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「見たわよ、・・・」
「最初っから最後まで、しっかりね!」
「見せ付けてくれるじゃないか」
「若いモンはエェのぉ!!フォッフォッフォ!」
、少しは周りの目とか気にしろよ・・・」


余計なお世話だ
今すぐ忘れろ
まだ成仏してなかったのか
なんでまたわざわざ出てくるんだ
ってゆーか、お前らいたのか?

頭に巡る言葉の、一体どれを言ってやったらよいのやら。
揃いも揃ってニタニタ笑いながら夢に出てきた嘗ての仲間に、は悪夢を見ている気分になった。


その感情が、寝言や歯軋りとなってアンジールの耳に届いていた事など、彼女は知らない。




Illusion sand − 76






ミディール出立までに目覚めるかどうか。
そう考えていた町の医者の思いを裏切るかのように、はミディールへ着いた日の午前中に目を覚ました。
万全とは言い難いまでも、日常生活には問題無い程度まで魔力は回復している。

我ながら凄い回復力だと、関心と呆れが混じる言葉を内心呟きながら、彼女は医者に脈をとられたまま自分が居る病室を見回した。
簡素な病室には、が使っているものも含め、ベッドが4つしかない。
どれもベッドマッドだけが乗っている状態で、以外の病人がいない事が分かった。
狭い病室の窓から差し込む日の光が、薄い暖色のカーテンから透け、柔らかな光となって室内を包む。

凄い回復力だとか、精神力だとか。
彼女にとっては分かりきった事でも、医者にしてみれば大層驚く事なのだろう。
感心しながら聴診器を当てる若い医師を、は好きなようにさせておいた。

それが終れば、出てくる言葉は「凄い体力だ」「凄い体だ」という、喜んで良いのかそうでないのか微妙な言葉。
健康体である事を褒めているのはわかるのだが、その興奮のし具合は、今までがかかったどの医者より激しかった。
世の中色んな人間がいるので、さほど驚きはしないが、少しは落ち着いたらどうなのか・・・。


「いやー、もう全然平気ですね。まぁ、来た時から大した怪我とかありませんでしたけど、健康そのものですよ!」
「ありがとうございます」

「元気になったようでよかったですよ。初めてお会いした時は、死んでるんじゃないかと思いましたから」
「・・・・何処かでお会いした事が?」

「あ、やっぱり覚えてませんか?」


首を傾げたに、医師は人好きのする笑みを浮かべると、傍にあった椅子に腰掛ける。
白衣の襟を広げ、中に着ていたシャツの胸ポケットを掴むと、彼はそこにつけていた神羅のロゴのピンバッチを見せた。


「私、貴方が最初に保護された時の軍医ですよ。といっても、所属は軍ではなく科学部なんですがね」


すまん、覚えてない。

しかし、そう言われれば、何処かで見た顔に・・・・見えなくも無い。
あの時は、この世界の文明やら習慣やら、覚える事が大量にあったので無理のない事かもしれないが。
その時世話になったというなら、恐らく本当に最初の頃、点滴を受けていたときに会ったのだろう。


「・・・科学部の方が、何故ミディールへ?」
「今回発生したモンスターの調査。貴方とソルジャーが昨日戦ったアレですよ。新型という報告でしたので、サンプルを取りにね」

「サンプル・・・」
「しかし、どうやら発生したのはあの1匹だけだったようで、今回は死体から細胞を採取して終わりです。出来れば生きたままのサンプルが欲しかったところですが、あのサイズじゃね」


興味深々な様子で喋った彼は、どうやらあの魔物を見てきたようで、最後に悪戯っぽく笑ってみせる。
生きていたところで、捕獲する手段を持っているのだろうかと思いながら、は無言で頷き返した。

科学部・・・という事は、頭はあの宝条とかいう変な男だ。
以前、一度神羅の式典で顔をあわせた事があるが、それ以降は面識が無い。
ルーファウスにも関わるなと言われたし、接点も無いので、少し忘れかけていたが・・・。


「今朝ソルジャーから科学部に連絡が来ましてね、夜勤明けでそのままミディール行きですよ。夕方にはまたミッドガルに戻らなきゃならないし、下働きも大変です。・・・・まぁ、それに見合うだけの研究材料は手に入れたんですけど」
「そうですか。・・・一つお伺いしても?」

