小説目次 | ||
ある時、暇を持て余した神様は唐突に閃いた。 そうだ、動物達と宴会をしよう。 人間からはこの力の所為で崇められ、そして恐れられている。 だが動物ならば大丈夫だ、自分を過度に恐れる事なく接してくれる筈だ、と。 そして選ばれたのは、12匹の動物達に届いた宴の招待状。 鼠、牛、虎、兎、龍、蛇、馬、羊、猿、鳥、犬、猪。 その動物達の代表者が、神様の家に集まった。 神様と12匹の動物達 神であるルーファウスは集まった12匹の動物の代表を見、満足そうに微笑んでいる。 金の屏風をバックに高級座布団の上で胡坐をかき、これまた高級な羽織を身に付けた彼の前には、左右に分かれて座っている12匹の動物達。 どの動物の前にも御膳が置いてあり、動物達にとってのご馳走と酒が用意されていた。鼠代表、セフィロスの前には海外から取り寄せた高級チーズの数々と酒。 牛代表、アンジールの前には土や水にこだわり作り上げられた牧草と酒、と言ったように、種族の好物を熟知して用意された膳。 徳利に入れられた酒も、個人の酒に対する強さと好みを考えて用意されている。料理だけではなく、酒の味や強さも1匹1匹の好みに合わせるなんて、なんとも周到な事。 しかしまだ宴は始まっていないので、手をつけている者は居ない。好物を目の前にして、待て≠された状態のまま。犬代表であるザックスは、待ちきれない 様子で膳を見詰めてヨダレを垂らし、右隣に座る鳥代表のレノから『汚いぞ、と。ヨダレ拭けよ』と言われ、袖でグイと己の口を拭う。 折角着て来た一張羅の袖がヨダレで光っている事を気にせず、『まだ? まだ?』と言う視線をルーファウスに送ると、待ての出来ない子犬に苦笑し、佇まいを直した。 「さて、諸君。今日はこの宴に参加して頂き、感謝する。では乾杯の音頭といこうか」 「あ、あの、ルーファウス様。私、1滴も飲めないんです……ごめんなさい」 宴の前の挨拶を行ったルーファウスに、おずおずと手を上げて下戸である事を告げたのは紅一点、羊代表の。女性らしい顔立ちをした兎代表のアレンもいるが、正真正銘の雌は彼女だけである。 今回宴会と聞いて、下戸の自分が参加しても神様に不興を買うのはどうかと、酒を飲める者を勧めたのだが誰も行きたがらず、頼まれると断る事を出来ない彼女が参加する事となったのだ。 下戸なのに宴に参加しちゃってごめんなさいと言うの申し出に、ルーファウスはわかっていたかのように微笑んで頷くと、ちゃんと酒以外の飲み物も用意してあるからと、彼女を安心させた。 安堵の表情を浮かべたに、『よかったね』と笑みを向けたのは、右隣に座る馬代表のロベルト。彼とは初対面だが、草食動物同士仲良く出来そうだと、も笑みで返す。 ルーファウスは徳利の酒を杯に入れ、自分の鼻の高さまで手を上げた。それが乾杯の合図だと気付き、皆もまた徳利から杯に酒を入れ、同じように鼻の高さまで腕を上げる。 も取り敢えず形だけでも、と思って徳利を傾ければ、出て来たのは他の皆とは違い酒ではなく、白い液体。え、何コレ。お酒じゃないの? なんで白いの? 訝しげに鼻を近づければ、アルコールの匂いではなく、どうやら匂いからして牛乳のようだ。乾杯に牛乳。と言うよりも、何故徳利に牛乳? なんとも微妙だが、酒でないだけましだと、徳利を置いて牛乳が入った杯を掲げる。 揃って杯を掲げた所でルーファウスが『乾杯』と杯を先程より高く掲げると、それに習い12匹の動物達の声が揃う。彼等は乾杯の後で杯の酒を飲み干し、料理に手をつけ始めた。 待っていました! とザックスは自分の為に用意された肉を口に含んで、その美味さから破顔。いつもは質より量の食事ばかりだったので、久々に高級な肉を食べたのだ、思わず顔が緩んでしまうのは仕方がない。 「ねえ、アーサー。アーサーの料理って……」 「肉だな。何の肉かは、わからないが……」 「虎の君には、馬肉と牛肉、鶏肉を用意した」 比較的度数の弱い、ソフトドリンクのような酒を舐める程度に飲みつつ人参やハーブ等を摘んでいたアレンが、隣に座る虎代表のアーサーに問う。 