小説目次 


暫し、思考が止まった。
その後急激に活動し始めた脳細胞は、一気に頭の中に言葉が溢れさせる。
少し変わったLOVE LESSが好きな奴£度の認識───いや、好きのレベルで済ませられる物ではない。あれは愛しているのだろうLOVE LESSを、LOVE LESSの世界を。既にそのレベルに達している筈だ。LOVE LESS狂。LOVE LESSと言えば?と問われれば、ジェネシスとしか答えようがない程に。恐らく奴は死んだ後、棺桶にLOVE LESSを入れてくれと頼むのだろう。

しかし、まさかここまでのレベルだと思いもしなかった。
ジェネシスより今日の昼に渡されたのは、数週間後に控えた任務の内容と地図、そして同行するソルジャーや神羅兵のデータを纏めた分厚いファイル。家に戻り、夕食を作る前に軽くそのファイルを確認しようとした時、中から1冊の古いノートが出て来た。出て来たと言うよりも、鞄から資料を取り出した時に飛び出て来たのだが。床に落ちたそれを拾い上げ、パラパラとなんとなく眺めてみた時に、思考を止める程の衝撃を食らう。




≪ 白きジャスティス ≫
汚れた大地に舞い降りる 一筋の光
それは人々の心に平穏を与え 穢れを取り去る
触れた瞬間 まるで禊を受けたように 穢れは拭われた
人々よ 褒め称えたまえ この白きジャスティスを
我々は 決して手放す事はないだろう この純白の正義を




詩だ。ソルジャーや兵士に付きまとう死≠ナはなく、詩だ。
───って誰が上手い事を言えと。いや、そうではない。自主ツッコミをしている場合ではない。今はこのノート、このノートがなんなのかと言うのが問題だ。任務の事はどうでもい……いや、どうでも良くはない。どうでもよくはないが、まずはこのノートだ。

筆跡は、ジェネシスの物で間違いない。
しかしこのノートに書かれている数々の詩は、色んな意味でおかしい。
この白きジャスティスもそうだ。詩だけ見れば、なんとなく綺麗かも知れないと思う。だが実はこの≪白きジャスティス≫の少し下に書いてある単語が問題なのだ。


≪ 白きジャスティス ≫  トイレットペーパー


意味がわからない。わかりたくもない。
何故にトイレットペーパーを詩にする必要があった?
他に山程詩に相応しい物はあるだろうに、何故トイレットペーパー。
確かに生活するにおいて、これ程なくて困る物はないだろう。家でも外でも、どこであっても。お前の言うこの正義を欲した時、手を伸ばした先に求めた物がないとわかった瞬間、人は絶望を覚える。尻丸出しで、個室に入る前の己を呪うだろう。何故確認を怠ったのだ、と。
だがこれを正義にする必要があったのか?その必要性は一体どこから生まれたのだ、ジェネシス。




ここまでが白きジャスティス≠見た数秒間の頭の中である。
たった数秒の中でセフィロスの思考は数週間後に控えた任務ではなく、完全にこのジェネシスが書いたであろう詩に占拠されていた。これがウータイ兵基地の制圧作戦ならば完璧な作戦だ。一瞬にしてここまで制圧できるならば。彼を天才軍師と呼んでもいいだろう。セフィロスだってそれは断言する筈。

しかしこれは別に作戦ではない。
ジェネシスの素が、セフィロスの思考を支配したのだ。物の見事に、たったの数秒で。なんの意図もなく。

彼は少し痛む頭を抱えながら、まさかこのノートは全て詩で埋め尽くされているのだろうかと恐る恐る、しかし少しの好奇心でページを捲った。




≪ 浄化の箱庭 ≫ 洗濯機
人はその箱庭に浄化を望み 穢れた己の分身を中に投ず
箱庭に雪が降り 流れる川に雪は解け 分身はその流れに身を任す
幾度も幾度も訪れる渦に その都度分身は抗う事なく飲まれれば
いずれ穢れた分身は  箱庭によって無垢なる時へと戻される




