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「第一陣は、予定通り出発したそうだ」 『そうか』 ヘリとの通信を受け取ったセフィロスは、モニターに映った統括にそう言うと、相変わらず本を読む同僚にちらりと目をやる。 当の本人はちらちらとこちらを見ながら朗読を始しているが、その顔・・・というか、その眼差しが妙に感情を見せているのは何だろうか。 『すまないな、セフィロス。本当はお前が一番に行きたかっただろうに』 「・・・そうでもない」 『それが、彼女お前の絆か?ふふっ。情も絆も信頼も、愛があればより深まるからね』 『仲がいいんだな』 「ラザード、感化されてないでジェネシスを黙らせろ」 『障害に燃え上がるのはただの恋。心深めるのは愛。恋と愛は似て異なるものだ。そう、それは愛情、友愛、敬愛・・・・様々だ。心通わせない二人に、それはただの崩壊を手招く事にしかならない。越えられなければ永遠は望めない。それを恐れないセフィロスの心にあるのは・・・』 『そろそろ出発の時間だな。ジェネシス、行こう』 「ラザード、そいつは連れてこなくていい。途中の山に落としておいてくれ」 『酷いな・・・』 『ではセフィロス。第2陣の出発準備、頼んだぞ』 「わかっている」 『さんに愛の言ブツッ 止らないジェネシスの暴走発言に、セフィロスは彼の言葉を遮って通信を切る。 普段は普通なくせに、一度スイッチが入ると彼は奇怪な発言ばかり口にするようになるのだ。 聞くだけ無駄。止めるだけ無駄。むしろ更にヒートアップされるだけ。 日々彼の暴走を傍観していたセフィロスは、さっさと頭を切り替えると、午後7時04分を表示した時計を眺める。 結局数日後の任務のためミディールエリアへ行けなかった彼は、ジュノンから戻ってくる二人を待って帰宅となる。 予定の任務が終わってからは、状況次第でミディールエリアに行く事になってはいるが、今留守番しなければならない事に変わりは無かった。 出撃したソルジャーは、アンジールを筆頭とした実力に定評のある2ndと3rdが10名程。 少ないか多いかはわからないが、これが今出せる人員の限界だった。 時差と移動時間を考えれば、向こうに着くのはアンジール達が夜中。第二陣は明け方になるだろう。 単独で行ってしまったザックスの事が気にかかるが、現地にがいるとなれば、彼女が何かしら手を打っている可能性もある。 今朝早く出た彼女が、自分の剣を持って行った事には少し気を引かれたが、状況を知れば納得がいく。 恐らくはこの状況を知っていたのだろう。 でなければ、体術を教えている事を考え、彼女は平然と手ぶらで行くだろう。 そして散々暴れながら、それを暴挙と気付かず、何事もなかったかのように無傷で帰ってくるに違いない。 『特に変わりありませんでしたよ』 そう言う彼女がすぐに想像できて、セフィロスは漏れた笑いを慌てて手で隠した。 今朝行ったばかりだというのに、が帰ってくるのが楽しみで仕方が無いのはどうたものか。 例え状況が悪く救援に向かう事になったとしても、次に顔をあわせた時には必ずその言葉が出るに違いない。 彼女にとっては、どんな大事も小事だ。 何はともあれ、ソルジャーが行き、未熟ながら戦いを知る生徒がいて、あのがいるのだ。 ジェネシスの期待を他所に、セフィロスにはこの任務に対する心配は微塵もなかった。 どんな騒動があろうと、が自分の元へ帰ってくる事は、セフィロスにとって当然の事になっていた。 Illusion sand − 60 捕縛した反神羅組織の男を脅迫し、は彼らが仮の根城としているキャンプを聞き出した。 捕虜が妙な真似をしないためにも、今は先頭を目がいいジョヴァンニが行き、その後ろに彼らを囲むように他の班員が歩いている。 空は既に星空へ変わり、視界は月の光だけが頼りでしかなかったが、岩か雑草ぐらいしか無い荒野には十分な明るさだ。 