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Illusion sand − 61






縛っていた縄を、何の躊躇いも無く切り落としたに、男達は微かに驚き、しかしそれを表面には出さず見ていた。
仲間がいるキャンプまであと数百メートル。
こちらの存在には気付いているのだろうと思いながら、今更になってどんな顔で仲間の元に戻れるのかという後悔が襲ってくる。
誇りか命かと聞いた目の前の女に、死力をもって戦いたいと前者を選びながら、結局は僅かに永らえる生にしがみ付いていたのだろうか。


「漸く気がついたか・・・」
「・・・貴様・・・・」

「お前達が選んだ事だ」
「・・・・・・・・・」


最初から知っていたのかと、表情を歪めた捕虜に、は感情の無い声で言葉を返す。
同時に、彼らから奪った武器を地面に投げ捨てた。


「もう一度選ばせてやる。今再びその僅かに残る誇りを選ぶか、それとも仲間との再会を果たすまでの僅かな生か」


仲間の居場所を吐いてしまった時点で、彼らはもはやのうのうと帰ることなど出来ないだろう。
それでも選択権を与える彼女に、何故そこまでするのかという疑問を持ちながら、男達は足元に転がる武器を手に取った。


「何で俺達に選ばせる?」
「自分の最後ぐらいは自分で決めたいだろう」


それが敵でもか、と口先から出かけた言葉は、答えを得ようとするのも無駄に思えて彼らは飲み込んだ。
真っ直ぐに見つめる彼女の瞳は、それ以外何の含みも見せず、ただ馬鹿正直に自分の思った事を口にしたにしか思えない。
考えなしのようには見えないが、その行動の理由も、きっと先程彼女が言っていた「結局、人は人」という事なのだろう。


「此処なら、お前達の仲間からも見える」
「見せしめかよ」

「覚悟を決める時間ぐらいは出来るだろう」
「そりゃどうも」


ケッと嫌そうな顔をした男に、はチラリと目をやると、数歩下がって間合いを取る。
昼間より大分腫れが引いたとはいえ、男達の顔にはまだ血の固まりや青痣があった。
それを作ってやったときの、情けない泣き顔など嘘のように、今の彼らの目にはそれぞれの意思が見える。

さっさと始末してしまえば、生徒を置き去りにするという、教員として失格の行為をせずに済んだだろう。
だが、一度かけてしまった情けを易々と捨て去ってしまえない、中途半端な自分が彼らを仲間の前で散らせる事を選んだ。

自分が知る者が居ない、誰かに見つけてもらえるかも分らない場所で死を迎えさせる事には、抵抗を感じた。
それが、狭間に居た頃の自分と、彼らを重ねてしまっているという事も自覚している。
生きているか死んでいるかも分らず、帰らない事に死を受け入れながら、それでも何処かで生存を信じる彼らの仲間にも、自分の帰りを待ち続けた仲間の姿を重ねている。

この甘さは、ずっと昔から変わらないのだ。捨てる気も更々無かった。
これからも、きっとそうだろう。


「アンタよぉ、戦いには向いてねぇよ」
「残念だが、これでもお前達よりは長く戦って生きている」

「神羅に居るにゃ勿体ねぇな。今からでも寝返らねぇか?」
「私の居場所は私が決める」

「そりゃ残念・・・ま、時間もねぇ。本気でいくぜ」
「来るがいい。その誇りに恥じぬ最後、付き合ってやろう」


傷だらけの体に鞭を打つように、男達は剣を抜くと地を蹴った。
その姿を、目を逸らす事無く見つめていた彼女は、彼らが間合いに入ると同時に剣に手をかける。
彼らの剣が振り下ろされるより早く、銀の筋が一本胴を横切った。
溢れ出した赤がまるで宝石のように天上の光を反射する中、返り血を浴びる間さえ無い速さで駆けた彼女の後ろで、息絶えた体が音を立てて地に崩れ落ちる。


最後に人を殺めた日の事を思い出した。
だが、霞む記憶は形になるより先にかき消され、「変わらないな」と笑う仲間の姿と、「好きにしろ」と言って微かに笑うセフィロスの姿が浮かんだ気がした。









「ロベルト、待てってば!ちょっと離れすぎだろ」
「・・・・・・・」
「気持ちは分んねぇわけじゃねえけどよ、そろそろ止らねぇと、戻れなくなんぞ?な?」


班から離れ、荒野をズンスン進んでいたロベルトは、暫く進んだ後二人にかけられた言葉に漸く足を止めた。
それに安堵したように、カーフェイとジョヴァンニはロベルトの隣に歩み寄るが、二人が隣に着くと同時に彼は胸元から数本のナイフを取り出す。

