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導く光に身を任せ
再び陥る時間の麻痺に目を閉じる

ようやく戻った肉体の瞼を開けると

世界は
雪原のように白かった




Illusion sand - 34






「っ・・・何・・・?」


瞳を刺すような光に、は顔を顰めて目を細めた。
朝日とは思えない光は、見慣れない窓から溢れ、それで手で遮りながら、は室内を見回す。


消毒の匂いがする空気、白い壁、白い天井。
記憶が正しければ、泊まっていたホテルの部屋は、アイボリーを基調とした壁の小さな個室だった気がする。
その上、首を動かすだけで軋む体は何なのか。

起き上がろうとした腕に違和感を覚えて見れば、そこにはこの世界に来て間もなくつけられていた透明な管があった。
何故と、吊り下げられる点滴の袋を見上げると、その視界に人影が見える。
ぼやける視界に目を凝らし、未だなれない光に頭痛さえ覚える彼女は、椅子に腰掛けて寝息を立てるザックスに再び辺りを見回した。

護衛として傍に居る彼が、自分の傍に居るのは納得できるが、それ以前にこの白い部屋は何処なのか。

室内を見渡すは、壁にかけられた暦を見て、ただでさえ驚いていた顔に、更に驚愕の色を重ねた。
つい先日、この町についたと思っていた日から、暦の日にちには×印がつけられ、優に3週を超えている。

あと数日もすれば月も変わるそれに、は呆然としながら自分の頬を抓った。


「っ・・・」


・・・思いの他、痛かった・・・


目に軽く涙を滲ませ、爪の跡がついているだろう頬を押さえながら、はこれが夢ではない事を知る。
もっと優しく抓れば良かったと、小さな後悔をしつつ、はもう一度辺りを見回した。

静まりかえった室内は、酷く簡素でまるで病室のようだ。
まるで、ではなく、本当に病室なのだろうかと考えながら、彼女はとりあえず点滴を引き抜いてベッドから降りる。

覚醒しきれていない体は、寝惚けが残って酷く鈍い。
足をついた床は、長く日の光を受けていたのか思ったより暖かかった。

室内にはザックス以外の人間は見当たらず、数歩先の廊下からも遠くの話し声が僅かに聞こえるだけである。


起すには忍びないと思いつつも、他にどうする選択肢も無く、はゆっくりと彼へ近づく。
静かな寝息を立ててはいるが、いつもは無い眉間の皺を見る限り、あまり幸せな夢は見ていないのだろう。
顔色も随分優れず、浅い眠りに伏せられた瞼は微かに腫れて寝不足を伺わせる。

人の気配がしても目を覚まさないのも、その技量を考えれば仕方が無いと思いながら、は腰を屈めて彼の目線に合わせた。


「ザックス」
「・・ん・・・」

「起きてください」
「う・・・ん・・・・・・・・・・・・・?!」


軽く肩を揺らし、ようやく瞼を開けたザックスは、半分寝惚けた目で目の前の彼女を見る。
唸って数秒固まったかと思うと、彼はカッと目を見開き、同時に彼女の両肩を掴んだ。


「目が覚めたのか!!」
「は?・・・ええ」

「よかったぁ!!」
「ぷわっ!!」


人の顔を見て、信じられないという表情をしたかと思うと、彼は途端瞳を輝かせてに抱きついた。
全身で喜びを表してくれるザックスに、は呆然としながら、頭の隅で普通の女なら痛がって悲鳴を上げている所だと考える。


「1ヶ月近く寝てたんだぞ!?原因わかんねぇし!呼んでも叩いても起きないし!!」
「・・・叩いたんですか?」

「か、軽くな?あ~・・・・・でも・・・ホント良かった。
 もう二度と目覚まさないんじゃないかって思ったんだぞ?」
「はぁ・・・すみません」


本当に一月近くも眠っていたのかと、は抱きついたままの彼の背を撫ぜながら驚いていた。
たった一夜の留守のはずが、とんだ騒動になってしまったと、そうさせた星に内心溜息をつく。
同時に、もう避けられない理由が無い限り、星との接触はせずにおこうと決めた。