目を凝らせば、ずっと遠くに何処かの班らしき灯りも見える。 こんな場所で光を作っては、魔物にもアバランチにも見つけて下さいと言っているようなものだ。 とはいえ、引率が反神羅組織の手のものであったら、本当にそう言っているのだろうが。 地図と共に受け取る予定だった食料等の物資を持たない第8班は、当然の事ながら腹を空かせている。 その上、風を遮る物が無い此処は、長袖の制服を着ていても寒い。 頭まで寒いガイは、一番体温が高いカーフェイの傍に移動させてもらうと、その体にへばりついてプルプル震えていた。 当初は男に擦り寄られても嬉しくないと言っていたカーフェイだが、日が沈んでからどんどん下がる気温に負けたようで、今は静かにしている。 空いている腹と、今日の毛布を手に入れるには、そこら辺をうろついているアバランチから貰うのが一番だとは、誰もが考えた事だ。 勿論、貰うと言っても穏便に貰えるはずがないのはわかっている。 相手が反神羅組織なので、その相手はがするのだが、生徒達は彼女を一人で戦わせる事にあまり良い顔はしなかった。 相手の数は両手で数える程であり、少々武術をかじった程度のヒヨッコにが負けるはずなどない。 が、生徒は彼女の実際の力量など知らないので、当然の事ながら心配したのだ。 中でもカーフェイの抵抗は凄まじいものがあったが、いざとなれば自分達も出ればいいと言うジョヴァンニに漸く納得してくれた。 加勢どころかむしろ邪・・・ なんて台詞、よもや言えるはずも無く、は苦笑いを浮かべながら、危なくなったら呼ぶとだけ答えておいた。 この遣り取りに、ルーファウスと誘拐された時の事を思い出し、少し懐かしくなる。 まだ数ヶ月前。眠っていた時期もあるので、さほど前ではないのだが、『今』はやはりあっという間に過ぎてしまうものだと、ひとりしみじみしてみた。 が、年寄り臭い事を考えている間に、案内のために引き摺る捕虜が、キャンプはすぐそこだと知らせた。 散々甚振り、今も怯えきった目でを見ている彼に、嘘の気配は無いだろう。 嘘をついたところで、先程の拷問が再現されるだけだと、彼は身をもって知っている。 コンフュで混乱させてから問い質せば、偽る余裕が無い精神のまま全て吐いてくれるのだが、今のは迂闊に魔法を使う事が出来ない状況だった。 生徒達が傍にいる手前、持っているマテリアの種類と、魔法の使用回数を考慮しなければならないのが一つ。 もう一つは、レノに言ったこの戦でのの隠し手。エリア内に放っている召喚獣の存在である。 ゴムボートで海を越え、島が見えると、は召喚獣を島の中に出現させた。 彼らへの説明は既に前日までにしており、彼らはこの地に降り立った瞬間から反神羅組織への警戒をする事になっていた。 手筈通り彼らが動いてくれたのが、昼間見つけた神羅兵に扮するアバランチである。 だが、この広すぎる範囲をこの世界に来てから顔を合わせた4人だけで補うと言うのは、幾ら召喚獣と言えど無理があった。 4人とは勿論、シヴァ、イフリート、ラムウ、オーディンの事である。 仮とはいえ人の姿を持っている彼らに動いてもらうのは、にしても安心できるのだが、だからと言って4人に無理をさせるわけにはいかないだろう。 結果、人の姿を持たないフェニックスやバハムート達にも出てもらう事になった。 だが、あんなデカイ鳥が二匹も空を泳いでいると大騒ぎになる。 下手をすれば、守るどころか討伐対象になる可能性もあるので、そこは魔術の達人でもあるらしいオーディンが力を貸してくれた。 彼が他の世界で何をしているのかは知らないが、てっきり槍と剣しか使えないと思っていたは大層驚いた。 召喚契約のために刃を交えた時、間違ってかけたブレイク剣を使ったら一撃で倒れたので、内心大した事は無いのかもしれないと思っていたのだが・・・どうやら彼は凄い存在だったらしい。百何年目にして知る真実である。 