だから、何度も言うが何故題材がおかしいのだお前は。
セフィロスは親友と呼べる男の1人に対し、何かしょっぱい気持ちで一杯になった。彼には母親に育てられた記憶がないが、心情的には悪戯ばかりする息子に対し母親が『本当にこの子はもー、いっつもいっつも悪さばっかりしよって!そんなに悪さばっかりしとると、白い頭巾被ってグラサン掛けた白いマントの奇妙なおっちゃんがお仕置きに来るで!』と言う気持ちと同じ物だろう。何故口調が素のリーブ風味なのかは、気にしないで頂きたい。

別段彼が痛い訳ではない、LOVE LESSと詩さえ絡まなければ普通の男の部類に入る。紙一重だが。なのに詩やLOVE LESSが絡んだ瞬間、漢方は劇薬に、小麦粉は青酸カリに、ひよこが何故か孔雀に変身する程の変貌を遂げる。セフィロスにとって、詩人もどきと化した時のジェネシスは宝条と同じレベルの生き物……いや、彼の想像を遥かに超えた生き物へと変貌を遂げる。一体どうやってその変貌から通常のモードに戻せばいいのか、わからない。ある種のリミットブレイク。

セフィロスは洗濯機の詩を読んだ後に黙ってノートを閉じ、突っ立ったままの場所から移動してソファへどかりと腰を掛け、うな垂れた。肘を膝に乗せて、前屈みになって考えている。その姿は、さながら試合終了後のボクサー。試合に負けた己の不甲斐なさに俯くように。

これはあれだろうか、『この詩を読んで感想を聞かせろ』とでも言うつもりでファイルにこのノートを差し込んだのだろうか。
言われたら言われたで誠心誠意全力を掛けて突っ込む気ではいるのだが、もしそのつもりがなく事故でこのノートがファイルに挟まっていた場合、見ない振りをした方がいいのだろうか。誰にも言わず内緒で書いていたとしたら、彼にとって痛恨の一撃ではないか?

彼にはとても判断が付かない。
しかしだからと言って、誰かに相談するにも馬鹿馬鹿しい内容だ。
確かこの次にファイルを回すのはアンジールだったと、もう1人の親友を思い出し、幼馴染である彼等ならばきっと的確かつ素晴らしい突っ込みを入れてくれるだろうと、全権をアンジールに任せる事にした。人はこれを諦めの極致≠ニ呼ぶ。彼はこの瞬間、その極致へ到達した。人生初めての経験が、まさかこのポエムノートだとは彼は夢にも思わなかっただろう。

全てを放り投げ、さて任務のファイルでも確認しようかとノートと共に持って来たファイルに手を伸ばした時、家のチャイムが鳴る。ファイルに届きそうだった手はそのまま膝へと移動。腕と膝に力を入れて立ち上がり、インターホンの元へと向かう。小さな画面に映っているのは、勝手に全てを任せたアンジールの姿。丁度いいタイミングで来てくれたと、セフィロスは玄関のロックをその場で外してスピーカーに向かい、『入れ』と一言。鍵が開いた音に気付いたアンジールはセフィロスが許可する前にドアノブに手を掛けていたようで、はい≠フ時点で扉を開けていた。


「邪魔するぞ、セフィロス」
「丁度いい所に来た。見て欲しい物がある」
「ん?今回の任務ファイルか?」
「いや、こっちのノートだ」


リビングに入って来たアンジールに、セフィロスは早速本題を持ちかけた。
任務のファイルではなく、関係なさそうなノートを渡されたアンジールは、訝しげに渡されたノートを開き、羅列された文字の数々に絶句。目を限界まで見開いて1枚1枚捲る彼の姿は、例えるならば娘の日記を盗み見して、自分の知らぬ所で娘に彼氏が出来た父親の心境と言えばいいだろうか。セフィロスが母親の心境で彼が父親の心境と言うのがなんとなく逆な気もする。実際はアンジールの方が神羅の中ではオカン的な存在であるからだろう。


