつくと皆をリビングに連れて行く。 カダージュとロッズは、姉さんにはジェネシス兄さんよりアンジール兄さんがいいとか、レノ兄ちゃんの方が面白いとか言ってるけど、俺は絶対にジェネシス兄さんしかいないと思う。 「・・・で、何がどうなってる?」 お風呂から上がったばかりの父さんは、少し眠いみたいで覇気が無い。 疲れている父さんに、元気になって欲しいから、俺は元気にさっき言った事を繰り返した。 「姉さんはジェネシス兄さんに恋をしてるんだ」 「だから何でそうなるの!?してないってば!!」 「、お前は少し黙っていろ。お前の話も、後でちゃんと聞く」 大きな溜息をついた父さんは、声を上げた姉さんを宥めて、俺の方を見る。 姉さんは真っ赤な顔で父さんを見て、口を尖らせながら俺を見た。姉さんのそんな表情も、俺は可愛いと思う。 カダージュもロッズも、首をひねりながら俺を見ていて、俺は家族の注目を浴びていた。 「どうしてがジェネシスに恋をしていると思ったんだ?」 「姉さんの態度がそうだからだよ。恋してるの?って聞いたら、照れて真っ赤になってたんだ。凄く可愛かったよ!」 「・・・それで?」 「自覚はなかったみたいだけど、他の人みたいな好とは何か違うって言ってたから、ピンときたんだ」 「だから結婚か」 「うん。だってジェネシス兄さんなら、姉さんを任せても大丈夫だと思うんだ。頼りになるし、大人だし、カッコイイし!俺、姉さんが変な男に泣かされるのは嫌だから、その前にジェネシス兄さんに貰ってもらった方がいいと思うんだ」 「・・・・・・そうか。ヤズー、お前の言い分はよくわかった」 「本当!?」 「ああ。次はの話を聞くから、大人しくしていろ」 「はーい」 やっぱり父さんも、ジェネシス兄さんのカッコよさをわかってるんだ。 ジェネシス兄さんなら、絶対姉さんを大切にしてくれる。してくれないはずがない。 何だか恋のキューピッドになったみたいで、俺はちょっとドキドキした。 けど、姉さんは真っ赤な顔をして、今にも泣きそうな顔をしてたから、俺は凄くびっくりしたんだ。 それは嬉しくて泣いてるのとは違うみたいで、俺の中にあった幸せな気持ちは一気に萎んだ。 「、どうなんだ?ヤズーの言う事に、違うと思う所があるんだろう?」 「うん」 「どこら辺だ?」 「私ね、ヤズーと話してた時は、テレビ見ててボーっとしてて。だから、ジェネシスお兄さんの事考えて答えてたんじゃないの」 そんな・・・酷いよ姉さん。 俺は真剣に聞いてたのに、全然聞いてなかったなんてあんまりだ。 っていうか、じゃあ一体誰の事考えたんだよ。何処の馬の骨の事考えてたんだよ姉さん! 「そうか」 「私・・・ジェネシスお兄さんとは結婚したくない」 そんな言い方、ジェネシス兄さんが可哀想じゃないか! ジェネシス兄さんは凄く素敵な人なのに、姉さんだって分ってるはずなのに・・・しかも、何で父さんは安心したような顔してるんだよ! 親友なんだろ!?残念な顔の一つぐらいしたっていいじゃないか!俺は今すぐ不貞寝したいぐらい残念なのに!! 「・・・それで?」 「ジェネシスお兄さんは好きだけど、そういう好きじゃないの。アンジールお兄さんとか、ザックスお兄さんと同じ好きなの」 「わかった」 俺だって馬鹿じゃないから、俺が誤解してた事は姉さんの言葉でもうわかった。 喜んでた分だけ悲しくなったけど、それは俺が勝手に勘違いしちゃっただけなんだ。 そんな事より、俺はそんな誤解で父さんまで呼んで騒いで、姉さんを悲しませた事の方が悲しくなったんだ。 今まで我侭を言って姉さんを困らせた事は沢山あったし、幼さと弟っていうポジションを利用したセクハラだってしてたけど、姉さんに涙を浮かべさせるような事なんてした事無かった。 だから、こんな風に姉さんが悲しそうな顔をしてると、俺は今までに感じた事が無いぐらい、凄く悪い気持ちになった。 でも・・・でも・・・ 「ヤズー、分かったな?」 「・・・・ない」 「ん?」 「『わかった』じゃない!!」 叫んだ俺に、父さんも姉さんもカダージュもロッズも、皆目を丸くしていた。 驚いた顔で俺を見て、それはやっぱり皆何もわかっていない証拠だ。 