ただし、だからと言って手放しで術を使ってくれる気は無いらしく、彼はそれに必要な魔力をしっかりから消費していた。 その分のMPは2割程減っているのだが、彼女のMPは普通の人間に比べると、桁がおかしいとしか言いようの無い数値だ。 直接的な戦力にならないゴーレムやカーバンクルには流石に頼めず、そうで無い者も若干名いた。 まず、チョコボは仕事を忘れて放浪しそうだし、下手をすれば誰かに乗られるか肉にされて食われる可能性がある。 運悪くデブチョコボなんぞ出て来てくれた日には、身動きが取れないので使い物にならず却下だ。 シルフとレモラは全く攻撃力が無いので、無駄死には必死。 カトブレパスは、目が合った瞬間石になるため、生徒が犠牲になる可能性が大いにあるので無理。 タイタンは体格が大きすぎる。オーディンの魔術で小さくするという手もあったが、何分格好が褌一丁。 しかもその格好で行く気満々だったので、遠慮させていただいた。 下着姿のマッチョオヤジが宛もなくフラフラしていては、助けるどころか変質者として捕まえられる可能性があった。 結果、協力してもらえるのは、中級から上級の召喚獣のみとなってしまったのだが、彼らならば頭もそれなりに良いので問題無いだろう。多分。 一匹程、途中で飽きて空に帰ってしまいそうなドラゴンがいるが、今のところは問題なく仕事をしてくれている。 してくれている・・・と、何故が分るのか。 それは、召喚獣達がこのエリアに留まり続けている為に必要な魔力を、彼女が送り続けているからである。 実際の所、送り続けていると言うより、吸い取られていると言った方が合っているかもしれない。 彼らが一箇所に留まり続けるには、その時間に応じた魔力が必要らしい。 それに加え、今回は通常の召喚のように、ただ攻撃して去っていく通り魔紛いの召喚ではなく、しっかりと指示を与えての召喚なのだ。 その分の魔力も、しっかりとられた。 変化と召喚と指示の3つで、のMPは半分まで減ったが、頼んだ事柄を考えれば妥当と言えるかもしれない。 そして、彼らが何か行動を起すにも、例外なく魔力は必要らしく、その働きに応じて彼女のMPは減っていっていた。 突然90だの100だのMPが減るのは、彼らが攻撃を仕掛けている証拠だ。 数がいるせいで1秒あたり10ぐらいずつMP数値は下がっているが、この4日間はギリギリ大丈夫だろう。 保存期間が長くて効力が半分しか無くなっているが、元の世界で旅に出る頃手に入れたエリクサーは持ってきている。 難点は、無味無臭だったはずのそれが、蓋を開けるとツーンとした臭いを発する事だが、我慢できる程度だと思う。 家で蓋を開けたとき、セフィロスは真っ青になって窓という窓を開け、二度と蓋を空けないでくれと言ったが、捨てるのは勿体無いので、この実習中生徒にも分け与えて使ってしまおうと思う。 彼らのHPなら、ハイポーション程度で何とかなるが、少しぐらい甘やかしても良いだろう。 勿論まだ何の臭いも発していない普通のエリクサーもあるが、とりあえず古いのから先に使うつもりだ。 エリクサーもあり、休息すればMPも回復する。 大まかな予想でしかないが、この4日間大きな魔法を使わずにいれば、何とかなりそうだった。 それを察してか、単にサボりか。 よく燃えている鳥が時々消え、暫く経ってからラムウに呼び戻されたりしているので、当初考えていたよりMPの消費は少ない。 そういう訳で、今回は最低限の魔法しか使えないは、拳と剣でこの戦局を乗り切るしかなかった。 こちらの方が、ルーファウスの時のようなボロが出ないので、結構気は結構楽だが。 「先生、アレじゃないッスか?」 ジョヴァンニの声に顔を上げると、遠い岩場の影にうっすらテントの影が見えた。 注意して目を凝らさなければ見えないようなそれを、よく見つけたものだと感心しながら、は縛られて歩かされている捕虜を見る。 目が合った瞬間小さく悲鳴を上げられたが、今更なので気にしない事にした。 