「何です?」
「何故、科学部のサンプル採取に来た方が、私の診察を?」


当然の疑問を口にした瞬間、男の顔が微かに強張った。
何かの意図があると言わんばかりの反応に、疑念が生まれるのは当然。
だが、これは『当然の疑問』であって、裏があるにしても何かしらの言い訳ぐらい考えているはずだ。
それすら怠るような人間が、何か仕組んだりするだろうか・・・とも考えられる。


「・・・・・・それは・・・・」
「・・・・・・」


視線を泳がせ、言葉を濁す医師を、は黙って見つめた。
あからさまな動揺が逆に嘘臭く思え、緊張しているように見せてそんな素振りが無い彼の気配に、は微かに眉を寄せる。

解せない。

もしや、単におちょくりたいだけだろうかと考えかけただったが、その瞬間、男はガッと彼女の手を掴んだ。


「あ、貴女と、お話がしたくて!」
「・・・・・・・・・・・」

「軍で、初めて会った時から、私は・・・・その、貴女に恋をしました!」
「・・・・・・・・・」


その態度と言葉は、先ほどの同様や躊躇いに納得を与えるに十分。
しかしやはり・・・申し訳ないが、彼に嘘が見える。

じっと見つめてくる彼を見つめ返しながら、は彼の目と表情に綻びを探した。
伊達に男所帯の軍で高嶺の花をしていたわけではない。
思いを告げられる事は何度かあったが、そんな時は大概相手の感情がその表情から垣間見れるものだ。
この世界と向こうの世界の環境、習慣の違いなのかもしれないが。
疑問を口にした瞬間の顔の強張り方と、今の彼の言葉は、結び付くようで何処か違うように思えた。


「そのお言葉は・・・本当に貴方の本心ですか?」
「・・・あ・・・当たり前です!」

「・・・・・・・」
「・・・・・・・・」


焦りの見える顔で声を荒げた男を、は変わらず、静かな目で見る。
思いを否定されていながら、彼の顔には怒りも悲しみも無く、ただの焦燥しかない。

感情を表に出さない人間もいる。
も少なからずそういう部類に入る人間だが、自分の気持ちを否定されて、それらの感情が無い人間などいるだろうか。
それに、先ほどの遣り取りから考えても、彼は感情を内に抱えるタイプにも見えない。
僅かに引っかかりを覚えるが、今それを言及するのは無駄だろうか。

何かあるなら、後から分かる。そうでなければそれまで。
そう考えると、は彼に握られた手を引き抜いた。


「私は貴方に恋愛感情を持っていません」
「でも、これから先はわからない。そうでしょう?」

「私は、傍に居ると誓った方がいます。それを違える気はありません」
「・・・ルーファウス副社長ですか?」

「・・・・・・・・・・・・」
「・・・やはりそうなんですね」


何故そこでルーファウスの名が出てくる・・・?

眉を寄せたに、それを肯定と受け取ったらしい彼は、肩を落として呟く。
普通は・・・保護されたばかりの頃から思いを寄せていたのなら、これまでがどうしていたか。今誰と住んでいるかも知っていておかしくないだろう。
ならば、そこで出てくるのはルーファウスではなくセフィロスの名のはず。

予想外の名を出され、半ば呆然としかけた彼女は、俯く彼を頓珍漢なのだろうかと思いながら見つめた。
否定しておいた方が良い気もするが、どうも不審なこの男。
勘違いをさせたまま、少し探りをいれてみても良いだろう。


「神羅の副社長・・・次期社長・・・ですか。やはり・・・道理で、手が出せないわけだ・・・」
「・・・どういう事です?」

「貴方の情報は、全てタークスと副社長の下にある。そこから出す事も、見る事も出来ないんですよ。だから誰も、貴女の事を知りたくても、知る術がない。神羅の中にいても、マスコミの情報ぐらいしか得る事が出来ないんです」
「私の行動に関する一切の責任者は、ルーファウスですから」

「愛されてるんですね・・・・」
「・・・・・」


それはどうだろうな・・・。

気に入られてはいるが、少なくともこの男が思っている「愛」ではないだろう。
わざわざそれを説明してやる気はないが、勘違いとはいえ他人にそんな事を言われると、嬉しさとは別の妙な心境になる。
微妙な気持ちというやつだろうか。物凄く首を捻りたくなった。