微かに目を赤くするザックスに苦笑いしながら、彼女は彼を椅子の上に落ち着ける。
心底安心したような顔をするザックスに、つい頭を撫でたくなるが、子ども扱いだと怒られそうなのでやめておいた。

そのままベッドの上に腰を下ろし、どう話題を出そうかと考えていると、部屋に近づいてくる足音を感じる。
視線を向ければ、ドアにある小さな曇り硝子に赤髪の影が映り、ガラリと開いたかと思うと予想通りの人物が現れた。


「・・・・・・・・・・」
「おはようございます、レノ」


ザックス同様、目と口を開いて見事な驚きの表情を浮かべたレノに、は小さく笑いながら挨拶をする。
その声に、すぐさま状況を理解したレノは、椅子の上で笑みを浮かべるザックスに目を向けると、後ろ手でドアを閉めた。


「寝坊しすぎだぞ、と」
「以後気をつけます」

「そうしてくれよ、と。心臓がいくつあっても足りなくなるからな」
「すみません」


歩きながら頬を緩めるレノは、ザックスの隣にある椅子に腰掛けると、持っていたコンビニの袋から飲み物を取り出す。
キャップを開ける間もを見ていたレノは、ザックスに視線を送り、その意図を理解したザックスは席を立って廊下へ出て行った。


「いつ目覚めたんだ、と。俺がいる間は寝てただろ?」
「つい先程。まだ5分も経っていません」

「・・・・・・人形みたいに寝てた。そのまま死ぬのかと思ったぞ、と」
「ザックスにも言われましたよ。ご心配おかけしました」

「全くだ。医者は寝てるだけって言ってたが・・・アンタの力と関係あるのか?」
「・・・・・・・さあ。どうでしょうね・・・」




心配してくれる彼らに対し、言わないのも悪い気がしたが、あの接触で得た情報や目にした光景を思い出すと、は自然と彼の言葉をはぐらかしていた。
何をしていたのか、言った所で何も変わりはしないだろう。
事の内容も、大凡彼らの常識の外にある事は間違いなく、理解に苦しむのは目に見えている。

ふと、瞼の裏にセフィロスの顔が浮かんだが、あの光景はまだ先の未来だと、燻る不安を押し込める。
どう考えた所で、何が変わるでもなく、星が見せたそれも所詮いくつかの未来の中にある1つの可能性でしかないのだ。
考えすぎる事も、肩に力を入れることも、今はまだ不必要な事だろう。
そればかりに捕らえられ、目先のものを見失っても困る。


「副社長もセフィロスも心配してたぞ、と」
「そう・・・ですか」

「後で連絡しておく。ただ、会えるのは週明けだ」
「ご迷惑おかけします」

「気にするな。仕事だぞ、と」


ニヤリと笑って言ったレノに、は小さく笑みを零す。
ザックス同様疲れの見える彼に申し訳なさを感じ、だが同時に何処か小さな違和感を覚えた。
が、そこに考えを向ける前に、部屋のドアに近づく数人の足音が聞こえ、二人は扉を見た。


「本当に目が覚めたんですね。気分はどうですか?」
「・・・・まぁ、それなりに・・・普通です」

「それは良か・・・おや、点滴抜いちゃったんですか?」
「・・・体に物が刺さってるのが嫌で・・・」

「・・・お気持ちは解らなくもないですが・・・今度から看護士の方に抜いてもらってくださいね」
「申し訳ありません」


軽いノックの後に入ってきたザックスに続き、医師と思われる白衣姿の中年男性が入ってきた。
ベッドに腰掛けるに、彼は少々驚いた顔をし、人受けの良い笑顔と声で話しながら彼女の傍に歩く。
が、抜き取られた点滴の管に、医師は微かに目を丸くすると、の言葉に困った顔をしながら、連れ立っていた看護士の女性にそれを廊下へ運ばせる。