問題はもうそんな所に無いのに、何でもっと先を見て考えないんだよ! 「何がわかっただよ父さん!そんな所で質問を終らせないでよ!これで会議終了みたいな雰囲気出してる場合じゃないだろ!!」 「ヤズー、落ち着け」 「落ちつく?!どうやったら落ち着けるんだよ!問題はまだ残ってるじゃないか!一番肝心な事をまだ聞いてないだろ!?」 「ヤズー」 「ジェネシス兄さんじゃないなら、姉さんは一体何処の馬の骨に騙されてるんだよ!?それが今一番重要な事じゃないか!!今すぐ聞き出して、その不届き者を成敗してやらなくちゃ、姉さんが泣かされたらどうするんだよ!俺は俺が認めた奴以外が姉さんの彼氏になるなんて絶対認めない!それぐらいなら俺が姉さんの彼氏になって結婚する!父さんが反対したって、母さんが反対したって、駆け落ちしてでも姉さんを幸せにてやるーー!!」 「・・・・・・・」 堪忍袋の尾が切れるって、きっとこういう事だ。 俺のお腹はムカムカして、頭は火を噴きそうなぐらいカッカしてて、でも脳味噌の後ろ側が少し冷たい感じで。 喉はカラカラしてるし、目の奥が熱くなってくるけど、叫ばずにはいられない感じ。 とにかく俺は、今自分のお腹の中にあるマグマみたいなのを言葉にしなくちゃ、頭がどうにかしちゃいそうだったんだ。 叫んだせいで、息が切れてゼーゼーいってたけど、少しだけスッキリした気がする。 だけど、途中で止めようとしてた父さんの言葉を無視してた事に気がついて、頭から水を被ったみたいに、自分の中にあったカッカしたものが消えたんだ。 カダージュとロッズは、ポカーンとした顔で俺を見てて、姉さんは唇をぎゅっとさせて、目からボロボロ涙を零し始めた。 そんな姉さんを見た父さんは、カダージュとロッズに姉さんを部屋に連れて行くように言って、台所に行ってしまった。 二人に手を引かれた姉さんの、グスグスと鳴る鼻の音に、俺も泣きたい気持ちになってくる。 けど、俺は男だからすぐに泣いちゃいけないし、俺が姉さんを泣かしたんだから、俺は泣いちゃいけないんだ。 瞼が熱くなって、目の前が滲んできたから、俺は唇を噛んで泣くのを我慢した。 リビングを出て行く姉さんが視界の端に見えて、でもその背中を見たら泣きそうだったから、下を向いて手をぎゅっと握る。 そのままテーブルの上を見ていたら、父さんが隣に座って、プリンとジュースを出してくれた。 父さんは馬鹿紅茶を飲んでいたけど、俺は目の前のものに手を伸ばす気にはなれなかったんだ。 父さんは何も言わないけど、怒ってはいないみたいで、けどそれは俺が自分を怒る時間になった。 いっつも姉さんを守るとか言ってるくせに、さっきだって大口叩いておきながら、結局俺は今姉さんを泣かせたんだ。 こういうのを『情けない』っていうんだと思う。 自分が凄くカッコ悪く思えて、そう思えば思うほど涙がボロボロ出てきた。 男なのにベソベソして、ますまず自分がカッコ悪く思えてくる。救い様が無いってこういう事だ。 父さんも、きっと俺の事をカッコ悪いって思ってるんだと思ったけど、父さんは何も言わずに俺の頭に手を乗せた。 「昔・・・俺は一度、に逃げられた事がある」 「・・・え?」 そんなの初耳だ。 父さんが言った言葉が信じられなくて、俺はビックリして顔を上げた。 ちょっと色々おかしい母さんが、父さんに逃げられかけるなら納得・・・出来ないけど、しようと思えば出来る。 けど、父さんあの母さんに逃げるなんて、想像がつかなかった。 よっぽど酷い悪戯でもしたのかと思ったけど、母さんは逃げるより先に拳骨を下ろしてくる。 「神羅戦争が始まったばかりの頃だ。その頃、向こうの狙いはだった。俺達は彼女を守ろうと、表には出さないようにした。冷静に考えてみれば、はただ守られるだけの女じゃないからな。反抗されるのは当然だった」 そうだと思う。 だって母さんは、他にどんなに強い人がいても、真っ先に剣を持って向かって行く人だ。 前にミディールの温泉に行ってモンスターが出た時だって、父さんが一番モンスターの近くにいたのに、父さんに俺達を任せて突っ込んで行った。 まぁ、あの時は父さんが沢山荷物を持ってたから仕方ないけど。 「その時は、俺達もも心に余裕が足りていなかった。