「は・・・?」

何でそんな物を・・・と考えた瞬間、ロベルトは暗闇に向かってそれを投げた。
ヒュッという風を切る音に続き、獣の呻き声と、ドサリという音が聞こえる。
ポカーンとしたカーフェイを横目に、ロベルトは今仕留めた獲物の元へ歩くと、息絶えたモンスターの額から、自分が投げたナイフを抜き取った。


「・・・眉間に一発か。やるじゃねぇか!」
「よく見えるな」
「唸り声、聞こえたから」


刃に着いた血をハンカチで拭うと、ロベルトはそれをポケットに仕舞いなおす。
ようやく言葉を出した彼に、今ので少しだけ気は紛れたのだろうと考えると、カーフェイは倒れたモンスターの死体を漁り始めた。
ポーション一つだけという小さな収穫だったが、何も無いよりはマシだと、それをロベルトに手渡す。
少し血が付いたポーションを腰に付けた道具袋に突っ込むと、彼は近くにあった岩の上に腰掛けた。
背を向けて膝を抱える彼に、カーフェイとジョヴァンニはまだ機嫌は治らないようだと顔を見合わせる。

ゆっくり岩に登ってくる二人に手を貸すことも無く、ロベルトは暗い地平線をじっと見つめていた。
少し離れた場所にジョヴァンニがドカリと腰を下ろし、ロベルトを挟んだ逆隣で、カーフェイは腕を組んで空を見上げる。

何も言わない二人の気遣いを感じながら、素直に言葉を出せない自分に胸がモヤモヤする。
の捕虜への処遇を思い出す度、裏切られたような気持ちになって、ロベルトは拳を握り締めて顔を伏せた。


「泣きたきゃ泣けよ」
「泣かないよ」

「んじゃ叫ぶか?」
「いい」

「好きなだけそうしててもいいぞ」
「待っててやっからよ」
「・・・・馬鹿」


いつもは大して話もしない仲のくせに、こんな時に優しくしてくる二人に、瞼が熱くなった。
何だこの青春の一コマみたいな図と、馬鹿にしたくなりながら、この空気の心地良さに心が軽くなっていく。
きっとそれも一瞬でしかないのだと考えながら、心が捕らわれないように彼は静かに拳を握りなおした。





「ロベルトがさぁ・・・」


暫くの沈黙の後、呟くように口を開いたカーフェイに、ロベルトはゆっくりと顔を上げる。
声の主は、それに目を向けるでもなく、遠い空の向こうを眺めたまま、考えるように口をもごもごさせていた。


先生の・・・アバランチへの態度、許せねぇのも・・・ホントじゃねぇの?普通はさ、神羅側の人間だったら・・・迷わず殺すだろうしさ。多分、俺でもアーサーでも、きっとそうしてたと思う」
「・・・・君も?」

「まぁ、そういう立場・・・だしな。俺も、先生の考えてる事イマイチよく分んなかったし、ロベルトみたいに何で?って思ったけど、考えがあるのは間違いないと思う。あ、だからって納得しろとか言うんじゃねぇぞ?それは・・・そいつの自由だろ」
「・・・・・・・・」

「でもほら、俺達のやる事は、実習だろ。あっちの事はさんに任せなきゃならないしさ。多分・・・さんは俺達に・・・何つーか、人が殺すとことか、死ぬ所とか見せないようにしたいんじゃないかなって」
「・・・最初の死体作ったのは・・・・あの人だろ」

「んー・・・そうなんだけどさ。
 俺、あの神羅兵のカッコした奴の死にそうな姿見て、カッコ悪りぃけど、滅茶苦茶ビビったんだよ。
 あんま・・・良くわかんなかった。死ぬとか、殺すとか、そういうの・・・現実じゃないみたいに思えてさ。
 卒業したら・・・軍に入るのにな。
 その後も、俺浮かれたフリしてたけど、気持ち、ガチガチだったし・・・。
 アバランチが出てきた時さ、ああまた殺されるんだって思ったんだ。
 でも、俺の横通り過ぎる時、先生小声で、心配するなって言ったんだよな・・・。
 よくわかんねえけどさ、何かそん時急に楽になったんだよ。
 震えとか無くなって・・・その後、半殺し程度だって笑ったけど・・・あ、アレ恐かったなー・・・って、そうじゃなくて、その・・・」
「捕虜を連れて行ったのも、僕達の為?」