だが、うかうかともしていられない。
この男の口ぶりでは、過去、何かしら事を起そうとしたという事だろう。
個人情報まで引き出そうとするとは、この男、もしコレまでの言葉が本気なら、相当危険だ。
彼の個人的感情によるものではないと、疑ってかかっているので、生理的嫌悪感はさほどないが。


「仕方ありません。男らしく引き下がる事に・・・」
「貴様そこで何をしている」
「・・・アベル教官」


言葉を遮った声に、二人は病室に入ってきたアベル教官に目を向けた。
饅頭の袋を持って立っている彼は、の前にいる男を睨むように見下ろしている。

それは世間話をする医師を相手にする態度とは程遠く、不審者を咎めるにしては敵意さえ見えた。
何かあるのだろうと、考えずとも察しがついたは、ズカズカと入ってくるアベル教官と、笑顔で立ち上がった医師を見る。


「いやぁ、アベルさん。お久しぶりです」
「科学部の人間が、うちの教員に何の用だ」

「やだなぁ。会社からの指示で、ちょっと診察しただけですよ。それと、世間話をね。あ、お体の方は、大丈夫なんですか?」
「貴様には関係の無い事だ。他には何をした」

「何もしてませんよ。酷いなー・・・変な言いがかりはやめてくれませんか?」
「では、その嘘臭い笑いもやめていただこうか」

「・・・変わりませんねぇ・・・貴方は」
「早く消えろ」


病人はいないが、人の病室で随分険悪な雰囲気を出してくれるものだ。

それだけ大きな溝があるのだろうと考え、しかしわざわざ首を突っ込む問題ではないと、は傍観を決め込む。
アベル教官に言われ、医師はやれやれと立ち上がると、病室の扉へ向かう。


「ああ、そうださん。貴方の血液、少々採取させていただきましたよ」
「何だと!?」
「何故です?」

「未知のモンスターですから、何か病原菌を持っていたかもしれません。本社に戻り次第検査し、後日連絡します」
「検査など科学部でなくとも出来るだろう」
「アベル教官、いいんですよ」


もしやと思ってはいたが、やはり何かしてくれていたらしい。
聞いた瞬間、男の白衣を掴み上げたアベル教官は、驚きと怒りが混じる表情で彼を睨みつけている。
それだけでも、何か良からぬ事態である事は容易に想像がついた。
何せ、アベル教官は良くも悪くも、正義感が強く真っ直ぐで、分かりやすい。

しかし、男の態度を見る限り、此処で制止したとしても無駄だろう。
尤もらしい理由を言ってはいるが、この状況でそれを暴露するのだ。
先ほどのような動揺が無い事を考えると、相当の自信があると見える。

恐らく血液サンプルは、既に此処には無い。
神羅本社へはまだ行っていないにしろ、別の誰かが持っているか、移動用のヘリにでもあるのだろう。

今彼に手を伸ばして、業務妨害と騒がれる方が面倒。
ならば、その先に手を打ち、壁を作って道を塞いでやった方が効果的と、は男に了承する態度をとった。


「そう言っていただけると嬉しいですね」
「貴方は・・・何も知らないからそう言えるのだ!神羅の科学部は・・・!!」
「私は、まだ以前の記憶を無くしたまま。未だ神羅の加護を受けて生活している身です」

「御自分の状況をよく理解しているようで・・・嬉しい限りです、さん」
「ぐっ・・・・」
「ええ。ですから・・・検査の結果については、私ではなく、副社長のルーファウスと、タークスのレノ。そしてセフィロスにも連絡をしておいてください」

「え・・・それは・・・また、どうして?」
「・・・なるほど」
「おや、不思議な事をお聞きになりますね・・・。私に関する一切の責任者は、御社の副社長ルーファウス。そして、担当はタークスのレノ。セフィロスは、私の保護者。
 私に関する全ての事は、彼らに連絡し、把握させるようになっておりますので・・・私の血液を採取も、勿論3人の許可あっての事でしょう?そうでなければ許されない事ですし、それは神羅内では周知のはず。私の個人情報を得ようとなさった貴方なら、当然ご存知ではありませんか」

「そ・・・そうですね。しかし、さんご本人にお話した方がよろしいのでは?」
「彼女は、まだ記憶の欠落に伴う知識不足がある。分からない人間にするよりは、その責任者、保護者達にする方が、事は収まりやすいだろう」
「そういう事です」


