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白銀の刃に、虹色の霧が斬り裂かれる。 その下にあった殻は、まるで紙のように刃を受け入れ、守る盾を失った肉を裂いた。 飛び散る赤を全身に浴びながら、ザックスは呆然と借り物の剣をみつめる。 彼女が力を与えたのか。しかしはそこまで人間離れはしていない。 では何故、あっさりと魔物の体に傷を与える事が出来たのか。 考えかけ、しかしそれに没頭している事態ではないと、ザックスは再度魔物の体に刃を向ける。 容易に傷を負わせる事が出来るのは、この状況での最たる幸運。 驚くアンジールやシヴァの元へ戻り、ザックスは魔物の首を狙って剣を振るった。 魔物を守る霧は、遠い世界で生まれた彼女の魔力が与えたもの。 異なる世界で作られた剣は、今この世界にあり、そこに生まれたザックスの手によって振るわれる。 偶然か必然か。 二つの世界の力を得て目覚めた魔物は、同じ力を持つ事となった彼を前に、己の血で身を染めた。 闇の誘われ目を覚ました月が、木々の合間を昇っていく。 赤を滲ませた金色の光を受ける事も出来ず、森を抜け出た外の世界を目に映す事も出来ず。 不完全な目覚めを与えられた魔物は、遠い空に一声鳴くと、咽笛を掻き切った刃に崩れた。 哀れな魂は星へ帰り、体は塵となって空へ帰る。 残された霧は歪んだ時空の彼方へと吸い込まれていった。 勝利の喜びは、失ったものの大きさに押しつぶされ、空虚さだけが胸を満たす。 交わす言葉が見つからず、僅かに視線を交えた彼らは、僅かな期待と、終焉への恐れを抱きながら、森の奥へと歩いて行った。 Illusion sand − 74 押しつぶすかのような砂の音が遠ざかる。 だが、それは消える事は無く、頬を擽る風のように、耳の傍で囁き続けていた。 瞼の裏からでも分かるような強い光に、セフィロスはゆっくりと目を開ける。 視界に広がるのは、額を重ねていた彼女の顔でも、鬱葱とする夜の森でもなく、雲ひとつ無い空。 抜けるような青の中、目覚めを与えた光は、彼を焦がすかのように天に浮かんでいた。 彷徨わせた視線は、何処までも広がる青と、ゆっくりと流れる象牙色の砂を辿る。 果ての無い砂漠の大地の上に倒れている自分に、セフィロスは思考が追いつかないまま、ゆっくりと身を起した。 降り注ぐ太陽は暑さを感じさせず、体の下を流れる砂も、彼を連れて行きはしない。 掬い上げようとした砂は、彼の手をすり抜け、緩やかに流れていった。 彼が知る地の砂よりも粒が細かく、純粋な砂だけの綺麗なそれは、何処へ行き着くのだろうか。 その流れを目で追いながら立ち上がったセフィロスは、広がる情景に揺らめく影を探す。 夢を見ているような感覚の中、いつか彼女を見つけた日のように、彷徨う姿を砂の流れの中に求めた。 風の無い砂漠に、静かに流れる砂の音だけが響き、遠くに浮かぶ蜃気楼が太陽に揺れる。 青と象牙だけの景色を見渡し、彼女の名を呼びかけた彼は、自分の背の方角に見えた緑に目を止めた。 砂に浮かぶようなそれに、セフィロスは目を細め、辺りに見える薄い草地を見つける。 何故と聞かれて答える理由は無く、しかし何か惹きつけられるような感覚に、彼はその緑を目指して歩き始めた。 「・・・戻って・・・来たのか・・・?」 零れた呟きに、咲き誇る花々が答えるように揺れた。 若かった森は年を重ねた木で溢れ、それでも日の光を遮る事無く、大地に根付く草木へ柔らかな日差しを恵む。 聳える大樹はその幹に苔を生やし、過ぎ去った時の長さを教えるようだった。 髪を揺らす風は命に溢れ、朧になった幼い頃の記憶と重なる。 大地に満ちるこの世界の力は、長い時を経て帰って来た彼女を、待ちわび、暖かく迎え入れるようだった。 願い続けていた地。 そこへ漸く辿り着き、その大地の上にいながら、喜びという感情が生まれない自分に、は顔を伏せる。 