「セフィロス、なんだこれは……」
「見て分かる通り、ジェネシスのポエムノートだ。あいつに渡されたファイルに何故か挟まっていた」
「…………俺はコレになんと言えばいいんだ」
「幼馴染だろう?瀕死になる位に突っ込んでやれ。ポーションの用意は俺がしておこう」
「瀕死なのにポーションで回復は辛いだろう。せめてエリクサーくらい用意してやってくれ」


ジェネシスポエムノートを閉じ、アンジールはソファに腰を掛けた。2つの詩でギブアップしたセフィロスとは違い、アンジールはそのノートに書かれている全ての詩を読んだようで、心底疲れたような顔を見せた彼にセフィロスは同情。幼馴染の男の新たなる一面を垣間見たのが、こんなにも精神的なダメージを食らうなんて。精神的なダメージは、肉体へもダメージを与えた様子。

アンジールが思うのはこのノートの持ち主で、『俺は育て方を間違ったかな……』と考えていた。別段彼がジェネシスを育てた訳ではないのに、何故か責任を感じている。そんな彼を気遣うようにセフィロスは冷蔵庫から缶コーヒーを出して彼に渡す。このたった数十分ですっかり乾いてしまった喉。アンジールは有難くそれを受け取って飲めば、まるで彼の心を表しているように口内に広がるコーヒー独特の苦味。それが今日は酷く口に残った。セフィロスも間を空けて彼の隣に座り、同じようにコーヒーを飲む。きっと同様の事を思っているだろう。


「正直、次に会う時にどんな顔をしていいかわからん。」
「そうだろうな……俺もそう思う。と言うかノートをどうすればいいかわからんのだが……」
「ノートは、そのままファイルに挟んでジェネシスに渡してくれ」
「……そうだな、何事もなかったように……。しかし、お前を天使扱いとは……」


聞き捨てならないセリフが、耳に届いた。
なんだそれはと言いたげなセフィロスの表情に、アンジールは少し首を傾げてからノートをもう1度開き、あるページでページを捲るその手を止めた。セフィロスに渡されたノート、開かれた部分に書いてあったのは───。




≪ My Angel ≫ セフィロス
君よ 何故それほどまでに強いのか
君よ 何故それほどまでに麗しいのか
さながら天から降りて来た天使のように その長い髪は翼のように宙を舞い
湖のような瞳は世界を見据え 人々を救いへと導く
跪こう 君が天使だと言うのならば
崇めよう 君が天へと戻らぬように
ああ 私のただ1人の天使よ いつまでも君に光あれ




「その後、十数ページに渡ってお前の詩が書いてある」
「…………何故ジェネシスの詩で、俺がダメージを食らわなければならない」


本当、なんなのこの子。
2人の心は1つになり、ジェネシスに対して複雑な心境で一杯になった。
明日、彼に会った時一体どんな顔をすればいいのか。
自分を詩として表されてしまったセフィロスは、アンジールよりもその気持ちが強い。せめてこの詩を忘れるまで距離を置きたいのだが、仕事がそれを許さない。その気持ちはさながら冷却期間を置きたいのに社内恋愛でほぼ毎日顔を合わせるOLの様。


「明日が不安だ」
「安心してくれ、俺もだ」


セフィロスの呟きにアンジールは気持ちは同じだと告げ、揃って盛大な溜息を吐く。取り敢えず任務の話をして気を紛らわせようと、任務のファイルを持って話をし始める。

しかし2人の頭の隅にはあの詩がぐるぐると回り、抜け出せない状況になっていた。人はこれをドツボと呼ぶ。





◇   ◇   ◇





ジェネシスは違和を感じている。
朝、挨拶した時からそうだったが、セフィロスとアンジールの態度がおかしい。
いつもならば挨拶した後に他愛ない会話をするのだが、今日のセフィロスは目を合わせる事なく、どこか挙動不審。目は泳ぎ、言葉もどこか途切れ途切れ。どうしたのか聞く間もなく、彼は仕事があるとそそくさ彼の前から去ってしまった。