「そ、そういう事!・・・じゃ、ねぇかなって思う・・多分」
「・・・・・・・・」

「でもな、俺が・・・ロベルトが、先生の行動とか、アバランチに対してどう思うかってのは、ロベルトが考える事で、ロベルトが答えだす事だから・・・俺、ベラベラ喋ったけどさ、あんま気にしすぎんなよ」
「・・・・・・・・・・・・」


にかっと笑って見せるカーフェイに、ロベルトは眩しい物を見るように目を細め、静かに視線を逸らした。
彼の話を聞くことで、幾分か軽くなった気持ちとは反対に、胸の真ん中にはまだ薄れてくれない黒い固まりがある。
それに気付く度に、感情を吐き出さずにいられなくなる自分を抑えながら、ごろりと横になったジョヴァンニに目を向けた。


「ジョヴァンニは・・・どう思ってるの?」
「俺かぁ?」

「うん」
「・・・・・わかんねぇ!」

「わ・・・」
「難しい事分んねぇんだよ、俺。頭使うタイプじゃねぇしな!」


ガハハと豪快に笑い出した彼に、ロベルトもカーフェイも目を丸くする。
それを気にせずニコニコしているジョヴァンニは、ロベルトへちらりと視線を送るとニヤリと口の端を吊り上げた。


「面倒くせぇ事考えてもよ、結局敵は倒す!味方は守る!だろ?」
「君・・・・」
「ジョヴァンニらしいな」

「そりゃぁ、俺だからな!戦う理由とか、敵がどうとか、考えてたら動けねぇよ」
「理由・・・か」
「・・・・俺らの敵はモンスターだしな。理由も何もねぇか」

「そうそう。実習旅行中アバランチ襲撃ってなぁ、確かに予想外の事態かもしんねぇが、こうなっちまったもんは仕方ねぇだろ?あんま考えすぎんのはオメェの悪い癖だぞ、ロベルト」
「・・・・・そう・・・だね」
「戦う事に・・・なんのかな・・・アバランチとさ」

「・・・いいんじゃねぇの?オメェには戦う理由あんだろ?」
「・・・・カーフェイに?」
「あー・・・」


二人の視線を受けて、カーフェイは頬をかきながら視線を空に向ける。
ちらりと見たジョヴァンニは相変わらず笑顔で、ロベルトは真剣な顔で自分を見つめていた。
喋らなければならない雰囲気かと、苦笑いを浮かべた彼は、小さく息を吐きながら天上に広がった星の海を見つめる。


「俺の親、アバランチが出来てすぐん時に起きたテロあるだろ?あれで死んだんだよ」
「・・・・・・・」
「姉ちゃんもだろ」

「バッ・・・姉ちゃんは生きてたよ!勝手に殺すな!!」
「ジョヴァンニ・・・・・」
「あれ?そうだったか?だははははは!悪い!」

「・・・いいよ。どっちにしても、意識戻んなくて、入学式のちょっと前に死んだしな」


怒るカーフェイへ笑いながら謝るジョヴァンニに、流石のロベルトもじとりと彼を睨む。
だが、楽観的な彼のお陰で軽くなった空気に、カーフェイは苦笑いを浮かべて肩を竦めるだけだった。


「兄貴も、この間のテロで死んだからさ、今一人暮らしなんだよ」
「じゃぁ・・・・」
「兄貴いたのか」

「ん。この間まで、体術の講師してた人いたろ?アレ。つっても、姉ちゃんの婚約者だったけど」
「・・・・・・・・・・」
「妙な縁だな」

「嫌だよなぁ。その線だとさぁ、何か俺もアバランチ関係で死にそうじゃね?今回とかスッゲェ嫌な流れだよなー」
「そう・・・だね」
「いや、そこは否定しろよお前」

「ホントだよ。ジョヴァンニの言うとおりだぞ。俺傷ついちゃうよ?」
「・・・・ごめん」
「ダハハハハ!」


時期は違っても、カーフェイがアバランチに家族を奪われた事には変わりない。
ならば彼には戦う理由はあり、また憎しみもあるだろう。

思い出し、悲しんでいるのだろうか。それとも怒っているのか。
そう思ったロベルトの気持ちとは裏腹に、カーフェイの表情はいつもと変わらず、感情を押し止めている様子も無かった。
どうして彼が平然としていられるのか、ロベルトには分らない。
普段も、カーフェイは誰かに考え込む様子など見せた事がなかった。
彼の普段の様子を思い出せば、申し訳ないが、どう頑張っても女子の集団を頬を染めながら眺める、怪しげな姿しかない。

