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Illusion sand ある未来の物語 22 『この人、名前を呼んだ事に関して、既に解決したことにしようとしていないだろうか……』 家に着くなり釣りの道具を物置に仕舞い、さっさと家に向かうセフィロスの背中を眺めながら、は胸の内の蟠りに眉を顰めた。 雰囲気を作れだとか、場を作れだとか求める気は無いが、家までの道でさっき名前を呼んだ事を全く話題にしないのはどういう事か。 も、確かに家に帰ってからゆっくり話せば良いと思っていたが、先送りどころか何もなかったような態度の彼に、何も思うなという方が無理である。 「そうだ、夕食は何か考……酷、いや、凄い顔になっているぞ?」 はっきりと言うべきか、少し様子を見るべきか、悩んで表情がおかしくなっているに、セフィロスの容赦ない一言がブッ刺さる。 途端、目つきを鋭くしたに、セフィロスは身構える。が、彼女がすぐに表情を緩めると、彼も肩から力を抜いて彼女と向き合った。 上着を着ているとはいえ、午後3時を過ぎて吹く風は冷たい。 の手を取って、その指先の冷たさに小さく苦笑いしたセフィロスは、物言いたげな彼女の手を引いて家の扉を開けた。 「とりあえず、家に入れ。少し風が冷たい。話はそれからでも遅くないな?」 「……そうですね。そうします」 何と言って切り出すか考えながら、は彼に頷いて返し、家に入る。 少し冷えている家の中の空気を暖め、昼食の荷物持って台所に向かうと、セフィロスが早速珈琲を入れているところだった。 拾った木の実をザルの上にあけ、昼食の空を水に浸け置いていると、背後からブゴブゴという音が聞こえてくる。 振り返ると、タンクの水が空だと訴えるホットドリンクメーカーを前に、セフィロスが小さくため息をついていた。 彼の手にあるカップには、半分ほど特濃の珈琲が入っていて、は少し同情しながらそのカップを受け取る。 「、タンクに水を入れてくれ」 「それは良…………………ん?……ぬ?……あれ?」 ドリンクメーカーから外したタンクを差し出すセフィロスに、『それは良いんですが、名を呼んで下さる事について話を……』と、そう続けようとしたは、突然熱くなった顔に目を丸くする。 おや、どうしたことかと考えている間に、熱は顔から耳、首へと広がり、やたらと心臓の音が耳につきはじめる。 何かおかしいぞ?と首を傾げかけたところで、目を丸くするセフィロスと視線がぶつかり、瞬間、彼女の心臓は大きく跳ねた。 「な……何…………何だ?!ちょ、ちょっと待ってくださいセフィロス。ちょっと……ちょっと………あの……私……少し頭がおかしいので冷やしてこなければ……!!」 「待て。何処へ行こうとしている!」 「ふぅぬわぁああ!」 「逃げるな。暴れるな。俺の言うことを聞け!」 腰が引けて窓や玄関に視線を彷徨わせだしたに、セフィロスは咄嗟に両手で彼女の腕を掴み捕獲する。 昔逃げられた事を思い出し、考えるより先に身柄を確保してしまったが、多分それで正解だ。 おかしな叫び声を上げられはしたものの、彼女の視線は彷徨うのをやめてセフィロスへ戻ってきてくれた。 今は彼女が逃げても保護してくれるザックスはいないし、そもそも山の中に入られたセフィロスには追いかけるのが難しい。 下手に逃がして、そのまま野性に返られるわけにはいかないと、セフィロスは手形がつきそうなほどの力で彼女の腕を押さえていた。 落ち着かせるために言っていることが、完全に猛獣に対するものと同じだが、さして違いはなさそうなので、気にしないことにする。 目を逸らしたら、その瞬間に逃げられる。 その確信のもと、首まで赤くして固まる彼女から視線を逸らさずにいると、にらみ合いに負けたは眉を下げた情けない顔で力なく床に腰を落とす。 もはやうめき声さえ出せず、目をじんわり潤ませて見上げてくるだけのに、逃げる気配はなかった。 セフィロスは無事、という猛獣に勝利したのである。 