全員頭に血が上って、激しい言い争いをして・・・その日の夜、俺は初めてを泣かせたんだ」 「あの母さんが泣いたの!?」 信じられない。 たまに食器棚の角に足をぶつけて唸ってるのは見たことあるけど、そんな時ですら母さんは涙目にすらなっていないんだ。 前に買い物に行ったとき、暗い夜道でコートを広げてきた裸のオッサンすら、ボッコボコにして泣かせてた母さんが泣くなんて。 鬼の目にも涙って言うけど、鬼神とか影で言われている母さんが泣いてる姿なんて、俺は一度も見たことが無かった。 想像だって出来ない。 そんな母さんを泣かせる父さんは、やっぱり凄い。 俺は改めて父さんの偉大さを思い知った。 「ああ。口論の延長で・・・俺もに一発殴られた。それで次の日、は姿を消した。すぐにザックスが見つけたが、結局連れ戻せず、一つだけ約束をして帰ってきた」 「何の約束?」 「危なくなったら必ず駆けつける。だから、彼女に自由を許し、その代わり、次に俺達がを見つけたら、その時は二度といなくならない。・・・そういう約束だ」 「かくれんぼみたいだね」 「ああ。範囲は・・・世界中だったが・・・」 「広すぎるよ」 「そうでもない。は狙われてもいたから、彼女がいる場所には、必ず神羅の軍があった。旧神羅は、と俺達の二つを同時別々に相手をする事になって、の狙い通り、俺達の戦いは随分楽になった」 「何ですぐに迎えに行かなかったの?」 「は、逃げ足がとんでもなく速かった。何度も空振りさせられたが、1ヶ月経った頃に漸く捕まえた。旧神羅の軍は、まだ彼女が予定していたより兵力が残っていたらしいが、約束だからな。大人しく戻って来た。戦況は良いとは言えなくなったが、流石に俺達も、もうを戦場から下げる事はしなくなった」 「ふーん・・・」 父さんやジェネシス兄さん達から1ヶ月も逃げるなんて、やっぱり母さんは只者じゃないんだ。 どんな風に捕まえたのか気になるけど、母さんの事だから、多分散歩してたら見つかったとか、そんな感じなんだと思う。 母さんは、肝心な所で抜けた事をして、それを積み重ねながら生きてるような、変な人だから。 「大切にする事は悪い事じゃない。だが、だからと言って相手を縛り付けるのは、良い事じゃない。お前とも同じだ」 「じゃあ・・・もし姉さんが傷つけられても、父さんは平気なの?」 「そうやって、人は成長していくものだ。だからお前も、もう少しの事を信じてやれ」 「・・・・・・・・・・・・」 「が好きな人は、が決める。周りがどう言おうと、一番大事なのは本人の意思だ。この事は、そっとしておいてやれ」 「・・・わかった」 俺の返事に、父さんは少し笑って頭を撫でてくれた。 父さんの手は、姉さんの手と違って、大きくてゴツゴツしてるけど、力みすぎで潰される恐怖が無いから安心できる。 だって姉さん、テンションが高いと撫でる時の力加減が出来てないんだ。 姉さんに撫でられるのは好きだけど、いつか頭蓋骨にヒビが入るんじゃないかって、時々思う。 カダージュとロッズが姉さんにベッタリくっつかないのは、実はそのせいだ。 本当は全部納得できたわけじゃないけど、父さんの言葉が正しい事ぐらいはわかる。 俺は姉さんが大事で、心配で仕方ないけど、それが姉さんを泣かせる事になるなら我慢しなくちゃいけないと思うんだ。 出来るなら、今すぐ姉さんを誑かした男をボコボコにしてやりたいけど、それも我慢しなくちゃ。 だから俺は、姉さんが傷つけられた時に慰める役を貰う。本当は少し複雑だけど、これはこれで結構オイシイ役だと思うんだ。 「食べたら、早く寝ろ。もう遅い。に謝るのは、明日だ」 「うん」 いつもは夜にオヤツを食べると怒られるけど、父さんがいいって言ってくれたから、俺は遠慮なくプリンを食べた。 3口で食べたら、父さんが少し呆れた顔してたけど、ゆっくり食べてたらカダージュ達に見つかっちゃう。 あいつら食べる事に関しては凄く五月蝿いから、こういうのがバレると嫌なんだ。 時計をみたらもう9時になってて、俺は慌ててプリンの空を持って台所に走った。 俺達の就寝時間は9時って決められてる。それを過ぎて起きてたら、父さんと母さんに怒られて、スリプルで無理矢理寝かされるんだ。 