まだまだケツ青いわ小童め。

面白いほど動揺する彼に、はニッコリと微笑み返して手を振る。
遠まわしに出て行けと言う彼女に、彼は出来損ないのつくり笑顔を帰すと、足早に病室から出て行った。

一難去ってまた一難。
そんな予感に、は息つく暇も無いと内心溜息をつく。
あの様子では、馬鹿正直にルーファウス達へ連絡する事など無いだろう。
相手が誰であれ、血を取られたというのは厄介だ。
以前入院した時の検査でも、結果の数値が滅茶苦茶で、レノがこっそりデータを隠滅をする事になった。
あの時はただの故障という事でやり過ごせたが、今回はどうなるか。

彼らと、彼らが持つ自分の血が科学部の扉を潜る前に、何かしらの対処はしなければならない。
ルーファウスに権力を行使してもらうより、レノかセフィロスに連絡するのが最善だろう。


「アベル教官、ミッドガルへ連絡を取りたいのですが」
「院内での携帯電話の使用は禁止だ。公衆電話も無い」

「外へ行きましょう」
「歩けるのか?」

「今すぐにでも退院できますよ」


ベッドから立ち上がり、すぐに廊下へ出て行くに、アベルは少し感心する。
病弱な体つきではないが、一見そこら辺の女性と違いの無い細さの彼女の、何処にこれだけの回復力と体力があるのか。
とはいえ、元ソルジャーである自分を簡単に倒すような女だ。それぐらい出来てもおかしくはなさそうだが。


「科学部がどんな所か知っているのか」
「・・・怪しい集団だというぐらいは」

「それだけなら、まだ可愛げがある」
「何かあったようですね」

「昔な。奴ら・・・少なくとも、統括の宝条と、さっきいた男は、とにかく手に負えん。常識も通じん」
「予想できます」

「押さえつける力を持つ者と繋がりがあるのは幸いだ。二度と関わらないようにしろ」
「以前、セフィロス達にもそう言われました。電話、お貸しいただけますか?」


病院の裏口に出ると、はアベルに手を差し出して電話を催促する。
ポケットに入れていた携帯を手渡した彼に、彼女は礼を言うと、自分の懐にあるメモ紙から目当ての番号を探した。

携帯の小さなボタンを、人差し指で恐る恐る押しながら、番号を入れていく。
二度三度番号を確認し、通話ボタンを押すと、数回のコールの後に少し低い男の声が聞こえた。


『もしもし?』
「レノ、私です」

『・・・?知らない番号だから、誰かと思ったぞ、と』
「借り物ですから」

『携帯ぐらい持てよ、と。で、どうした?俺へのラブコールか?と』
「いえ、面倒事が起きました」

『・・・・・・』
「ですから、お願いがあるんです」


の声を聞いた途端、急に声の調子が変わったレノだったが、彼女の口から出た言葉に数秒黙ると、大きく溜息をついた。
小声で『またかよ・・と』という声が聞こえたが、は聞こえないフリをして、事の次第を説明する。
状況を理解したレノは、盛大な溜息をつくと少し待てと言って、通話口を塞いだ。
数秒待ち、再び声が聞こえたかと思っただったが、しかしそれはレノではなく別の男の声。


、一週間と数日振りだな』
「ルーファウス?・・・では、そちらはジュノンですか?」

『いや、少々会議があってな。ミッドガルの、私の執務室だ。話は聞いた。すぐに対処しておこう』
「お手数をおかけします」

『気にするな。お前の私への借りが、また増えただけの事だ』
「・・・・・・いつかお返ししますよ」


相変わらず、ホンットいい性格をしてるなこの小僧は・・・。

至極楽しそうに言うルーファウスに、は呆れの色を隠した声で言葉を返す。
2〜3日中にまた連絡すると言うと、ルーファウスは電話を切り、は携帯をアベル教官に返した。

















「ご苦労」
「話は聞いたぞ、と」
「俺達の許可無く、に勝手な事をしないでもらえるか?」


ミッドガの神羅本社にある共用のヘリポート。
ミディールでの第一調査から戻り、ヘリから降りた科学部の研究員達は、そこにいた男達に目を見開いて固まった。

ジュノンへ出張中だったはずの、副社長ルーファウス。
そして、彼を挟むように立つタークスレノと、ソルジャー1stセフィロス。
3人の後ろには、数名のタークスとソルジャーが控え、室内へ通じる扉をふさいでいた。