かつて簡単に投げ飛ばされ逃げられた悔しさが、数十年越しに報われた瞬間だった。 の突然の変化に気を取られはするものの、油断すると頬が喜びで緩みそうになる。 何度か深呼吸して気持ちを落ち着けたセフィロスは、改めて捕獲した猛獣……捕って大人しくなったと視線を合わせた。 「…………」 「…………」 「少し待ってくれ」 「…………」 先程より少しマシにはなったものの、未だ頬を真っ赤にして困り顔のに、セフィロスは思わず視線を逸らして気持ちを落ち着ける。 今はドリンクメーカーのタンクを差し出しただけで、彼女が赤くなるような事をした覚えはない。 行動でないなら言葉か。 そう考えたセフィロスは、名を呼んだことが彼女の態度の理由だとすぐに理解した。 再び名を呼んだとき、彼が彼女の反応として想像していたのは、素直に喜ぶ、やっと呼んだかと呆れる、これまでの事を怒る、の3つだ。 顔を赤くして挙動不審になるなど、全く想像していなかったし、今までのの姿からも想像できなかった。 もっと恥ずかしがるような事は散々しているだろうと思ったが、思い返せばその時のもかなり恥ずかしそうにしていたので、この反応は正常かもしれない。 いや、だが、普段ソファで寛いでいる時や一緒に夕食を作っている時に唇で触れ合う事があっても、はここまで赤くはなっていない。 やはり自分の考えすぎだろうかと思いながら、セフィロスは首を傾げつつに視線を戻す。 「……」 「っぃはぃイ!?」 「…っ……」 「……ぐぬっぬぬ……!今のは……忘れてください……」 呼んだ瞬間、また耳まで赤くなった上に裏返った声でおかしな返事をしたに、セフィロスは顔を伏せて肩を震わせる。 必死に笑い声を押さえるセフィロスだったが、忘れろと言われても普通に無理だった。 名前を呼んで赤くなるまでは分かるが、ここまで返答がおかしくなる意味が分からない。 声を殺して笑うものの、ふと、今後も名前を呼ぶ度に変な声で返事をされるのだろうかと考えると、セフィロスは不安になって笑いが収まった。 「」 「……っはァいっ!」 「無理に返事はしなくていい。時間をかければ、名を呼ばれることに慣れられるか?」 「……な……何とも言えませんが……お時間をいただければ、恐らく……」 「名前を呼ばなければ普通に返事ができるんだな……」 「……面目ありません……」 「いや、待たせすぎた俺のせいでもある。お前を責めてはいない。無理をして焦るな」 「……本当に面目ありません……」 名前を呼ばない事に苛立っていたのに、いざ呼べば態度がおかしくなる自分に、は肩を落として落ち込んでいる。 セフィロスからすれば、名前一つ呼ぶだけで顔を赤くする彼女を、予想外と思いつつそれはそれで可愛いとも思うので、本人が思っているほど悪く思っていなかった。 ただ、呼ぶ度に変な声で返事をされると、芋づる式に次元の狭間で見たアレも思い出しそうになるので、この返事だけは早々に改善させるべきだとは思う。 「お前の名前は、出来るだけ、昔のように普通に呼ぶようにする。お前も、無理のない範囲で徐々に慣れてくれればいい。とりあえず、逃げるのは禁止だ」 「……わかりました。そうですね。逃げません。それは、はい……」 がっちりと両腕を掴んだままのセフィロスの手を見やり、は気まずそうに頷く。 とりあえず言質をとって手を緩めたセフィロスは、彼女の手を引いて立ち上がると、床に放り出していたドリンクメーカーのタンクを渡す。 「珈琲を入れたい。水を入れてくれるか?」 「はい。私の分も、貴方と同じ物をお願いします」 「わかった。ソファの方へ持っていく」 「よろしくおねがいします」 混乱すると手がかかるが、落ち着くのは早く、そこから話も早いのは相変わらずだと思った。 日常生活で名を呼んでいって慣れるならそれで良いが、無理だったなら多少強引な手を使おうと考えると、セフィロスは二人分の珈琲を入れる。 ソファに腰掛けて二つのカップをテーブルに置いた彼は、外出の片付けをしている彼女をちらりと見る。 