学校の友達は、もっと遅くまで起きてるらしくて、少し羨ましい。 でも、強制的に寝かされちゃうから、俺達に抵抗のしようなんかないんだ。 どうしても夜更かししたくて、3人でリフレクをかけてみた事があったけど、すぐ母さんにバレてデスペルと拳骨を貰った。 だからあれ以来、俺達は就寝時間に抵抗はしなくなった。 だって、痛い思いするより、夢の世界に行く方が全然いいだろ? 父さんにおやすみの挨拶をして、俺は洗面所に走った。 姉さんの部屋の前を通ったら、少しだけ姉さんの声がしたけど、今はまだ顔を見せるべきじゃないと思う。 歯磨きをして自分の部屋に入ったら、布団に入ってたロッズとカダージュ起きた。 俺は少しバツが悪かったんだけど、二人はあんまり気にしてないみたいで、俺に馬鹿林檎チップス(バノーラ産)を差し出す。 「ベッドで食べたら、母さんに怒られるんじゃないの?」 「平気だよ。母さんは今日いないじゃないか」 「俺もう食っちまったし」 口の周りに食べカスをつけながら、二人はニヤニヤ笑ってる。 ゴミは捨てても、シーツの上にカスが残ってるから、どうせバレるんじゃないかな。 俺はプリンを食べたから、もう何も食べる気はしなくて、二人に貰ったお菓子を枕の傍に置いておいた。 布団に入ったら、二人がコショコショ話しかけてきたけど、俺は父さんに怒られるのが嫌だから無視する。 姉さんがどうしてるか気になたけど、俺は眠気に勝てなくて、カダージュ達を放ったまますぐに眠りに落ちた。 「いいんです。ルーファウスさんのせいじゃありませんから。ありがとうございます」 「そんな、いいですよ。そう言ってもらえるだけで、私も嬉しいんです」 「そ、そういうつもりじゃありませんよ!何言ってるんですか」 「だって・・・私まだ14歳ですよ?」 「そうですけど・・・」 「そう・・・ですか?ん〜・・・自分ではよくわかんないです」 「またそういう事言って!からかわないで下さい!」 「もー・・・ルーファウスさん、意地悪ですよ」 「何ですかそれー!」 ドアの向こうから聞こえてくる会話に、セフィロスはドアノブを掴んだまま固まる。 の様子を見に行こうと、そう思って来たはずだった。 最初はボソボソ聞こえるだけだったの声に、セフィロスはすぐ、友達と電話しているのだろうと思った。 落ち込んでいるかと思ったの、とても楽しそうな声に、安堵したのは一瞬である。 娘の口から出た良く知る男の名に、父はサンダガを食らったような衝撃を受けて固まった。 落ち込んでいないようでよかったとか、何故ルーファウスなんだとか、小さかったがもう大人になったとか、いつの間にルーファウスと仲良くなったんだとか、は知っているのかとか、何でこうなってるんだとか。 他にも色々な事が頭に浮かんでは消え、セフィロスは自分が何に混乱しているのかわからなくなる。 とりあえず、立ち聞きは良くないとその場を離れよう決めたのだが、それより先にとルーファウスの電話が終ったようだ。 ただし、 「本当に、ありがとうございます。ルーファウスさんがいてくれて・・・よかった」 という、昔、妻に言われた言葉に被るような台詞を最後にして。 もはやセフィロスの中では、根拠そっちのけで娘と旧友の関係が出来上がってしまっていた。 先程のヤズーも、こんな気持ちだったのだろうかと考えながら、しかし我が子より冷静な自分に、セフィロスは密かに安堵する。 ショックを受けるのは仕方が無い。 少し寂しだけくなったが、娘の思わぬ成長が嬉しいとも思う。 恐らく、相手が学校の男子ではなく、ルーファウスだったから余計にショックを受けたのだろう。 そうに違いない。 娘の恋路がどうなるかはわからないが、年の差もあるのだから、恐らく上手くいかない可能性の方が大きいと思う。 だが、ルーファウスならば、を無下に傷つける事は無いだろう。 あの男が、こうして他愛の無い電話をするだけでも、十分情を持っていると思っていい。 温かく見守り、影ながら応援してやるのが親の務め。 何処の馬の骨・・・否、野豚の抜け毛とも知れないド阿呆男に引っかかるよりは、ルーファウスの方が何万倍もマシ。 セフィロスは、そう自分に言い聞かせた。 