何故と思うには、答えは簡単すぎて、自身を優しく包む風に彼女は顔を背けた。 生まれ育ったこの世界に、僅かな記憶を手繰ろうとしても、一時の希望を与えた世界での思い出がそれを覆い隠していく。 感傷的になる思いさえ、未だ続いているだろう彼の世界の戦いに気を向けられ、戦いの最中離れてしまった事への悔しさに変わった。 戦いの結末と、戦う事になるだろう彼らと、その行く末ばかりが頭を巡る。 自分の魔力があったために、強大な力を得てしまったと言っても良いあの魔物を前に、彼らは生き残ってくれるだろうか。 感情を思考で押し留めながら、一つ一つ考えていても、表面的な冷静さは内から溢れてくる思いによって徐々に崩されていった。 自分を見失わないよう、強く握り締めた拳には、あの世界に引き止めていてくれていた彼の手の感触が蘇る。 それが切欠となると、堰を切ったように彼の事ばかりが溢れ、きつく閉じた瞼の裏にさえ、最後に頬を撫でた顔が浮かんだ。 自分ですら分からない感情に、これ程に心乱された事などあっただろうか。 いつか、あの世界に辿り着いた時、先の事などどうとでも出来ると思った自分は、何処か遠くへ行ってしまった。 帰還を喜ぶ事も出来ず、過去を割り切る事も出来ず、未来を考える事さえ拒絶する。 この地で生きていた、昔の自分に戻るだけなのだと思いながら、感情はそれを否定したがった。 辿り着けるはずが無い場所に足を踏み入れたのは自分。 本来あるべき流れに戻っただけだというのに、その地で道を示してくれた彼がいないだけで、自分はこんなにも弱くなる。 そんな事で、これから先どうするのだと自分を叱咤しても、前を向く気は起きてくれなかった。 『なぁ、はどうしたい?』 風に揺れる木の葉の音に混じる声に、は顔を上げて振り向く。 だがそこに、この場所で一時の再会を果たした時、名を思い出させてくれた彼はおらず、蔦が這う石の固まりがあるだけだった。 6人の人間を模った石像と、その先にある、花に埋もれるように並んだ6つの石版。 回り込んでみると、そこには仲間の名と、生没年が刻まれていた。 レナ、バッツ、ファリス、クルル、ガラフ。 5人の墓石を眺めると、は一つだけ石の材質が違う、一番端にある石版に近づいた。 の名と、生まれた年が刻まれた石版は、当然ながら没年が刻まれていない。 「どれ程経っても・・・傍にいてくれるんだな・・・お前達は」 この世界で、ただ一人になった今も傍にいてくれているのだろうか。 相変わらずだと思いながら、漸く感じる事が出来た僅かな嬉しさに、は微かに頬を緩める。 それでも、拭い去る事が出来ない憂いに後ろめたさを感じ、その笑みは消えてしまった。 落とした視線の先には、天を見上げるように佇む自分達の石像があった。 巧妙に作られた嘗ての仲間の石像は、まるで生きているかのように、まっすぐ空を見つめている。 その中にも、彼らと肩を並べる自分の姿があり、はゆっくりと歩み寄ると、土台の部分に刻まれている文字を見つけた。 蔦に埋まってしまっているそれに、人が訪れなくなって久しいのだと思いながら、彼女は蔦を剥ぎ取る。 綴られているのは、あの戦いの記録。 遥かなる太古、世界が二つに引き裂かれた事から始まり、エクスデスの誕生、暁の戦士の戦い。 そして、風が止った日の出会いと、そこから始まった長い旅路。 ただの記録は、思い出を綴る事は無く、淡々と歴史を刻んでいる。 それでも、忘れてしまった事の多さを思い知らせるには十分で、懐かしさとは別の感覚に、は少しだけ眉を寄せた。 長い記録は、次元の狭間に残ったの事を刻んで終る。 記録は土台の中ほどまでで終わったが、その下に記録ではない言葉が刻まれていた。 親愛なる友へ 今懐かしき邂逅の日より、我らの心に君はある。 共に歩みし旅の日が、春光が如く我らを照らせども、今尚悔やむ離別の時は、追憶の情景に雨を降らせる。 世界に光が戻りし日より、輝ける大地は追懐を誘い、恵みの雨は憂いを与え、海原を渡る風は心を攫い、温かに照らす炎は君を思い出させる。 