視線に気づいて顔を上げたに、何でもないと首を横に振ると、彼女は少し首を傾げて片付けを再開した。 が気にしないのを良いことに、セフィロスはソファの背もたれに片腕を上げ、台所に立つ彼女を眺める。 次元の狭間で、が夢幻では無いと本当に確信できた日から、彼の体は徐々に回復し、今では昔の通り至って健康健全な成人男性に戻っていた。 当然、朝は生理現象が起こるので、もセフィロスの健康状態は察しているだろう。 けれど、名を呼ぶまでは……、焦る気持ちが落ち着くまでは……と、色々理由をつけて先延ばしにしてしまい、未だセフィロスとは一線を越えていない。 それどころか、狭間に帰ってきた日以来、セフィロスはと一緒に寝てはいても、口付け以上の事はしないという健全ぶりである。 何となく、もう、焦って彼女に触れなくても大丈夫なのだと思った結果なのだが、それにより寝る前にから物言いたげな視線を向けられる事が増えた。 それは、彼女から求められているという視線ではなく、狭間で見たアレのせいで手を出す気を無くしたのではないかという、疑いの目だ。 確かに彼女の尻を見ていると余計な事を思い出しそうになるが、思い出すのも可哀想な光景なので、その度にセフィロスは思考を振り払っている。 正直、向こう5年くらいはスキップしてほしくないし、辛うじて言語を聞き取れるだけのうめき声みたいな変な歌声は二度と聞きたくない。 だが、だからといってに触れたくないだなんて思っていないし、状況が整っているなら今日でも明日でも抱いてしまって良いと思っていた。 昔のように、少しのんびりと構えているだけで、セフィロスにはに手を出す気は十分ある。 散々色々した手前、今になって何もしないのが彼女に不安と不審を持たせるのは分かっていたので、そろそろ良いだろうかと考えていた矢先である。 「」 「ふぐっ!…………はい」 「終わったなら、こっちへ来たらどうだ?。珈琲が冷める」 「今、クッキーを出すので少し待って下さい」 「荷物に入っていた、レノからの礼か?」 「ええ。ジュノンで人気のカフェが出しているクッキーだそうですよ。」 棚の中に仕舞った紙袋からクッキーの缶を1つ出すと、は足早にリビングスペースへ行く。 手を差し出したセフィロスに缶と皿を渡し、その隣に腰掛けた彼女は、温くなったコーヒーに口を付けた。 セフィロスが皿の上にクッキーを出してくれたのを見て、はカップを置いて手を伸ばす。 だが、その手は目当てのクッキーに触れる前にセフィロスに掴まれ、首を傾げている間に彼女の体は彼の膝の上に座らされてしまった。 「セフィロス、これだと食べにくいんですが」 「お前は、まだ逃げる可能性があるだろう?念のためだ」 「……ん?何故私が逃げるんですか?」 「さっき逃げようとしたばかりだろう。、俺が捕まえないままお前の名を呼んで、本当に逃げないと言い切れるか?」 「…………ぅ、えぃ……」 「……どっちの返事だ……?」 また顔を赤くして固まったに、セフィロスは苦笑いを零すと、彼女の腰を掴んで逃走を防止する。 どうせ1年もすれば、慣れて顔色を変えなくなってしまうのだろうと考えると、今この姿を楽しまずにどうするのかと思えてきた。 少しずつ慣らそうと言い、必要なら荒治療も視野に入れているが、この可愛らしい反応は何処まで引っ張れるだろうか。 は何だかんだで適応力が高いので、油断すると楽しむ間もなく名を呼ばれる事に慣れてしまうだろう。 その前に、このをしっかり堪能しなければと、セフィロスは知らず彼女を捕らえる手に力がこもった。 その手の力に、目を閉じて気持ちを落ち着けていたは、何だろうと彼を見る。 「ぅひっ……!」 「……何だ?」 「な……何でも、ありません」 「そんな反応ではなさそうだが……」 声や表情は普通なのに、目の奥がやたらとギラギラしているセフィロスに、は背筋を震わせながら普通の対応を見せる。 