仰々しい出迎えをしてくれた彼らは、一見穏やかな態度を見せながら、かなりの威圧感を出している。
もはや言い逃れる事も、逃げ隠れすら出来ない。許してもらえないのは、目に見えて明らかだった。

怯える者さえいる研究員に、レノとセフィロスが近づき、中にあったケースを奪う。
慌てて手を伸ばした研究員を、二人はじろりと睨みつけて黙らせ、箱の中にある血液を取り出した。

だが、彼らのミディール行きの名文は、モンスターのサンプル採取。
今奪った血液が、のものであるか、モンスターのものであるかは分からなかった。
聞いて教えてくれるのならば問題無いが、嘘をつかない保証は無い。

同じく中に入っていた肉片に、二人は数秒考えると、他のケースからも血液を探し出す。
わざわざミディールまで足を伸ばした彼らには、とんでもない横暴かもしれないが、実際やっている事はどっちもどっちだ。

結局見つけたのは、小指程の大きさのサンプルが4本。
どれもラベルや目印は無く、モンスターの肉片と同じケースに入れられていた。
この中の誰かが隠し持っている可能性も十分あるが、流石にこの場で身体チェックまでするのは、後々面倒な事になりかねない。


「これだけなのか、と」
「そ、そうですけど・・・何なんですか一体!?せっかく取ってきたサンプルを・・・」
「・・・・・・・・・・・」


どちらを差してサンプルと言っているのか。
当然の怒りをぶつける研究員を、二人は冷めた目で見つめ、ルーファウスへと目を向ける。
それまで見ているだけだった彼は、ゆっくりと研究員達に近づくと、代表らしい男の前で足を止めた。


「私には一人、とても大切な友人がいる」
「・・・は・・・はあ・・・?」

「彼女の責任者は私であり、彼女に関する全権限もまた、私にある。・・・・私は独占欲が強い男でな。自分の物に他人が触れるのは好かん」
「・・・はぁ・・・」

「誰の指示だ?・・・などと、聞かずとも明白だな。宝条に伝えておけ。今後一切、科学部がに関わる事は私が許さん。もし、また何かするようであれば・・・神羅から科学部が消えると思え。今後神羅が誰のものになるか、くれぐれも忘れないようにとな」
「・・・わかりました」


職権乱用など承知の上で、ルーファウスは宝条と、科学部へ警告という名の圧力を与えた。
宝条の性格を考えると、まだ足りない気がするが、研究員相手にこれ以上の脅しをしても無駄だろう。

奪った血液を持つ二人を連れ、ルーファウスはその場を後にした。
入り口を塞いでいたツォンに、レノはヘラリと笑って肩を竦めてみせると、足早にルーファウスの後ろにつく。


「この血、どうするんですか?と」
「トイレにでも流しておけ」

「了解、と」


あれだけの暴挙をして奪いながら、結果これとは。
ヘリポートに置き去りにした研究員に、少しばかり同情しながら、レノは手の中にあるサンプルをポケットに突っ込む。


「俺は帰らせてもらう」
「ああ。呼び出してすまなかったな」

「構わん」


常と変わらないようではあるが、僅かに疲れが見えるセフィロスに、ルーファウスはちらりと目を向ける。
徹夜の肉体労働という任務に加え、長時間のヘリでの移動の後だ。
ミディールから帰還後、報告を終えて帰ろうとした所を呼び止めてしまったのだから、幾らセフィロスでも疲れていて当然だろう。

セフィロスが下りのエレベーターに乗ると同時に、一緒にいたソルジャー達も解散するようにその場から離れて行く。
その場に残ったのは、今日一日ルーファウスと行動を共にする予定になっているレノと、タークスのオフィスへ戻るツォンだけだった。

内容的には私用とも言える事で、僅かな時間とはいえタークスとソルジャーを動かしたのだ。
その上、サンプル没収という、科学部への業務妨害。
社長の耳に入れば、間違いなく問い詰められる問題に、ルーファウスは微かに口の端を上げながらエレベーターに乗り込んだ。





もはや何夢なんだか・・・・(汗)
2008.03.05 Rika
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