明星輝く夜空を見ては、君を残したかの地を思い、君が残した言葉を思いては、日が昇り来る度帰還を願う。 この地で果たした夢現の再会が、終で無い事を信じている。 親愛なる友よ、君を待てず果てる事を許してほしい。 先に逝った友と共に、我らはこの地で眠りにつく。 親愛なる・。 永久に君の帰りを待つ。 友が残した言葉を辿り、は微かに目を伏せて文字をなぞる。 彼らが待ちわびた帰還は余りにも遅すぎ、残した言葉さえ時の流れに風化し始めていた。 それでも良いと言うように、髪を撫でる風は彼らの言葉だろうか。 都合の良い解釈だと分っていながら、しかし此処に眠る彼らならば、そう言ってくれる気がした。 嬉しくないはずがない。 喜ばないはずが無い。 それでも、長い歳月を経ても変わらない彼らの暖かさの中、それを心から受け入れる事が出来ない自分がいた。 友の墓前に立ち、残された言葉を辿り、彼らが望むようにこの地に戻って来たのに、頭の中には一握りの時を過ごした世界がある。 失ってしまった多くの物を取り戻させてくれた世界は、この生まれ育った世界と同じほどに愛しい。 過ぎ行く時に流された記憶を埋めてくれた日々が、共に過ごした彼らが恋しくてならない。 最初にこの身に触れて、最後に触れてくれていたセフィロスの姿ばかりが、瞼の裏に浮かんだ。 大きな手の感触と、名を呼ぶ声が届く場所が、自分の居場所になっていたのはいつからだろうか。 「すまない・・・」 1000年の時を経て尚、自分の帰りを待ち続けた仲間の前に、は眉を寄せて顔を伏せる。 森を吹きぬける風に、木々がざわめき、散った花弁が舞っても、伏せた瞼の裏にいる人の姿は揺るがなかった。 「すまない・・・私は・・・・・・・・・もう、帰りたい場所を・・・見つけてしまった」 いつか彼に話した事がある。 故郷とは、生まれ育った場所だけではなく、出来上がっていく事もあると。 その手に刃を携え戦う時、何に変えても守ろうと思える場所。 やがて肉体が滅び土に返る時、その心が帰る場所。 それは、いつの間にか、この場所ではなくなってしまっていた。 「私は・・・・・・彼の・・・セフィロスの元に帰りたい」 渇望する人の名を言葉にした瞬間、胸の内側から刺されたような痛みが走る。 締め付けるように痛む咽は、それ以上の声を出す事を邪魔するように、浅い息を吐き出した。 「すまない・・・バッツ、レナ、ファリス、ガラフ、クルル・・・すまない・・・それでも・・・私は・・・・・・」 伏せた瞼から滲んだ雫が、影を落とす睫毛を濡らす。 それ以上零れる事をこらえるように、は瞼を強く閉じ、拳を握り締めた。 力が抜けた体はその場に座り込み、震える唇でひたすらに友への謝罪を紡ぎながら、心の中には別の人がいる。 その名を呼びたがる咽は、言の葉に乗せようとする度に詰まるように痛み、胸の奥から体ごと軋むような痛みを与えた。 この痛みと苦しみが四肢を引き裂いてくれたなら、肉体という檻から抜け出し、彼の元へ行けるだろうか。 馬鹿な事を考えていると自覚しながら、それでも良いとさえ思う自分に、は自嘲さえ出なかった。 「・・・セフィロスとの、傍にいるという約束・・・守らせてくれ・・・。 帰りたいんだ。 私はまだ何も彼に返していない。何一つ返していない! 共に生きたいと願った!私は愚かだ!彼が先に逝く事を分っていながら、100年の猶予に甘えた! それを知りながら、傍にいる事を許したセフィロスの言葉にさえ甘えた! 騎士の誓いと言いながら、私はただの愚かで醜い女に成り下がった! それでも!・・・セフィロスが・・・傍にいる事を許してくれるなら・・・・・・・・・共に・・・いたいと・・・・・・」 吐き出した言葉に、返る返事は無い。 乱れた息を繰り返しながら、見上げた仲間の顔は変わらず、天を見上げたままそこにある。 青すぎる空が滲み、熱くなった雫が目尻を伝っても、霞んだ日の光は晴れなかった。 