「どうする?」 「・・・え?」 「選ばせてやる。一度仲間の元へ戻るか。このまま捕虜として神羅に引き渡されるか」 「・・・・・そ、それは・・・」 「さん・・・・」 「・・・・何考えてんの?」 敵の逃走を許容するようなの言葉に、アーサーとアレンが眉を潜めて前に出る。 カーフェイはただ困惑の表情を浮かべ、ジョヴァンニは方眉を上げながら首を捻っていた。 すると、そんな二人の肩が後ろから突き飛ばすように避けられ、二人は横に数歩よろける。 顔を上げた彼らの目には、はっきりとした怒りの表情を浮かべたロベルトが、の前に立っていた。 カーフェイの傍にいたガイは、いつの間にかカーフェイから離れ、地面の上に体育座りしながら、じっとを見つめている。 「先生・・・それ、どういう事ですか?」 「ロベルト、待て」 「君は黙ってて。先生、何で彼らを逃がすような事言うんですか」 強く拳を握り締め、押し殺した声さえ震えているロベルトに、アーサーが間に割って入る。 だが、ロベルトは彼に目を合わせることすらせず、自分を一瞥もしないを見下ろしていた。 「・・・裏切り・・・ですか?」 「やめろっての」 「彼らは敵なんですよ?連れてくか始末するしか無いんです。なのに何でそんな事言うんですか?先生は神羅側の人間なんでしょう!?だったら・・・神羅に刃向かう者は殺せば良いじゃないですか!」 「ロベルト!!」 「アーサーだってそう思ってるんじゃないのか!?今逃がしたら、他の皆が殺されるかもしれないんだぞ!?なのに逃がせるのか?!君はそんな事言えるのか!?」 「・・・・・・」 目の縁を赤らめて怒鳴ったロベルトに、アーサーは言葉に詰まり、顔を歪めて彼と見詰め合う。 生徒の中には、反神羅組織に恨みを持つ者は少なからずいる。 理由は様々だが、今はそれを聞く空気ではなく、また、彼の言う事も正しくあったため、誰も口を挟みはしなかった。 箍が外れたように感情を吐き出すロベルトに、班員もまた言葉をかけられず、彼から目を背ける。 そうしないのは、ようやくロベルトに視線を向けたと、迷いの中にある捕虜。 そして相変わらず地面に座って傍観しているガイだけだった。 「甘ったれてなんかいられないんだ。敵は殺すか殺されるかしかないんだよ」 「お前・・・」 「いいんじゃないかな〜?」 アーサーをまっすぐに見つめるロベルトは、言い聞かせるように言葉を続ける。 だが、その空気はガイの明るい声によって寸断された。 ロベルトの主張とは全く異なる言葉に、以外の全員が驚いて彼を見る。 だが、注目された彼の顔は、この状況の中不釣合いな、無邪気な笑みを浮かべていた。 「逃がす気なんか無いよね、先生?」 首を傾げながら言うガイに、生徒も捕虜も驚きの表情を浮かべ、ゆっくりとへ視線を移した。 暫くガイを見つめていたは、その問いには答える気が無いと言うように、ゆっくりと目を伏せる。 「ガイ何言って・・・だって先生は今・・・」 「戻るか連行するかって聞いたじゃん。逃がすなんて一言も言ってないよ?」 「でも、仲間の所に帰すなら同じ事じゃないか!」 「全然違うよロベルト。逃げるっていうのは、神羅からもアバランチからも・・・あと、自分からも逃げる事なんだよー?頭いいんだからわかるでしょ?」 「・・っ・・・・」 「でも先生は戻るかって言ったじゃん?逃げさせなんかしないよ。でもー、今仲間のところに帰しても、すぐに仲間と一緒に殺しちゃうと思うけどね。あ、今此処で死なせるっていう選択肢もあるか。わざわざ選ばせてくれる敵なんてなかなかいないよねー。オジサン達運いいね」 「ガイ、もういい」 まるで玩具で遊んでいる子供のように言うガイを、は溜息を吐きながら止めた。 掴み所が無いというか・・・授業中もこの実習中も意味不明の行動ばかりをしている彼から、ここまで言葉が出るとは予想外だった。 