この面子の中では数少ない肉食のアーサーの前には、数種類の肉。牛の霜降りや鶏肉は直ぐに分かったが、赤い塊の肉が何かわからずに首を傾げると、2人の会話を聞いていたルーファウスは虎の好物を考えて馬と牛、鳥の肉を出したと言う。 ルーファウスの口からなんの肉かと説明が行われた瞬間、アーサーの左隣に居るアンジールと、中央の通路を挟んだ向かい側のロベルト、そしてアーサーの丁度右斜め前に座るレノが顔を引き攣らせ、無意識にだろう体が後ろに下がった。 仲間が、仲間が食われる。膳の上に乗っている自分達の同族が、明日は我が身。出来る事ならばその膳の肉だけで満腹になって欲しいな、じゃないと今日が命日なんて事になり兼ねない。 願うようにアーサーを見つめる複数の目と、視線を受けてどうすればいいかわからず困惑する当人。妙な空気が宴会場に流れ、緊張が張り詰めている。折角の神様との宴に、こんな重い空気は嫌だ。 「だ、大丈夫だよ! 幾らなんでも量が足りないからって、そんな、皆を食べるなんて……ない……よ、ね……?」 「……多分」 「おい、誰か虎代表縛っておけよ。足りなくて暴走されたら、酒池肉林が酒血%林になるぞ、と」 一緒に宴している仲間を食べるなんて、ある訳がないじゃないと言いきればいいのだが、だけどない訳でもなさそうだと、徐々に尻すぼみになってしまうと、食べないと断言してくれないアーサー。今の会話で若干顔色が悪くなったレノが、誰ともなくアーサーを縛るように頼む。 蛇代表のジェネシスは、ゆで玉子の薄皮を綺麗に剥きつつ、宴の席なのに縛られて食事をするなんて一体それはどう言うプレイだと、くつくつ笑っている。 剥き終わったゆで卵は、何もつけずにそのまま丸飲み。喉を丸い膨みが通って、消えた。別のゆで玉子を取ると、膳の端を使って割り、剥く。 「もし何かあっても、ルーファウス様がどうにかして下さるだろう」 「そうだよ〜! 幾らなんでも、目の前で客同士の惨劇を起こすつもりなんてないだろうし〜? それに虎代表だって、飢餓状態って訳じゃないんだからさ!」 龍代表のツォンと、猪代表のガイが言えば、今度は皆の視線がルーファウスに向かう。止めてくれるよね? と無言で訴えかけられ、会話を楽しげに見ていた彼は口に寄せていた杯を離し、『当然だな』の一言。 ルーファウスの一言で妙な空気は払拭され、皆が声を揃えて『ですよねー!』『心配して損した!』などと緊張を解す様に笑っているが、若干無理のある笑い。それでもこの妙な空気を壊せればいいかと、皆思っているのだろう。 弱肉強食と言う世界の厳しさを宴会の最中に感じる事になるとは思いもせず、彼等は宴の席に訪れた小さな恐怖を忘れるべく酒を飲む事にした。酔えば恐怖などなくなる筈だから、酒の力を借りて忘れる為に。 ──が、これがまさか、あの壮絶なる宴の序章に過ぎないなど、誰も思わなかっただろう。 近くで同類が食されていると言う恐怖を忘れるべく、彼等はひたすら酒を飲み、食事をつついた。日頃食べている物よりも美味しい食べ物と酒に、彼等はいつしか恐怖を忘れ、席を好き勝手に移動してはお酌をして回り、テンションは始まりの時よりも上がって行く。 まるで坂を転がる玉のように飲むスピードは勢いを増し、飲めない者や体質の所為であまり酔わない者は、徐々に壊れ始める者を傍観。 何かあっても巻き込まれないようにするだけ。いつでも、誰が何をしても直ぐに逃げられるよう、体勢を整えていた。 「ほらほらほら、飲んで飲んで!」 「調子に乗って入れ過ぎだぞ、ガイ。零れるじゃないか」 「アンジールさんは、牛なんだからもっとイケるでしょ〜! なんだったら、樽ごと持ってくるよ〜?」 「そんなに1度に飲める訳がないだろう」 既に出来上がっているガイは、アンジールに肩を組み、彼の杯に酒を並々と注いでいる。注がれている彼も嫌な顔はせず、苦笑で止めている辺り、酒の席を楽しんでいるのだろう。 アンジールの隣に座っていたセフィロスはガイがこちらに来た事で場所が狭くなって移動。ジェネシスの隣に座って、蛇の捕食による鼠への被害が深刻だと愚痴を零している。 