「帰してくれ・・・。私は・・・セフィロスの元に帰りたい。共に生きたい。誓いを・・・約束を守りたい・・・だから・・・・・・」 搾り出すような声は、舞い散る花弁と共に空へ消える。 届かない願いに、彼女の瞳は呆然と天を見上げながら、幾筋もの雫を頬に伝わせた。 零れ落ちたそれは草の葉に受け止められ、土の上に流れ落ちる。 変わる事無く降り注ぐ、無慈悲な天の恩恵の中、忘れかけていた絶望が、胸の内の痛みに代わって目を覚まし始めた。 打ち捨てられた街道は獣道となり、目に鮮やかな緑が石畳を覆っている。 まるで何かに取り憑かれたかのように、セフィロスはその道を辿っていた。 一体何処へ行くのだと考える頭とは対照に、手足は走り出しそうな程に先を急ぐ。 頬を滑ってゆく風に、甘い花の香りが混ざり、それを追うように小さな花弁が流されてきた。 それは道標のように、セフィロスが進む先から伸び、彼の傍まで辿り着くとふわりと森の中へ消えていく。 進み続ける足が、自然のままに生えた草を踏みしめる音の中、僅かに違う音が混ざった。 進む先から聞こえるそれは人の声のようで、誰のものかを頭が理解するより先に、彼の体は走り出す。 この先にいると、漠然とする感覚にさえ確信を持ち、しかし近づくほど小さくなっていく声に不安を感じた。 だが、砂漠に見えた森を目指したように、花弁の導に従うように、今の彼にはこの先を目指す事しか考えられなかった。 「っ!」 草木に覆われた街道から、急に開けた場所へ着き、セフィロスは驚いて立ち止まる。 柔らかな日の光が差し込むそこは、彼を此処へ導いた花が一面に咲き誇っていた。 花に埋もれるように並ぶ6つの墓標と、聳え立つ大樹が、幻想的な光景に神聖さを与える。 だが、二つの間に立つ石像へ目を向けた彼は、その傍にいるの姿を見つけると、この場所に感じた僅かな恐れを忘れて足を踏み入れた。 座り込んで項垂れた彼女に、いつもの前を見据え両の足で立つ姿は無く、セフィロスは僅かな戸惑いを覚える。 歩む度に否応なく散る花弁が風に舞い、その香りを溢れさせた。 「・・・」 名を呼ぶ声に、俯いていた彼女は微かに顔を上げる。 傍らに歩み寄ったセフィロスは、視線を合わせるように膝を着いた。 視界に入る黒い服と銀の髪に、はゆっくりと顔を上げると、そこにいる、いるはずが無い彼を呆然と見る。 霞が晴れた視界には、少し驚いた顔をした彼が、青緑色の瞳で自分を見ていた。 「・・・泣いていたのか・・・?」 夢か幻か。 止った思考は現実を受け入れる事が出来ず、呆然とするの頬にセフィロスの指が触れる。 濡れた頬を撫ぜ、零れた雫を拭う感触は、胸にあった苦痛を一瞬で消し去っていく。 代わりに溢れた柔らかな感情は、何故彼が此処にいるのかという疑問さえどうでも良いと思えるほど、彼女の中を満たした。 これが現実なのだと、漸く理解出来た心が、再び雫となって頬を濡らす。 それすら零す事なく、指で拭うセフィロスの手に、は自然と笑みを浮かべながら頬を寄せた。 穏やかな眠りに着くように、瞼を閉ざした彼女の手が、頬に触れていた彼の手を包む。 皮のグローブから、の手の暖かさを確かに感じた。 触れる手と胸の内から広がる、温かくも柔らかな感情に、セフィロスは微かに目を緩めると、自分の額を彼女のそれと重ねる。 掻き抱きたくなる衝動に、苦笑いを零した彼は、尚も零れる彼女の雫を拭いながら、その感触を確かめた。 言いたい言葉は沢山あるはずなのに、どれも形にはならず、数多の言葉に埋もれながら、唯一形らしい形の一つを言の葉に乗せる。 「迎えに来た」 ゆっくりと目を開けた彼女と視線が合い、セフィロスは小さく笑みを零す。 青緑の瞳を映す黒い瞳が、そこでやっと彼に、を見つけた事への大きな安堵を与えた。 言うべき事は他にあると知りながら、しかしそれさえ不要だと思えるこの時の、何と心地良い事か。 