セフィロスが去った後、直ぐにアンジールと会ったのだが、アンジールもセフィロスと似たような反応。任務のファイルを何故か気まずそうに渡された。ジェネシスは既にこれを見ていたので、統括に戻してくれと言うも、焦った様子で『お前ももう1度確認するべきだ!絶対に!!』と念を押されてしまった。その不自然さに理由を聞こうと口を開くも、そそくさと居なくなったアンジール。
1つ首を傾げてからソルジャーフロアの休憩所に向かい、ソファにどかりと腰を下す。

『もう1度確認するべきだ』
アンジールの言葉を思い出して、ファイルを開けばそこから彼の膝目掛けて落ちて来た1冊のノート。それは既に記憶の奥底にあり、思い出す事もなければ触れる事もなかった、若き日の自分の思い出。黒歴史とも言える、ノート。

幼少の頃に出逢ったLOVE LESSを愛し、自分もこんな風に素晴らしい詩を書いて人を感動させよう、そう思っていたあの頃。
いつかソルジャーとして、英雄として有名になった時に自伝を書き、それと同時に売り出そうと思っていた詩の数々。

最初は日用品を自分なりに素晴らしく書き始め、途中からセフィロスに対しての詩ばかりになり、その後は儚く散った恋心や雨の日に道端で見つけた野良猫に思いを馳せ。そして最後のページには、自分の事を詩として綴った。

最後を自分の詩で締めくくり、半年程経ってから改めて自分の書いた詩を読んで、2度と開くまいと思っていたノート。若気の至り、過去の過ち、封印された記憶。それがこのノートと共に鮮やかに甦った。嬉しくない。嬉しい訳がない、切り捨てた過去の1つがこうして再び日の光に当たったのだから。


「でも……なんで、こんな所に?」


と言うよりも、今迄一体どこにあったんだ、このノート。
何故こんな任務ファイルの中から自分の膝にダイヴ?
懐かしい気持ちと、恥ずかしい気持ちと、何故ここにと言う疑問が折り重なり、ジェネシスの頭は軽いパニックになっていた。

このファイルは数週間後の任務の為のファイルで、それを自分がセフィロスの手に渡し、アンジールから自分の手元に戻って来た。イコール、必然的に彼等の目にも入っているだろう。
この痛々しい忘れ去った傷跡を、見てしまったのだろうか?


「2人はどこに……!」


ジェネシスは立ち上がると、自分の前から消え去った2人を探す為に走り出した。手にはポエムノートを持ち、ファイルをその場に残して。





◇   ◇   ◇





「あいつの顔を見た瞬間、覚えようとも思っていなかった詩が次々頭の中に浮かんで来た……」
「ああ、俺もだ……。俺の場合、セフィロスを見た瞬間も浮かぶのだが……どうすればいい?」
「どうにもならん、諦めろ」


ソルジャーフロアと上下の階を繋ぐ非常階段。
そこでアンジールとセフィロスは俗に言うヤンキー座り、別名・ウンコ座りをして話し合っていた。

ジェネシスに会った時、普通にしようと自己暗示を掛けていた。だがジェネシスに会った瞬間、その自己暗示は全く役に立っていなかった事が判明。覚えようともしていないのに、一言一句間違える事のなく、彼の作った詩が頭の中に浮かび上がり。最終的には、ジェネシスの声でそれが勝手に朗読され始めた。なんと言うジェネシスパワー。

彼との会話もままならず、共に居る事に苦しみを覚えて彼等はジェネシスと会話を交わす事なく立ち去った。仕事と言う名目の下に。恐らく不思議に感じただろう、ジェネシスは。あからさまに自分達の態度はおかしいと、本人も気付いているのだから。