「蛇による被害者が出ると、いつも俺が借り出される。お陰で俺は、鼠社会で英雄扱いだ」 「英雄か……格好いいじゃないか。でも俺は、鼠は食した事がない」 同胞の事で愚痴られているジェネシスは、自分は食の美を追求している為、鼠は口にしない。 口にするのは見た目の可愛らしい兎や、フォルムの美しい鳥の卵などだと言い、その会話が偶然耳に入ったアレンは同じ草食系であるロベルトとの元まで逃げて来た。 アレンが自分達の背後に隠れた事に、2人は顔を見合わせてから振り返る。 「どうしたんだい?」 「……別に、なんでもないよ。……蛇代表のジェネシスさんが怖かっただけで」 「え、蛇代表が? ……優しそうな人だけど……怖いかなぁ?」 「兎を丸呑みするのが美学とか言ってるけど」 「……それは、怖いね……」 僕も丸呑みされそうなんだけど。 震えるアレンに、流石に丸呑みはされないよ、と2人は苦笑するが、そう言う2人も先程まではアーサーに対して恐怖を抱いていた。 しかしそれも仕方がないだろう。草食動物である彼等は、肉食動物を怖がって当然。アレンは元々アーサーの幼馴染らしいので、彼が虎代表でも怖くなかったようだが、初対面の2人は違う。何時食われるかと、戦々恐々だ。 アレン達は卵を丸呑みしながら己の食に対する美学を詩で表しているジェネシスからそっと視線を移動させると、の隣に座るスキンヘッドのサングラスが自然と視界に入るも、まだ名前すら知らない事に気付く。 「……えっと、猿代表の……」 「………………ルード、だ」 「……静かですね」 宴が始まる前からずっと黙りこくっている猿代表のルードは、時々レノに離しかけられているが、あまり進んで会話に参加しようとはしていない。 正座をして黙々と口に食事と酒を運んでいるのを見て、彼はこの宴が面白いのだろうか、楽しんでいるのだろうか、と考えてしまうが、人には人の楽しみ方があるのだろうと、3人はルードから視線を外して、取り敢えず最近草食系の間で流行している美味しい草に付いて話を始めた。 そんな草食系の中に『ドカーン!』と言いながら突撃して来たのは、アンジールにわんこ蕎麦状態で酌をしていたガイ。 顔を赤らめ目を潤ませている所を見ると、彼も相当飲んだ事が窺える。彼はニタァと笑ってを見、思わず体を竦ませた彼女に近寄ると、腕を掴んで無理矢理立たせる。 「え、あ、猪代表!?」 「ガイでいいよ〜。ねぇ、、踊ろー! 僕がエスコートしてあげるー!」 「や、ちょ、ふぉぉおぉぉぉぅう!? うぉあ、吐く吐く吐く!! 出る! レロッと出る!!」 「ちょ、うわ、危なッ!」 踊ろう、そう言って彼女の腋に手を差し込んで、ヒョイと持ち上げるとグルグルと回し始めた。回り始めたのではない、自分を中心にしてを回しているのだ。ロベルトとアレンは回されるの足を避け、ガイは高笑い。宴会場に響き渡る、ガイの笑い声との悲鳴。 「ガイ! 危ないから止めないか!」 「あははー! なんで〜?……あっ」 「ぎひゃぁぁぁあ!?」 の悲鳴でガイに注意をしたアンジールだが、『あっ』の瞬間ガイがよろけた拍子にがすっぽーんと抜けて、飛んでいってしまった。人間大砲ならぬ、羊大砲になった吹っ飛ぶは、アーサーとルードの目の前を通り過ぎ、レノのポカンとした表情を視界に収め、静かに酒を飲んでいるツォンの正面で降下し始めると、セフィロスの元へと落ちていく。 様子を見ていたセフィロスは両手を広げて中腰になり、怪我のないようにがっしりと受け止めた。逆さまに。この1分間で世界が回転し、世界が自分を通り抜け、世界が逆さまになったはセフィロスに抱えられたままで呆然としていた。驚いた顔で彼女を見詰める視線の中、唯一ルーファウスがどこか楽しげに彼女を見ている。 「大丈夫か、」 「……だ、大丈夫です……なんとか」 「ガイ、危ないだろう? 女の子を投げるなんて、酷いじゃないか」 自分の尻辺りから聞こえて来るセフィロスの気遣いの言葉に、なんとか返事をすると、その隣から聞こえて来たジェネシスの声。 席としては離れていたのに、結構吹っ飛ばされたなぁ、と視線を横に向けた瞬間、思わぬ物が見えた。