「さてさん、貴方はこの3週間程、ずっと眠っていたわけですが・・・何かそうなる心当たりはありませんか?」
「・・・・・さぁ・・・特に・・・」

特に思い当たる事は、精神体で遠出した事です。


「寝ている間に、記憶を失う前の事を思い出したりは?」
「してません」

そもそも記憶失ってません。



「そうですか・・・。眠る前、何か変わったことはありませんでしたか?頭が痛かったとか、眩暈がしたとか」
「いえ、普通でした」

魔光の頭痛は別ですんで。


「そうですか。すみませんね、こちらも何故このような症例が起きたのか原因がわからないもので」
「はぁ・・・」

そりゃそうだ。


「脳波や血液検査の結果を出せれば良かったんですが、機械が故障して出てこないんですよ」
「・・・そうですか」

脳波?血液検査?何だそれは?


「他の人だと平気なんですが・・・何か特殊な体質だとか、そういう覚えは無いですか?」
「いえ・・・」

心当たり、アリマス。



真実を知っている人間にしてみれば、なんてとんでもない患者だと思うだろう。

せっかく聞いてくれる医者には申し訳ないと思いつつも、よもや不老不死ですなんて言えるはずも無い。
異世界から来たなどと言ったら、今度は別の理由で脳の検査をされる事は間違いない。
知らぬ存ぜぬで医師の言葉を交わし、結局彼は首を傾げながら病室を出て行った。
それを見送り、部屋の戸を閉めたザックスは、レノの隣に腰掛けて苦笑いを浮かべる。


「患者としては、ちょっとアレだな・・・」
「答えられないもんは仕方ないだろ、と。面倒は起さない方が良い」
「この世界は、機械を使って診るんですね」

「検査とかだけな。つっても、俺も詳しく知らないけどさ、その機械がどう壊れるか、ちょっと興味あるな」
「もう調べてるぞ、と。・・・・血液の大部分は、普通の人間と同じだ。
 ただ、中に含まれる病気の抗体が、どれもこの世界にあるウィルスのものと一致しない。
 それと・・・血液中にまで高濃度の魔力が出てきた。普通は数に出るほどのもんじゃない」
「この世界と、私の生まれた世界の違い・・・ですね」


互いに仕方ないと言うように、レノとは視線を合わせる。
そこまで調べているという事は、既にレノは事後の処理しているのだろう。
この様子では、は病院の世話になるのは控えた方が良さそうだ。
が、そんな二人の会話が理解できていなかったのか、ザックスは妙な顔をしながら首を傾げる。


「なぁ、それってどういう事だ?」
「・・・住んでる場所が違えば、かかる病気も違ってくるだろ、と」
「この世界と私が使う魔法の違いは教えましたね?
 つまり・・・大雑把に言うと、私は体の中にマテリアがあるようなものなんですよ」

「あぁ~なるほど。だから魔力がね・・・」
「ま、免疫能力も魔力と同じぐらいの強さだったし、こっちでの病気の心配は無さそうだぞ、と」
「そうですね・・・と言っても、あまり油断は出来ませんが」


今後は体調管理に気をつけなければと、はそっと気を引き締める。
が、狭間に落ちてからこの数百年、自分が風邪すら引いていない事に彼女は気付いていなかった。


「ま、2~3日の入院は避けられないだろうな、と」
「すぐにでも出れるんですがね・・・」
「また起きなくなったりとかしないよな?」

「それはありませんよ、きっとね・・・」


心配するなというように微笑むと、はベッドから立ち上がり鈍った体を伸ばした。
こんなに長期間眠った事も、鍛錬を欠かした事も初めてな気がする。
とはいえ、この世界に来てからは、人目につかない程度の鍛錬しか出来ていなかったが、それでも以前より格段に怠けているのは確かだ。

不可抗力とはいえ、どうも気が落ち着かなくて、彼女は軽い柔軟運動をした。
出来れば、何処かで体を動かしたいところだが、流石にそれは無理だろう。


「病み上がりに何やってんだ・・・」
「体が鈍ってしまってね。一日1度は運動をしないと、腕が鈍るでしょう?」
「少し鈍った方がいいと思う」

「同感だぞ、と」
「何言っているんですか。1日の怠慢は3日の遅れになるんですよ?
 気の緩みも出ますし、それに、鍛錬を怠ると落ち着かないんです」
「でも、こっち来る前とかしてなかっただろ?」