そんな彼の意外な過去知り、ロベルトは驚くと同時に思考を捕らわれた。
無意識に返してしまった返事に、呆れた顔をする二人の視線を誤魔化すように、彼は視線を落とす。


「それにしても、ジョヴァンニ何で俺の昔の事知ってんだ?」
「あー・・・何日か前によ、マクスウェル教官とかが喋ってたの聞いちまってな」
「・・・そんな噂話、人に聞かれる場所で軽々しくするものじゃないよ」

「所詮他人事って事だろ。俺は気にしてねぇし・・・ロベルト、お前が気にする事でもないだろ?眉間に皺寄ってるぞ」
「別に珍しい話でもねぇさ。反神羅派の奴らに大事な奴殺された人間なんて大勢いる。その逆もな」
「・・・・・・」

「過去とか、立場とか、戦う理由とか・・・人それぞれなんだ。
 俺は、こういう形だった。
 ロベルトとかジョヴァンニがどういう理由もってるかなんて、俺知らないけどさ・・・。
 誰でも言いたくない事とか、言えない事とかあるし、聞かねぇでおくわ」
「助かるぜ」
「・・・・・・・・・うん」

「あ、でもさ、言いたくなったら言ってもいいぞ?俺のだけ知ってるなんて、ちょっと不公平なんじゃじゃなぁい奥さーん?」
「んお?・・・へへっ。あらやだ、カーフェイさんったら。意地悪ねぇ〜」
「・・・き・・・・君達・・・」


気色悪く体をクネクネさせるカーフェイと、ノリノリの裏声で返すジョヴァンニに、ロベルトは顔を引き攣らせて身を引く。
特に、ジョヴァンニの野太い裏声には寒気すら感じ、彼は鳥肌がたった自分の両腕を摩った。

心なしか顔が青い彼に、二人は顔を見合わせるとクスクス笑いあう。
からかわれた事を知ったロベルトは、不服さと諦めが混じる微妙な表情を浮かべると、ゆっくり立ち上がった。


「戻んのかぁ?」
「・・・うん」


完全とはいかないものの、機嫌を直したらしいロベルトに、二人は微かに笑みを浮かべてその後に続く。
目を凝らすと、遠くにアーサー達の姿が見え、思ったより離れてしまっていた事にロベルトは少し驚いた。
それに不平を漏らさず着いてきてくれた二人に、胸が温かいようなむず痒いような感覚がする。
同時に、感情で突っ走った自分への情けなさを感じ、彼は微かに視線を落とした。

それを戻る事への気まずさと取ったのか、隣に居たカーフェイが気にするなと言うように、そっと背中に触れる。
自分より少しだけ背が低い彼に目を向ければ、カーフェイはいつものヘラリした笑顔を向けてくれた。

その笑顔に、さっき聞いた彼の境遇など忘れてしまいそうになる。
どうしたらその笑顔から、隠したそれを想像出来るというのか。
彼が兄と言っていた、前体術の講師の死からまだ日は経っていない。姉の死もまたほんの数ヶ月前だ。
あまりにも普通過ぎる彼の態度は、感情を隠す術に長けている人間だと考えるには、少し無理がある気がした。

本来なら、の行いに真っ先に意義を唱えていたのは自分ではなく彼だったはずだ。
同情こそすれ、正直ロベルトにはカーフェイの気持ちは全く分らない。







「カーフェイ」
「ん?」


アーサー達の姿が確認出来る辺りに差し掛かった頃、ロベルトは幾分か緊張しながら彼を呼ぶ。
ただ名を呼んだだけだというのに、胸の内を全て吐き出してしまったような、妙な恐怖が声を震わせた。
だが、帰ってきたカーフェイの声は、いつもと全く変わらない何気ない返事。
それは、彼らしく毒気を抜くような響きだったが、踏み込んではいけない場所に入り込もうとしている自分を思い知らされるようだった。
数歩先を歩くジョヴァンニが、緊張している自分に気付いて少し振り返ったが、ロベルトはそれに気付かないフリをする。


「憎く・・・ないの?」
「何が?」

「・・・アバランチ・・・」
「・・・・・・・・・」


微かに動揺したカーフェイの瞳に、大切な場所に踏み込んでしまったのだと、ロベルトは今更に自覚する。
だが、踏み込んでしまった足を今更引く事など出来るはずもなく、不躾と知りながらもその先を求める自分を選んだ彼は、足を止めてカーフェイと向き合った。
ジョヴァンニも、立ち止まった二人に一度足を止めたが、口を挟む事はせず、一人先に歩き始める。