ルーファウスが慰めたのなら、今更自分が慰める必要は無いだろう。 今のには、自分が行くより、ルーファウスの言葉の方が何倍も元気になるはずだ。 呆けていたせいで、セフィロスはの足音に気づかなかった。 目の前のドアが空くと、二人は目を丸くして見つめ合った。 「お、お父さん、何でこんな所に立・・・え、いつからいたの!?」 もしや、電話の内容まで聞こえていたのだろうかと、は恥かしくなる。 電話の相手はルーファウスだったが、別に疚しい事は無い。 普通に話ていて、落ち込んでいたから慰めてくれただけなのだ。 悪い事はしていないのだが、何だか変な罪悪感があって、同じぐらい、父の立ち聞きに嫌な気持ちになる。 しかし、そんな気持ちよりも、やっぱり恥かしさの方が上回っていて、は意味も無く視線を泳がせた。 「もしかして、電話、聞いてたの?」 「すまない。聞くつもりはなかったんだが・・・最後だけ、聞こえてしまった」 「・・・さ・・・」 最後って、どの辺りから最後なの!? 長話をしていたのではないが、抽象的な範囲で示されても困る。 いや、聞かれて困る話はしていないのだが、それは気分の問題だ。 無表情に見下ろす父に、はどう言葉を出していいのかわからずにオロオロする。 すると、が何か言う前に、セフィロスが口を開いた。 「・・・ルーファウスは・・・」 名を聞いた瞬間、ボッと頬を染めたに、セフィロスはやはりそうかと考える。 ショックを受けすぎると、感覚が麻痺してしまうのか、娘の反応を見ても彼は驚かなかった。 つい数十秒前までは混乱していたが、いざを目の前にすると、意外と冷静でいられるようだ。 親は子供に成長させられる。自分もそうなのだろう。 「多少性格に難があるが・・・信頼できる男だ」 「・・・うん」 「頑張りなさい」 そう言って、セフィロスはの頭をくしゃりと撫でた。 セフィロスの言葉が意外だったのか、彼女は目を丸くして、呆然と父を見上げる。 その顔が、ただ今出張中の妻が昔よく見せた顔に似ていて、セフィロスは微かに頬を緩めた。 帰ってきてから話をしようと思っていたが、思い出すと声がききたくなってしまう。 長話は出来ないが、報告ついでに電話してしまおうと、セフィロスはから手を離して自室へと向かった。 「お父さん!」 呼ばれて振り向くと同時に、背中に軽い衝撃を感じる。 見ればが背中に抱きついていて、セフィロスは軽く目を見張った。 「・・・怒られるんじゃないかって・・・思ってた」 「怒る・・・?」 「だって・・・お父さん、ルーファウスさんの事知ってるけど、仲間だったし。ルーファウスさんは、私とは全然年も違って、大人で、だから、反対されるかもって・・・」 「・・・・・・・」 「私もね、まだ自分でもよく分かんないの。でも、頑張る。どうしたらいいのかよく分かんないけど、頑張るから」 「ああ」 「ありがとう」 二度と反対できない雰囲気になった・・・。 しかし、自分でそう仕向けたようなものなので仕方が無い。 やはり本人から決定打になる言葉を聞くと、少しショックがあるが、応援してあげるのもきっと楽しいだろう。 ただ、今すぐの声を聞きたくて仕方が無くなるのは、親としての寂しさだと思って許してもらいたい。 今頃はゴンガガの近くで野営をしている頃だろうか。ならばきっと電話にも出れるはずだ。 そんな軽い現実逃避をしていると、はセフィロスから離れ、おやすみと言って部屋に戻って行った。 閉ざされたドアを暫く見つめていたセフィロスは、少しだけ肩を落とし、自室へと向かう。 すぐに携帯を取り出し、に電話をかけたセフィロスだったが、『只今電波が届かない場所にあるか、電源が入っておりません』という無情な音声に、一人寂しく布団に入るのだった。 | ||
はレベルが上がった。 レアアイテム『ヤズーの理解』を手に入れた。 レアアイテム『父の許し』を手に入れた。 レアアイテム『父の応援』を手に入れた。 レアアイテム『痩せ我慢するちょっと寂しげな父』を手に入れた。 2008.10.3 Rika | ||
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