「俺が会ってからも、見てないぞ、と」
「バレないようにしてましたし、仮に目の前でやっていても、解らないでしょうね」
「何で?」

「何してたんだ?」
「グラビデで体に重力を与えて、日常の筋肉運動への負荷を増やすんです。
 ただ、そのままだと船が沈んだり地面が陥没しますので、足の下にレビテトをかけます。
 体重以上の負荷が下にかからないようにすれば、魔力のコントロールの鍛錬も兼ねられますからね」
「・・・・・・・」

「・・・・・・・お前・・・」
「なんです?」
「ううん・・・何でもない」


その鍛錬は、果たして常人に耐えられるものなのでしょうか?

出そうになる質問も、答えを聞く事を拒否する脳に押し込められた。
女の子は少し柔らかい方がいいと思いつつも、この1ヶ月の昏睡で少し痩せた彼女に言うのは憚れる。

細い体の割りにある彼女の体重は、その殆どが筋肉によるものなのだろう。
もう少し脂肪をつけなければ健康には良くないのだろうが、こうなってしまったのは本人の意思ではない。
しかし、それでも健康そのものと言うように体を動かす彼女に、体調不良という文字が浮かばないのも事実だ。

本当に、彼女の体はどうなっているのだろう。


呆気にとられた顔の二人に、は当然の反応と思いながら前屈をする。
だが、上体を起した彼女が背を反らせようとすると、手を伸ばしたレノによりそれは妨げられた。
姿勢を正し首を傾げたに、レノは小さく溜息を吐くとその体を抱き上げる。


「わっ!レノ!?」
「運動もいいが、今は休む時だぞ、と」

「今まで散々休んでいたでしょう?」
「あれは意識不明。昏睡だぞ、と」


言い終わると同時に、レノは彼女をベッドの上に降ろし、起き上がろうとする体に布団を掛ける。
小さく呻いたも気にせず、彼は彼女をベッドに押し付けると、そのまま椅子の上に腰を下ろした。


「レノ?」
「アンタの体脂肪は健康な人間の最低ライン以下だ。つまり、痩せすぎなんだぞ、と」
「普通は歩くのだってフラついてるもんなんだぞ?」

「体調不良は慣れてますよ」
「そんなもんに慣れるなよ、と。いいか?そんなに痩せてる奴が、平気そうな顔して運動してたら、おかしいと思われるだろ?と」
「それに、俺達だって心配する。が何て言ってたって心配になるんだぞ?」

「う・・・それは・・・すみません」
「わかったなら、暫くは運動禁止だぞ、と」
「俺達がOK出すまで、ダメだからな?」

「ぬぅ・・・」
「唸っても駄目だぞ、と」
「丸くなれとは言わないけど、ある程度太ってもらうからな」


脂肪をつけなければならないという言葉は解るものの、だからと言って運動すら禁止されるとは。
それは非常に落ち着かないと、は眉間に皺を寄せるが、二人は譲りそうに無かった。
二人の言い分はわかるが、少しぐらい許可しても良いのではないか。

どうやったらその気持ちを動かせるかと考えを廻らせたは、昔仲間がおねだりをしていた時の事を思い出した。
多少恥は忍ぶが、それほどでもないだろうと思うと、彼女は早速行動に起した。


「レノ・・・ザックス・・・駄目?」
「っ・・・見つめても・・・駄目だぞ、と」
「効く・・・でも駄目!何処で覚えたんだそんなもの!!」


クルルがおねだりしてきた時に覚えました。

やはり自分が効かなかったものは、他人にも効力が薄いものらしい。
ザックスは押せばイケるかと思ったが、駄目とハッキリ言われては仕方が無い。
他に誰かいないかと考えて、思い浮かんだ顔には第二の手を発動する。