「普段通りにする筈が、予定外にジェネシスが朗読を始めてくれた。脳内で」
「日頃聞いているあいつの声が、見事に再現してくれたな……全く、困ったものだ」


一体どうしたものかと、2人は盛大に溜息を吐く。
ソルジャー仕込みの記憶力の良さが、彼等を苦しめていた。
忘れようと意識すればする程、記憶に刻み込まれるジェネシスの詩。
任務の事を考えようとしても、思い出すのはあのノート。
では他の任務をと思っても、ファイルから連想されるジェネシスポエム。

泥沼とも呼べる彼の世界にどっぷりと嵌ってしまい、抜け出せない2人。なんとか抜け出そうと抗うも、無駄な抵抗だと言わんばかりにジェネシスの声でポエムが脳内リピート。これこそ最強の拷問ではないかと、後のセフィロスは語る。


「……! やっと見つけた!」
「「 ジェネシス…… 」」


避けていたのに、目の前に現れた元凶。
瞬間、2人の脳内ジェネシスが詩を朗読し始めた。
セフィロスは頭を振り、どうにかして脳内に巣食っているミニジェネシスが耳からポンと出て行かないかと考える。勿論出る筈などない。ミニジェネシスなど居ないのだから。

アンジールはアンジールで、遠い目をして過去に覚えた般若心経を小声で唱えている。突然隣から聞こえて来た般若心経に柄にもなくセフィロスは体をビクリと跳ねさせ、隣の男を見れば瞳はどこか遠くに行ってしまっていた。戻って来てくれ、俺を1人にするな。セフィロスはそう思いつつ、アンジールの尻に手を当てて、思い切り肉を抓った。ぎゃ、と悲鳴が上がる。隣から恨めしそうな目で睨んで来るが、1人で逃げようとしたからだと、セフィロスはしらっとした顔を見せている。

そんな2人を見て、ジェネシスは呆れたような溜息を吐くと、自分の顔の位置へノートを持ち上げる。そして横目でそれを見てから、『これ……見たんだろ?』と 2人に視線を移動させた。面白いように2人は狼狽、視線は右往左往。取り敢えず落ち着いて話そうと、ジェネシスは階段を数段上がってそこに腰掛ける。

今3人が居る非常階段は、エレベーターと言う素晴らしい文明の利器に頼っている者達は忘れている場所。数年後にアバランチがここを走り抜ける事になるのだが、それまですっかりと忘れ去られている。人気もなく、主に社内恋愛中のカップルが逢瀬にこっそりと使う場所。他にタークスのレノがサボる場所としても使っている程、人気がなく滅多に誰も来ない所。

ジェネシスもまさかこんな場所で2人が顔を合わせているなど、人に聞かなければわからなかった。丁度ソルジャーフロアに用があって来ていたリーブが2人を見かけていなかったなら、ずっとジェネシスは神羅ビル内を探し回っていた事だろう。


「……任務ファイルの中に挟まっていたのでな。関係があると思って、見た」
「やっぱり」
「どう言っていいのかわからんが、その詩を見た瞬間、白い家の窓辺でお前が白い犬を膝に座らせて紅茶を口に運びつつ詩を書いている姿が頭に浮かんだ」


セフィロスが正直に言えば、ジェネシスは疲れたように声を出す。
その後で何故か妙な例えをされ、聞いていたアンジールとジェネシスはセフィロスの脳内で勝手に繰り広げられたポエムを書いている時の姿に、思わず顔を背ける。どこの乙女だ、それは。


「アンジールも?」
「……ああ、丁度セフィロスの家に用があって……。取り敢えず言わせて貰うならば、天使はこんなにゴツくはないと思う」
「……若気の至りだから、出来れば記憶から抹消して欲しいんだけど」


若気の至り。
その言葉に2人は顔を見合わせた。彼等は任務のファイルに挟まれていたので、最近書いた物だと思い込んでいたのだ。
若気の至りとはどう言う事だ、そう問えば、ノートの1ページ目の日付を指差す。その日付は、丁度彼等が17歳の頃の物。