彼に見える幼さは性格故なのかもしれないが、それでいて平然とそんな言葉を並べる事に、少々の不快感を持つ。 とはいえ、お陰で生徒も捕虜も自分の意図を分ったようだ。 「腹は決まったか?」 先程までの呆然とした顔とは違い、眉間に皺を寄せて俯く捕虜をはもう一度見下ろす。 ゆっくり視線を上げた彼らの瞳には、そこにある覚悟が見て取れた。 「誇りか、命か。お前達はどちらを選ぶ?」 それでもあえて再び問う彼女に、彼らは縄で縛られたまま腰を上げた。 まっすぐに仲間がいる場所を見つめる彼らは、静かにへ視線を移し、彼女は縄の先をアレンから受け取る。 「・・・何で・・・」 捕らえた者の意思を汲むに、ロベルトは悲しみと怒りが混じった表情で声を絞り出す。 だが、その先に続く言葉は吐き出す事が出来ず、痛みに耐えるように奥歯を強く噛むと、そのまま踵を返した。 ズンズンと進む彼に、ジョヴァンニとカーフェイが思わず道を開け、困惑したようにとロベルトを交互に見る。 「ロベルト、単独行動は禁止だ」 「うるさい!」 「もう一つ。敵は殺し、殺される以外にも、見逃すという選択肢がある」 「!?」 『見逃す』という言葉に、ロベルトは弾けるように振り向いた。 驚きの表情は一瞬。すぐさま憎悪さえ見える瞳に変わった彼は、何の感情も見せてくれないを睨んだ。 彼の初めて見るその表情に、アーサーは微かに表情を歪め、他の生徒達は目を丸くして呆然とする。 「私は変わり者でね。敵だろうが味方だろうが、結局人は人としか考えられん」 「・・・・・あ・・」 「ロベルト・・・」 「・・アンタなんか・・・・・」 「お前はお前だ」 「・・・・・・アンタなんか・・・大ッ嫌いだ!!」 叫ぶと同時に、彼の瞳から雫が一つ零れ、月に照らされる頬の上を伝った。 肩で息をする彼は、再び背を向けると、乱暴に目の上を拭いながら歩き始める。 おろおろとしていたカーフェイが、慌てて彼を指差し、彼を追う事を示すと、アーサーは黙って頷いた。 それを見たジョヴァンニも、苦笑いを浮かべながら片手を上げ、カーフェイに続く。 「あんまり遠くに行くなよ」 聞くかどうかは分らないが、一応という意味で、アーサーはロベルトたちに注意する。 あまり離れすぎるようなら、二人がロベルトを止めるだろうと考えると、彼は遠くなっていく背中に目を細めるを見た。 「さんが戻る頃には、頭冷やして戻ってきてるだろ」 「ああ。こちらも1時間程で終らせる」 それで良いかと確認するように、が捕虜達に目をやると、彼らは静かに頷いた。 一人で大勢を相手にするというのに、全く気負う様子が無いに、アーサーは大したものだと小さく息を吐く。 そういう状況に持っていったのは彼女自身なのだから、当然なのかもしれないが。 「もしさんが戻ってこなかったら?」 「30分を越えても戻ってこなかったら、すぐに移動して、他の班に合流しろ。丁度良く明かりをつけている班もいる。終ったら合図をする。物資を取りに来い」 「了解。気ぃつけて」 「お前達もな」 その場に残ったアーサー、アレン、ガイの3人一人一人に目を合わせると、は捕虜達と共に歩き始めた。 此処まで歩いてきた歩調より、幾分か早く歩くその背中を見送ると、アーサーはロベルト達が向かった方向へ目をやり小さく溜息をつく。 相棒が居なくなったアレンは、相変わらず笑って座っているガイの傍に腰掛け、それに続くようにアーサーも傍に腰を下ろした。 興味の対象が無くなったガイは、両手で頬杖をついて、空にぽっかりと浮いた月を眺めている。 耳を澄ますと、遠くから僅かに地声が大きいジョヴァンニの声が聞こえた。 「ねえ、先生って優しいねー」 暫く黙っていたガイが、不意に二人に目を合わせると口を開いた。 突然のそれに、二人はゆっくり顔を上げると、少し考えるようにガイを見る。 「・・・君はそう思ってるの?」 「ううん、全然。でもアーサー。先生は残酷じゃぁなかったでしょ?」 「・・・・そうかもな」 「・・・・・何?