何故か全裸になっている、ジェネシスの姿。 は逆さまで、ジェネシスは全裸。必然的に視線は下の方で……。 「んぎゃぁぁぁぁぁああああ!? 稲荷寿司ーーーー!!!」 「稲荷寿司? ……いな……ああ、コレ?」 「蛇代表、なんで全裸なんですか!」 「!? 、大丈夫!?」 「服にお酒零したんだよ。いつもはそんな事ないのに、ちょっと酔ってるかな?」 「躊躇いなく全裸の時点で大分酔ってますから! 服と一緒に羞恥心も脱ぎ捨ててますから!」 再び響き渡るの悲鳴に、彼女に悲鳴を上げさせたジェネシスは彼女の視点の位置に気付き、自分の曝け出した下半身を見る。が怪我をせずにセフィロスに受け止められて安堵していた一同も、彼が裸だと言う事に悲鳴が上がるまで気付いていなかった。ロベルトとアレンは慌てて膳を跨いでに近づき、逆さまになった彼女を受け取ると、意識を確かめる為に目の前で手を振るが、は放心状態。 「ジェネシス、取り敢えず何か着たらどうだ」 「何かって言われても、何もないよ。隠せる物貸してくれないかな」 「取り敢えずはコレでいいだろう」 そう言ってセフィロスは小皿を掴むと、ジェネシスに渡す。受け取って小皿での悲鳴の原因である物を隠すのだが、その小皿はガラス製で、尚且つ薄い青色。安いっぽいAVのモザイク程度にしか隠れない。 そもそもガラス製で透けている物を渡した時点で、セフィロスも相当酔っている事が窺える。いや、本人にしたら酔っているのではなく、わざとかも知れないが。 「蛇代表、明らかに隠れてないですよ」 「え、そんなに大きい?」 「そう言う意味じゃないと思う……。って言うか、お酒零したなら、別に上は脱ぐ必要ないんじゃない? コートだけでも羽織っておけばいいのに」 「アレン、そっちの方が変態臭いと思うぞ」 小皿で股間を隠しているジェネシスに、容赦なく入るアレンとロベルトの突っ込み。途中からアーサーも彼等に近寄り、取り敢えずここからを離しておかなければと、放心状態のを座っていた場所まで戻す事に。 座布団の上に座らせ、腕を引っ張れば畳なので座布団ごとズルズル移動。 先程の場所まで引っ張って戻ると、アーサーとロベルト、アレンだけではなく、アンジールも放心状態のに声を掛ける。しかし普通に声を掛けても彼女の意識が戻って来る事はなく、頬を軽く叩いて名前を呼べば、やっと焦点が合った。 「、僕がわかるかい?」 「う……馬代表の、ロベルト……」 「うん、そうだよ。良かった、意識が戻ってくれて」 「ろ、ロベルト! 今さっき私、なんか、至近距離にお稲荷さんが……!?」 「気の所為だから、忘れようね」 「そうだ。気の所為だ。ガイに放り投げられたショックで、幻覚が見えたんだ」 「な、なーんだ、げ、幻覚かぁ……」 道理で、随分黒いお稲荷さんだったよと苦笑する彼女に見えない所で、ルードとザックスが、急いでジェネシスに服を着せていた。酒で濡れているから気持ち悪いと文句を言う彼に、お前のイチモツ見せられる方が気持ち悪いと言い、その間の視界に裸のジェネシスが入らないように取り囲んでいる。比較的大柄の人間ばかりだった為、なんとか視界にジェネシスが入る事はなかったようだ。 「あ〜ぁ、折角楽しくとダンス踊ってたのに……。じゃあ、僕だけが踊ろうかな〜。実はこの為に、仕込んであったんだよね〜」 言うと、今度はガイが服を脱ぎ捨てているではないか。上も脱いで下も脱いで、下着だけになったガイの装備は、赤いフンドシ。ゲーム的に表現するならば、【E 赤いフンドシ】 何を思ってフンドシを履いて来たのかは知らないが──いや、先程自分で言っていた。この為に仕込んだのだ、と。彼はフンドシの前の部分、長めの前垂れ≠揺らしながら、とてもいい笑顔で踊り出した。ちなみに前垂れの部分には金の字で珍宝≠ニ印刷してある。 両手を横に広げてスモウレスラーの四股のような体勢になり、『ズンズンズンズン♪』と歌いながら前に進んでくるガイ。 3歩前に進んだら足を閉じ、頭の後ろで手を組んで胸を張り、1回転。彼が回ると、前垂れが横に靡く。