「俺も忘れてたんだ。どこかに仕舞ってあった筈なんだけど、なんでファイルに挟まったのかわからなくて」
「忘れていたのか」
「───と言うか、記憶の奥底に封印してあったんだ。自分で読んでも、ちょっと痛かったから」
「痛かったなら、処分すればいいものを……。なんでそんな物を後生大事に持っていたんだ、お前は」
「さあ?当時の俺に聞かなきゃ、わからない」


セフィロスの突っ込みに、記憶の奥底に封印してあったと言い訳すれば、アンジールが呆れ顔でさっさと処分しておけと言う。確かにさっさと剣で切るなりファイガで燃やすなりすればよかったのに、何故まだ手元にあるのだろうか。

しかしいくら思い出そうとしても思い出せず、面倒になって記憶を辿るのをやめた彼は、後でこれをシュレッダーに掛けようと心に誓う。またこんな騒ぎが起こるのは、正直御免だ。
尤も本当にそう願っているのは、被害者であるセフィロスとアンジールなのだろうが。


「今度から人に渡す前に、ファイルの中を確認してくれ」
「そうだね、そうする」
「本当に頼んだぞ、ジェネシス」
「わかったよ、アンジール」


セフィロスとアンジールに心から頼み込まれ、ジェネシス自分だってこんなある種の羞恥プレイはごめんだと思う。
取り敢えず仕事が終わって家に戻ったら、過去数年分に渡って書き綴ったダンボール3箱分のポエムノートを全て焼却処分しようと考え、友人2人の安堵した表情を見ながら、ふと思い出した。


「……俺、任務ファイルはどこに……」






この後、部下に統括が呼んでいたと告げられ、ラザードの部屋へ向かった彼等は、ファイルを持って笑顔の、しかしどことなく怒りを滲ませているラザードに小一時間正座で説教される事となる。
重要な任務のファイルをソルジャーならば誰でも見られる場所へ放置した事への、説教を。




● Happy Birthday to Rika様! ●
お誕生日おめでとうございます!
今年もこうしてRikaさんの誕生日をお祝い出来た事を、本当に嬉しく思います!
拙い文章ですが楽しんで頂ければ幸いと、リクエストして頂いた作品をこうしてお贈りします。

リクエストはジェネシスのアイタタ(脳内花畑化・致命傷レベル)なポエムをセフィロス(orアンジール)が発見し、顔をあわせるのが凄く気まずい={気まずいのはセフィ(orアンジ)で、ジェネシスにとっては既に記憶の底に封印した過去・ポエムの存在をスッカリ忘れてた≠セったのですが……詩は自作で、脳内花畑と致命傷レベルに達しませんでした。
タイトルがNo Title...≠ネのは、あまりにも話が(ある意味)濃すぎて、思い浮かばなかったのです。
この作品を書き上げた後に、『別に詩は書かなくてもよかったんじゃないか?脳内で補完して貰えば』と気付き、寧ろ私が致命傷(大笑)
自分の中での1番の見所は、前半のセフィロスの混乱です(前半に力を注ぎ込み過ぎて、後半が弱くなってしまった気もするんですが……;)
この後、詩よりも正座1時間によって痺れた足が彼等を悩ませ、すっかりと詩は忘れ去られる事でしょう。……忘れた頃に思い出しそうですがね(笑)
こんな風に仕上がりましたが……あの3人は口調が難しいと、改めて実感させられました。7やCCで不幸な彼等なんで、本編前でアホやっていればいいよ、とも思いました(笑)

長くなりましたが……お誕生日、おめでとうございます。
Rikaさんに、幸せが一杯降り注ぎますように!

10.01/15 草薙 五城
草薙五城さんから、誕生日プレゼントにいただきました〜v
リクOKと言って下さった事を良い事に、細かく注文をしてリクしてしまいました(笑)
しょうもないリクから、こんなに素敵な作品をいただいてしまって・・・・!!
笑わせていただきましたぞ〜〜!
そんな素敵な五城さんのサイトはコチラです!
2010.01.15 Rika
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