それ」 「今日一番の死体〜。さん息あるアバランチにトドメさしたでしょ?」 「眠らせてからな」 「僕、その時辺りの警戒してたし」 「そうだったね。でね、その時アーサーが先生に『アンタ残酷だな』って言ったの」 「・・・・・・・・」 「ふーん・・・」 「あのまま放っておいてもすぐに死んじゃうのにさ。わざわざ眠らせて、痛くないようにまでしてトドメさしたんだよ?しかも、心臓一突き。起きてても何が起きたかわかんないうちに天国行っちゃう場所だったよねー」 「俺は、勝手に眠らされて、知らないうちに死んでるなんてのが嫌なだけだ。残り1秒だろうと、最後の最後まで目開けていたいだろ」 「・・・どうでもいいでしょ。あれはあれで、先生なりの情けだったんじゃないの?それとガイ、君の言い方は少し不愉快だよ」 「ゴメーン。でもそうだね。それは死ぬ本人が決める事だから、もうわかんないね。さっきみたいに選べる状況じゃなかったし」 「・・・・・・・そろそろ始まるな、さん」 ガイの言葉に、アーサーは思い出したように腕時計を見た。 此処からアバランチの根城までの距離と、4人が出発してから10分程が過ぎている事を考えると、もうすぐ戦闘が開始する頃だろう。 まだ戻ってこないロベルト達に、彼らが行った方向にも目を向けてみるが、微かに見えていた姿は無い。 ジョヴァンニの声も聞こえない事を考えると、何処か別の場所に移動したようだが、あの二人ならばロベルトを担いででも連れ帰ってくるだろう。 「先生帰ってこれると思う?」 「縁起でも無い事言わないでよ」 「負けねぇよ。あの人強いし」 「ソルジャー3rdレベルだっけ?でもさぁ、敵にあの態度だもん。優しさが裏目に出そー」 「昼間容赦なくアバランチ殴ってたけど?・・・あ、やっぱり残酷かもね」 「鬼神ってあだ名、結構アタリだな」 「でも、肝心な所で甘いんじゃ、ダメだよね。きっとすぐ死んじゃうよ。仲間裏切ってアジトまで案内してる人間なのにさ、最後の最後に仲間の所に帰してあげるなんて、凄い矛盾。しかもすぐ殺すのにさ。普通の神経じゃないっていうか、中途半端に甘い感じー」 「・・・君さぁ、僕がさっき言った言葉聞いてた?それとも喧嘩したいわけ?それに、どう判断しようと行動しようと先生の自由でしょ?他人の性格にまで口出しする君の性格の方が僕は嫌だね」 「ガイ、口に気いつけろ。アレンも、落ち着け」 「アーサーも、アレンも、皆甘すぎるよ。戦うなら、捨てなきゃならないものもってあるんだよ?じゃなきゃ生き延びれないもん。じゃなきゃ皆死んじゃって、誰も残ってくれなくて、一人になっちゃうよ?」 「悪いけど、それでも僕は賛成出来ないね」 「ガイ、そういう考えやめとけ。甘さとか、感情とか・・・そんなの捨てて戦うの、ただの機械だ。その方が一人だろ」 「ふーん。じゃぁ、最初から一人だったら、機械だったら残っちゃっても寂しくないね」 「ガイ・・・」 「そういう意味じゃないっつの」 「わかってるよ〜。じゃぁ、アーサー達が達が甘ったれのまま生きぬけたら、考えてあげるよ〜?」 「・・・やっぱ君、不愉快」 「喧嘩すんなって。ああ、ロベルト達が戻ってきた」 丁度良く帰ってきた3人に、アーサーは顔を上げ、アレンは腰を上げて彼らが来るのを待つ。 3人が向かって来る足取りがしっかりしている事に少し安心しながら、が向かった方向へ目を向けると、幾つもの小さな光の後、最初の銃声が微かに届いた。 | ||
ジェネシスの暴走については、もう私にも止められません(爆) 彼に関してはキャラを壊してナンボという精神で書いていくつもりです。 そしてさん、ロベルトに嫌われてしまったヨ(笑)ガイは嫌な感じのキャラになったし(汗) ってゆーか、もう何夢かわかんねぇ(爆) 2007.09.22 Rika | ||
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