「どうしても・・・・駄目・・・ですか・・・?」
「・・・・駄目だ・・・」
「駄目!もう・・・そんな悲しそうな顔するなよ!罪悪感感じるだろ?」


レナ作戦 失敗。

やはり普段から優しいキャラでいかなければ無理らしい。
この手は二人ともダメージを受けていたが、普段の行動が物を言う。
早速第3の手を使うかと、はたった今浮かべた儚げで悲しそうな笑顔を一転させた。



「・・・・・・・・チッ・・・・」
「睨んでも駄目!」
・・・ガラ・・悪いぞ・・・」


海賊親分の真似ですから。

やはり駄目だったかと思いながら、は鋭くしていた目つきを緩める。
少々怯えの見えるザックスと、機嫌を損ねてしまったらしいレノに、これは後も使わないほうがいいだろうと思った。
残るは男二人の手だが、あまり効くかもわからない。
どうせ駄目なのだろうとは思うが、せっかくならば全員分試してみるかと、は輝くような笑顔を浮かべた。


「大丈夫ですよ!何とかなります!」
「ならないから駄目って言ってるんだぞ、と」
「そんな痩せてて大丈夫も無いだろ?」

バッツ作戦 失敗。



「うっ!記憶喪失だ!今二人が言った事が思い出せない!」
「そんな訳ないだろ、と」
「もう1度言うか?」

ガラフ作戦 失敗。
予想通りといえば予想通りだが、ここまでやってしまえばもうヤケクソである。
敵味方関係なく思い出した顔に、は早速記憶を手繰ると、目に微かな涙を浮かべた。


「2対1なんて・・・あんまりじゃないか~!」
「あんまりじゃない!」
「半泣きでも駄目!」

ギルガメッシュ作戦 失敗



「レノよ・・・そしてザックス。私の言葉を聞くのだ」
「偉そうにしても駄目」
「何キャラ?」

父上作戦 失敗



「私の事はかまうな。世界を救うのだ」
「かまうよ」
「何で世界救うんだよ」

タイクーン王作戦 失敗



「そなた達に我の行動を指図する力があるか、試させてもらおう」
「凄んでも駄目」
「試されても駄目」

シヴァ作戦 失敗



「・・・・・・・・・」
「光っても駄目!」
「それどうやってんの!?」

クリスタル作戦 失敗



悉く失敗する作戦に、は大きく溜息を吐いた。
最後など、軽くホーリーを発動させたというのに、全くの無駄である。
これだけやっているのだから、少しぐらいオマケしてくれても良いものを、どうして彼らはここまで動いてくれないのか。


「貴方達・・・誰の真似をすれば引いてくれるんですか?」
「誰の真似しても引かないぞ、と」
「初めの二つ以外全く効いてないぞ」


やはりそうだったか。

完全に呆れた顔をする二人に、はもう十分遊べたかと考えると、居住まいを正した。
次は何が来るのかと見る彼らには申し訳無いが、今はもう誰も思い浮かばない。


「・・・・仕方ありませんね。従います」
「「仕方無くない」」


ようやく納得してくれたに、レノとザックスは溜息をつきながら項垂れる。
彼女の百面相はそれなりに面白かったが、たった一つの事を納得させるのにどうしてこんなに骨が折れるのか。
後半は完全に遊んでいるのだと解っていたものの、セフィロスのいう事ならばすぐに聞くのにと思ってしまう。

今頃ゴンガガの森でモンスターの討伐をしている英雄に、二人は早く帰ってきてくれないかど、窓の外に見える太陽を眺めた。













「セフィロス、第8部隊苦戦だってよ。応援行ってくれ」
「わかった」


茂る木々が月明かりを隠し、闇が広がる森の中。
機械を載せた軍用トラックの中で、連絡を受けた部隊長の言葉にセフィロスは腰を上げた。

車両後部にある扉を開けると、そこには星の光も届かない森がぽっかりと口を開けている。
手にした端末を開き、目指す場所を確認すると、彼は深い森の中を歩き始めた。

天に枝を伸ばす木々は、眠りの中で尚葉を広げ、降り注ぐだろう星の明かりさえ掬い上げる。
落ちる闇に零れた掬い残しの光が、長く研ぎ澄まされた正宗に反射し、宵闇の森にその存在を知らしめるかのようだった。