彼女に触れる程に、胸の奥から溢れる温かな感覚は、春の日の木漏れ日よりもまどろみを誘った。 彼女に包まれた手を滑らせ、頬にかかる横髪を梳き、自分より幾分も小さな体を腕の中に閉じ込める。 まだ少し濡れている頬に自分の頬を寄せ、肌で感じるの体温に、セフィロスは彼女を包む腕に力を込めた。 背に回された温かな腕と、布越しに伝わる鼓動に、は一度友の姿を見上げ、ゆっくりと目を伏せる。 此処が自分が帰りたい場所なのだと、心の中で彼らに伝え、最後の雫が瞳から零す。 謝罪の言葉を唇で模り、遠い日と同じ日の光に瞼を伏せると、自身を包む温もりに身を預けた。 いつからか、草木が揺れる音は消え、散った花弁を弄んでいた風も止んでいた。 柔らかな日の光は変わらず、しかし、森は闇夜より深い静謐に沈んでいる。 終焉を思わせる沈黙の世界で、近く遠い場所から自分達を呼ぶのは、一体誰の声か。 薄く開いた目には、木漏れ日を落とす大樹と、止ったはずの風を受けるように揺れるの髪。 一切の音が消える中、水面に雫が落ちる音が響き、それに続くように砂の音が近づき始める。 花の香りの中に、何処かでかいだ事がある違う匂いが混ざり、セフィロスは僅かに眉を寄せた。 呼び続ける声は止まず、雫の音は砂の音と混ざりながら水音に変わる。 更に強くなる匂いに、顔を顰めた彼だったが、呆然とする頭と力が入らなくなった体では、その現象をどうする事も出来なかった。 胸にある時計の秒針が、心臓の音と重なるように鳴り始める。 磨りガラスのような闇が、段々と視界を覆い、セフィロスは腕の中にいるを離さないように、強く彼女の体を抱きすくめた。 抵抗も、抱き返す事もせず、人形のように抱かれた彼女に、セフィロスはハッとして目を向ける。 閉ざされ始めた視界の中、止んだ風に揺れる黒髪は、闇に舞う虹のように、色の無い砂へ変わっていった。 失うまいと伸ばした自身の手すら、闇に変わり始めた世界の中に溶けていく。 音も無く、痛みも無く消えていく体に、呆然とする意識すら闇に溶け込んでいく感覚がした。 だが、次の瞬間、彼の体には全ての感覚が戻り、闇が薄闇へと変わる。 眠りから覚めた瞬間のように、ガクリと体が揺れ、それまで消えていたはずの音が戻ってきた。 しかし、その音は木々のざわめきでも、風の音でも、の声でもなく 「!セフィロス!!戻ってきてくれよ!!」 という、耳元で叫んだザックスの、馬鹿がつくほど大きな声だった。 そして、その言葉の意味を理解する間もなく鼻に襲ってくる、ツーンとした突き刺さるような匂い。 思わず出そうになる呻き声を堪えるも、セフィロスは反射的に体を起す。 瞬間、ビクリと動いた腕の中の重さに、彼は落としそうになったの体を慌てて抱えなおした。 「・・・う・・・・・・」 僅かな呻き声を上げ、ゆっくりと瞼を開けたに、セフィロスは小さく安堵する。 多少の混乱を引き摺りながら、彼は視線を彷徨わせる彼女の顔へ手を伸ばし、頬にかかる髪を払う。 くすぐったさにが微かに身じろぐと、彼は小さく笑い、背に添えた腕で彼女の身を起した。 大樹の森は若い木々のそれへと代わり、空には温かな日に代わって、白い月と数多の星が淡く浮かんでいる。 薄闇が落ちた森は妙に騒がしく、見ればエリクサーの瓶を片手に呆然とするザックスがいた。 後ろには、地に手をついて息切れをする召喚獣と、それを介抱するアンジール。 そこは、セフィロスが生まれ育ち、が生きたいと願った世界だった。 | ||
ぬぉーー!ギャグにしたい!ギャグにしたい!!という衝動を、必死に抑えました。そしてやっぱり最後にギャグ入りました。 あのー・・・あれだ。ラブがあるシーンは・・・書いてて恥かしいね。そして・・・難しいね。 何か、文章とか表現とか(ってか日本語とか)心配なんですが、今回は此処まで。 2008.02.07 Rika | ||
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