前垂れの隙間から見えた股間部には、黒い字で倅≠ニ一文字。 「ガ、ガイ! 何をしているんだ、何を!」 「フンドシ〜っ、ダンスッ!」 「止めんか、馬鹿者!」 アンジールが慌ててガイの元に行き、その頭に拳骨を落とす。いでっ! と言う悲鳴の後で彼は殴られた部分を手で覆い、涙の膜が張った瞳でアンジールを恨めしげに見る。 睨まれているアンジールは、彼の自業自得だと言わんばかりに腕を組んで仁王立ち。 「宴会と言えば、フンドシダンスでしょ? これウチの宴会でやれば、盛り上がるよ〜?」 「そんな見苦しい物、誰も見たくない。いいからさっさと服を着ろ。がまた放心するぞ」 「折角仕込んで来たのに……」 ちぇ、と舌打ちしながら、ガイは脱ぎ捨てた服をかき集めて文句を言いながら袖を通す。だが、きちんと衣服を身に纏ったのに、アンジールは仁王立ちのままで 体勢を変えない。それ所かガイに正座させて、その場で説教が始まったではないか。 『そもそも、猪族は周りを見ずに突っ走りすぎる!』と、常日頃思っていた事を持ち出し始めた。酒が入ると説教好きになるタイプが居るが、彼がそれに該当す るようだ。ガイが視線で助けを求めて来たのに気付いたが、自業自得だと言わんばかりに視線を反らす。ガイ、説教タイムに突入。 ジェネシスも服を着たし、アンジールの説教でガイは正座したままだし、やっと静かに飲めそうだと安堵の溜息を吐き、酒を口にし始める。 数人が固まって適当にグループを作っている中で、どこにも参加せず場所も移動せず、1人黙って酒を飲んでいる龍代表のツォン。 近くにセフィロス・ジェネシス・レノ・ザックス・ルードのグループが出来ているが、誰も彼に声を掛けない。 「龍代表のツォンさん、1人で飲んでいるけど……誘ってみる?」 「そうだね。声、掛けてみようか。ツォンさん、こっちで一緒に飲みませんか?」 1人で居る彼に声を掛けようと提案したのはショックから立ち直って冷静に辺りを見回せるようになったで、ロベルトが賛成してツォンを誘う。少し離れた所から声を掛けられ、口に運ぼうとしていた杯を止めて顔を上げた彼は、来た当初と変わらない表情で視線を向けると、首を少し傾げ──。 「ふみゅ〜?」 一瞬にして、場の空気が固まった。 説教をしていたアンジールも、それを右から左に聞き流していたガイも、固まって下世話な話に花を咲かせていたレノ達も、ツォンを誘った達も皆。 ツォンは首を傾げたままの状態でロベルトを見ていた為、彼はツォンと視線が合ったままの状態。 誘った手前、このまま無言を貫き通す訳にも行かず、ロベルトは気を取り直して聞き間違いだと自己暗示を掛けると、もう1度誘った。一緒に飲まないか、と。 「ほへぇ〜……誘ってくれて嬉しいですのぉ……君達と一緒に飲むですにゃんっ♪」 誰だ、お前。 声を掛けるまで1人渋く飲んでいた男が、にゃん≠ニ返事をしつつ、拳を握り締めて口元に持っていき、肩をくっと上げている。すっくと立ち上がった彼は、こちらに向かう為に1歩踏み出すも、アレンの膳に躓いて転んでしまった。 「きゃぅ! ふみゅう、転んじゃいましたぁ……むぅ、痛いですぅ……」 と言いながら。彼の変貌振りに、は涙目になってロベルトを見るが、彼は顔を引き攣らせたままツォンを見ている。視線をアーサーに移すと、彼は逆にツォンを視界に入れないよう、斜め下を見ていた。 アレンを見れば、彼はおぞましい物でも見るような目つきでツォンを見、自分の体を抱きしめて小さくカタカタと震えている。その所為で上下の歯がぶつかり、小さく音が鳴っていた。そこまで脅えんでも、とアレンの様子を見て逆に冷静になったは、ツォンがここまで来るのに大変そうだから手を貸しに向かう。 「大丈夫ですか、龍代表」 「にゃんっ♪」 心配してくれた彼女に礼を言うように彼は耳元に拳を作った手を当て、2回程拳をくいくいっと前に倒す。猫の耳が動くように。 ちなみにここまでの彼の表情は、変わらず無表情。泥酔しているとわかる程に真っ赤になり、笑顔でも作ってくれればあれ程のダメージは受けなかっただろう、皆。 