虫の声だけが響く世界に、耳を澄ませば、指示された方角から、獣の方向と共に銃撃の音がする。
耳に届く魔物の声に、その数を数えながらセフィロスは走り出した。

草を掻き分ける音に、遠くから近づいてくる気配を感じながら、振り返る事無く足を進める。
靡く銀の髪は闇の中に浮かび、得物を狙う魔物の標的になるには十分だった。

応援と駆けつけたところで、逆に数を増やす事になるだろが、それも一瞬で終るだろう。
支給されたばかりの新しいマテリアを試せれば良いと考えると、彼はポケットから赤色のマテリアを取り出した。

後方の気配に気を配りながら、正宗につけていた炎系マテリアをとりはずす。
手早く赤いマテリアをはめ込み、顔を上げると、木々の合間から目指す第8部隊の影が見えた。

傷を負った4体の敵に対し、目の前に居る部隊は6人。
全員が傷を負っており、そのうち4人は地面に蹲り、既に戦闘不能の状態だった。
立っているのは足元が覚束無い士官学校の研修生と、部隊長の3rdソルジャーのみ。
最も弱いはずの学生が立っているにも関わらず、ひっくり返っている隊員に、セフィロスは内心小さく溜息を吐いた。


「っ!」
「どいてろ」

あと1撃喰らえば戦闘不能になるだろう少年に、魔物が牙を向いて飛び掛る。
既に体力が無くなった少年は避ける事も出来ず、剣を構えたまま歯を食いしばるが、その腕に牙が突き刺さるより早く、セフィロスの刃が魔物の胴を貫いた。

長い刃が振り払われると、反射する光の中に赤い飛沫が舞う。
声もなく地に転がる魔物に呆然とする少年を背に隠し、セフィロスは先程つけたばかりのマテリアに魔力を注ぎ込んだ。

赤い宝玉から霧に似た光が流れ、刃に巻きついた瞬間肌を刺すような寒さが溢れ出す。
揺らめく光は刃の先から零れ、落ちた雫は地に届く間に一片の氷の花弁へ変わった。
草の上に落ちたそれは淡い光となって広がり、滲んでいた露を氷に変え、張りつく霜となって地面を白く変えていく。

天上から落ちてきた季節外れの雪が、緩やかな渦を作る風にまかれ、引き込まれた光が白い氷の幻影を模った。
凍った草の上に降り立つそれは、見る間に人の形を作り、雪のように白い女王が降り立つ。

純白の衣を纏う彼女の周りには、光の粒となった氷が舞い、その腕が伸ばされると、光は風に流されるように敵を囲んだ。
伏せた瞼がゆっくりと上げられ、静かに上げられた腕が振り下ろされると同時に、氷の粒は刃となって魔物の体に突き刺さる。

噴出す血さえ凍りつき、倒れた魔物の体は霜で白く色が変わっていた。
シヴァの作り出した銀と、魔物の体から出た赤の光が、黒の森の中で不釣合いに輝く。

身にかかる赤に、微かに眉を動かした彼女がそれを振り払うと、セフィロスの走ってきた道から何かが倒れる音がした。
振り返った先に居た、自分を追ってきたと思われるモンスターの死体は、目の前に居る魔物と同じように白く凍り付いている。


思った以上に使える召喚獣だと考えながら、氷の女王を眺めたセフィロスは、まだ去ることの無い彼女に軽く辺りを警戒する。
だが、周りにはもう敵の気配は無く、シヴァの仕事も終ったようなものだった。

それでも、何か考えるように立ったままの彼女に、セフィロスは疑問を持つが、今優先するべきは第8部隊の治療である。
転がる兵にレイズをかけ、3rdのソルジャーに駐屯地帰還を指示すると、彼は未だそこに留まるシヴァを見る。