「奪われたんだろ・・・君も・・・」
「・・・・・・うん」


真っ直ぐなロベルトの瞳に、カーフェイは数秒黙り、微かに目を伏せながら返事を返した。
だが、再び重なった彼の視線は、この会話には不釣合いな程晴れやかで、ロベルトは僅かに目を見開く。


「最初はさ、すげぇ憎かった。絶対許せねえって思て、それでこの学校入った」
「カーフェイ、それ・・・」

「けどさ・・・。姉ちゃんとか、兄貴まで死んで、俺本当に一人になって・・・。
 苦しかったし、辛かったけど、全然泣けなくてさ。
 どうやったら泣けるのかもわかんないぐらい・・・これからの事とかだって、何もわかんなくて。
 ただ、アバランチの奴らが憎くて許せなくて仕方なかった。皆死んじまえばいいって思った。
 けど・・・おかしいだろ?
 確かにあいつら俺の大事なもん全部取っちまったけど、あいつらもきっと誰かの大事な人なのかもしれないんだ。
 あいつらは俺の事全然知らないけど、俺だってあいつらの事何も知らない」
「・・・・・・・・・・」

「そんなの考えてたらさ、キリ無いし、戦えないってのはわかるんだ。
 けど・・・大事な人居なくなんのが辛いの、すげぇ分ってんのに、なのに俺、誰かの大事な人いなくなっちまえって・・・思った。
 ・・・そんな事考えた自分が・・・・・恐くなった」


俯きながら、呟くように語るカーフェイは、自嘲が混じる歪な笑みを浮かべていた。
だが、己の感情も抑えられなかったロベルトには、それすらも眩しく思える。

情けなさか、やり切れなさか。
立ち止まったまま惑い、当り散らす事しか出来ない自分を知るロベルトは我知らず拳を強く握ったが、カーフェイを見つめる瞳には羨望の色があった。
素直に胸の内を曝け出し、己を見つめなおして前へ進んでいる彼が羨ましく思える。
同時に、彼はこんな戦場にいるべき人間では無いような、だが彼のような人だからこそいるべきのような、矛盾した思いが生まれた。


先生言ってたろ?敵だろうが味方だろうが、結局人は人だって。
 何か・・・周り皆神羅の人間で、アバランチは敵だし、殺すか殺されるかって感じでさぁ・・・俺ダメなのかとか思ってたんだ。
 でも、先生がそう言って・・・俺一人じゃないんだなって・・・勝手だけど思っちまったんだよな」
「・・・・・・・・・」

「お前はお前だとか、すっげぇ当たり前の事なんだけど・・・忘れてたんだ。
 俺は俺だから、俺の考えで俺の道を作るんだって。
 親とか兄貴とか、誰かが傍にいて、守られたり、道作ってもらったりする事に慣れてたんだよ、俺。
 だから・・・その・・・さ、ロベルトも、ロベルトの考えでいていいんじゃねぇかな。今は無理でも、いつか・・・な」
「・・・・うん」

「まだ、自分がどうしたらいいかとか、よくわかんねぇんだ。けど、きっと、この実習中に見つけれる気がするんだ」


晴れやかに笑える彼とその強さが、目を覆いたくなる程眩しく、ロベルトはさりげなく視線を逸らす。
突っ撥ねられてもおかしくない場所まで踏み込んでいる自分を、難なく許してしまうカーフェイに甘えたくなった。
そんな事出来るはずが無いだろうと、子供染みた意地で己を制しながら、覗き込む事が既に甘えなのかもしれないと脳裏で呟く自分がいる。
彼の言葉に何処かで救いを求めていた自分と、強くなれない自分に気付いた足さえ、止める勇気も持てなかった。
カーフェイのように考える事が出来れば、それを越えて行こうと思える強さがあったならと、無い物強請りの思いばかりが溢れ出る。

『行こう』と言って歩き始め、立ち止まったままの自分を振り返り、引き返して背をそっと押してくれたカーフェイの手が、顔も名も知らない親の温かさのようだった。







少年達の青春劇場。もはやFF夢ではないですね(汗)
今回はカーフェイが物凄く喋ってましたが、彼は元々結構口数が多い設定です。
17歳のカーフェイに励まされるロベルト19歳。
次回はようやくザックス登場です。アンジール率いるソルジャー部隊も到着しますよ〜。
2007.10.04 Rika
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