しかしツォンは酔っても顔が赤くならず、いつもと変わらない風貌な為、泥酔していても気付かない。その分周囲にダメージが行くようだ。 覚えていれば、割腹したくなる程恥ずかしい行動だろう。彼が酔いから醒めた時に覚えていない事を祈ってあげるしかない。 「えっと……本当に大丈夫ですか? 色んな意味で」 「うきゅぅん、たんは心配性だにゃぁ」 気持ち悪いを通り越して、怖い。 お願いです、目を覚まして下さい! 泣きながら彼の肩を掴んで揺さぶりたい気持ちをぐっと堪え、は手を差し出してツォンを立たせる。 近くで見たツォンは確かに表情は普段通りだが、目が据わっていた。相当酔っているだろう事が窺え、彼がまた転ばないようにゆっくり歩いているのだが、右足を左足にクロスさせるように前に出し、再び転びそうになる。まるで某変なおじさんの酔っ払いコントのように。 1人で転ぶのは兎も角として、ツォンの倒れようとしている方向には。ツォンは他の男達よりも細身だが、流石に支えられる程彼女の力は強くない。危ないと皆が声を揃えた時、ルーファウスがすっと腕を前に出して人差し指と中指でを指してクルリと円を描き、掌を回転させて上に向けて、伸ばしていた指2本を自分の方に向ける。 すると物凄い力ではルーファウスに引き寄せられ、気付けば彼の胡坐の上にちょこんと座っていた。ツォンはが居なくなった為盛大な音を立てて倒れると、『痛いにょ〜……』と呟いてから眠ってしまった。どうやら限界が訪れたらしい。 「ふむ……たった1杯で鬼をも泥酔させると言う酒をあいつの徳利に入れてみたのだが。成程、効果は絶大のようだな」 彼の暴走原因は背後にあった。 しかし振り向く気力は既に失せていたので、ルーファウスの上に座ったままで項垂れる。助けて下って有難う御座いますとルーファウスの膝から下りて一礼し、ロベルト達の元へと戻る。 戻ってから、ルーファウスには聞こえない位の小声で『次の宴に借り出されそうになったとしても、絶対に断ろう』と呟けば、聞こえていた面々が同意するように頷く。 しかし残念ながら、次回の宴の時には名指しされ、行きたくないと言っても『神様がお前を気に入って下さったのに、何が不満なんだ』と怒られ、逃げ回っても 掴り、挙句の果てには縄で縛られてルーファウスの屋敷の前に捨て置かれる事になるなど、今の彼等には予想も出来ず、ただ『早く終わらないかな、この宴会』 と願うばかり。 ちなみに、数時間後に目覚めたツォンはすっかり酔いも醒めたものの、酔っている間、己が行った醜態を全て覚えており、酒を飲んだ時には見せなかった真っ赤な顔で屋敷内を走り回って『誰か時間を戻してくれ!』と叫んでいたのを、一同は止めるでもなく生温い瞳で見守っていた。 | ||
● HappyBirthday to Rika様 ● お誕生日、おめでとうございます! リクエストに沿っているかはわかりませんが、愛情は一杯込めておりますので、宜しければお受け取り下さいませ! 宴会のギャグネタと言う事で、神様と十二支の宴会設定で書かせて頂きました。 皆は人間の姿にそれぞれの特徴があると想像して頂ければ……! そしてリクエスト内容を全部入れた所、話が長い上にジェネシスとガイが暴走し、最終的にはツォンが可哀想な事になってしまいました。 FF7連載のIS8班からアーサー・アレン・ロベルト・ガイをお借りしたのですが、アーサーを愛するあまり彼ばっかりが喋りそうになって、慌てて修正した所ロベルトが沢山喋って下さいました。何故。 Rikaさん、お受け取り下さいませ!□_(-ω-`。) 2011.01/15 草薙 五城 五城さんから、2011年の誕生日祝いにいただきました〜! かなりカオスなりクをしてしまったんですが、しっかりとまとめて書いていただけて・・・!! うぉう!Rikaさんウハウハじゃぁあい!! 五城さんのサイトへは、リンクページより行けます。 五城さん、どうもありがとうございます〜!! 2011.01.15 Rika |
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