もしや、このマテリアは改良が不十分だったのだろうかと考えながら、彼は彼女に声をかけるべきか考えた。
通常の召喚獣であれば、敵を倒した時点で帰るはずだ。
だが、シヴァは何かを思い出すように、宙を見つめていた。


『懐かしい・・・魔力の気配がする』
「・・・?」

『遥か昔・・・遠き世界の・・・・・・・』
「・・・・何でもいいが、帰らないのか?」


マテリアの故障なのか何なのか。
出来れば早めに駐屯地に戻りたいセフィロスは、このままボヤかれても、自分はどうしようもないと、シヴァの呟きを遮った。
だが、不躾な召喚者に対し、てっきり眉を潜めるかと思いきや、彼女は同じ表情のまま彼に視線を合わせる。


『何故・・・そなたがその力を持っている・・・?』
「・・・何の事だ?」

『転生・・・あるはずもない・・・だが・・・この魔力・・・』
「・・・・・・・・」


微かに顔を歪めるシヴァは、軽く首を振って視線を落とす。
一体どうしたのか、ただ彼女が帰ってくれるのを待つしかないセフィロスは、訳がわからないまま彼女を見ていた。
召喚マテリアを使ったのは初めてではないが、こんな風にされたのは初めてだ。


『そなた・・・何故・・の魔力を宿しておる・・・?』
「・・・・だと?」

『我らとて道が開かねば行けぬ次元の狭間。そこにいる彼女の力、何故そなたが持っておるのだ?』
「・・・・・・・」


名前だけでは断定できないと思うのも束の間。
シヴァの決定的な言葉に、セフィロスは心当たりの女性の顔を思い浮かべた。

ミッドガルに着いてすぐ、意識を失ったまま目覚めなくなったと聞いているが、今頃もまだ眠ったままなのだろうか。
うんざりする程任務を詰め込まれ、見舞いに行くどころかミッドガルにすら戻れないが、数日に1度はザックスやレノから連絡が来る。
彼女と最後に会ってから、もうすぐ1ヶ月。
この任務が終れば、ミッドガルにも戻れるが、会いに行った所で彼女から迎えの言葉も無いのだろう。


の事か?」
『知っておるのか!?』

「一ヶ月前砂漠で拾った。今は・・・・寝てる」
『寝・・・・・しかし・・生きておったか・・・』

「意識を失ったまま目覚めない。今もな」
『・・・では、そなたがでは無い・・・か・・・だが何故あれの魔力・・・・む?
 そなた、胸に何か入れておるか?』


胸と言われ、セフィロスは自分の体を見る。
以前も何処かで、同じ言葉を言われた気がして記憶を辿ると、ついた見当に彼は胸ポケットに手を入れた。
シャラリと音を立てる鎖を掴み、取り出したのは銀の懐中時計。
もしかしたら形見になるかもしれないと思っていたそれは、言わなければ忘れてしまうほど、彼の体に馴染んでしまったの時計だった。

差し出されたそれに、シヴァは微かに目を見開き、ゆっくりと手をかざす。
皮のグローブ越しに、手の中のそれが暖かくなったのを感じて、セフィロスは驚き彼女を見た。



『間違いない・・・のものだ・・・強き魔力が残っておる・・・』
「・・・と知り合いか?」

『しかし・・・・・・あの狭間でこれほどの間・・・生き抜くなど・・・・・・・』
「おい・・・・・」

『イフリートに報告せねば・・・!!』
「・・・・・・・」



の時計にどれだけの魔力があるのか、セフィロスにはさっぱり解らなかったが、召喚獣はやはり人と違うらしい。
表情を緩めたか思うと、途端難しい顔をしたシヴァは、彼の質問も全く耳にはいっていなかった。
慌てたように声をあげたかと思うと、シヴァはあっという間に白い氷の粒となり、自分の棲む場所へ帰っていく。

憮然とした表情で一人残されたセフィロスは、訳のわからない召喚獣に大きく溜息を吐くと、刀につけた赤いマテリアを取り外した。


2006.12.01 Rika
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