油断したら頭から足先まで食らいつくしてきそうな雰囲気に、は悲鳴を押さえながら逃げたくなるのを必死に堪えた。 「い、いえ、ちょっと手がくすぐったかっただけです。クッキーを食べたいのですが、とっていただけますか?」 「どれでもいいか?」 「ええ。ありがとうございます……」 「ああ。、口を開けろ」 クッキーを食べさせてくれるだけですよね?自分で食べられますよ? 問いたい、言いたいのに、彼の声が名を呼んだ瞬間または顔が熱くなって上手く声が出なくなる。 命令されるまま顔を上げて口を開くが、獲物を前にした獣のようなセフィロスの目を見ていると、クッキーではなく別の物を口にいれられそうだと思った。 の怯えを察してか、セフィロスの目が段々と楽しげに細められていく。 入らなくて良いスイッチを入れてしまった事を理解して、は現実逃避したくなったが、そんな隙は彼を喜ばせるだけだと分かっているので、諦めて冷静になれるよう努めた。 口の中に優しく押し込まれたクッキーから、バニラとバターの香りが広がる。 香りを妨げないほんのりとした甘みに、どこか懐かしさを感じたところで、セフィロスの指先が彼女の唇を擽っていった。 「っ……〜〜!」 「悪かった。つい……な。もう物を食べている時に悪戯はしない」 咀嚼しながら抗議するに、流石のセフィロスも今のはいけなかったと素直に謝る。 彼が差し出したカップを受け取り、珈琲を一口飲んだ彼女は、引き寄せようとしてくる彼の腕を無視してクッキーの缶に手を伸ばした。 中に入っているリーフレットを取り、クッキーの説明の裏にある店の概要に目を通したは、そこに印刷されている店主達の姿に一瞬驚き、次いで目を細める。 頬を緩めて写真を眺めるに、セフィロスは怪訝な顔をして彼女の手元を覗き込んだ。 写っているのは、珈琲の瓶が並ぶ棚を背景に立つ店主らしき二人の男達。 顔に傷がある白髪の厳めしい顔をした男と、少し冷めた表情をした40代くらいの綺麗な顔をした男だったが、どちらもセフィロスの記憶にはない。 ミッドガルならさておき、ジュノンにの知り合いなどいるのかと考えていると、彼女はソファから立ち、壁にあるコルクボードにリーフレットを貼り付けた。 満足そうな顔で、リーフレットを眺める彼女に、セフィロスは必死に記憶をひねり出すが、やはり件の男二人は記憶にない。 彼女が誰かの顔に反応した事など、一度だって……いや、一度だけ、誰か忘れたが新羅関係者が父親に瓜二つだと驚いていた気がするが、カフェ店主2人の顔とは違う気がする。 いや、もしや本当に知り合いではなく、単にクッキーが気に入っただけか?とも考えたが、それでは店主の写真で笑顔になる理由にならない。 まさか……店主のどちらかが好みの顔だったなんて言わないだろうと、セフィロスは静かにソファから立ち上がると、自然な動きでの後ろに立ち、彼女と飾られたリーフレットを見比べる。 店主達は、セフィロスとは全く似ていないが、顔立ち自体はどちらも整っていた。 の好みはどちらだろうと写真を睨むが、考えるまでもない。美中年という言葉がよく似合う、若い方の黒髪の店主の方だとセフィロスは確信する。 根拠は、自分の顔と、の初恋だというファリス。 多分の好みは、綺麗な顔の男。しかも、恐らく彼女は無意識に自分の顔を美醜の基準にしているので、好意を持つのは一般的に美形と分類される人間だと、セフィロスは考えた。 別に、彼女が映画俳優やモデルを見て気に入ったりしても気にしないが、人の膝にいるときに他の男の写真を飾りに行くのはどうなのか。 犬猫の写真なら同じ事をされても気にしない事に気づかず、セフィロスは眉間に皺を寄せてを見る。 その視線に気づかず、柔らかな笑みを浮かべて写真を眺めるに、彼は我慢できず写真を覗き込んだ。 「……どこがいいんだ?」 「……何処……といいますと……?」 「聞いているのは俺だろう?」 「……セフィロス、貴方が何を言っているのか、わかりかねるのですが……?」 「……俺の方がいい男だろうが」 「は?」 「こいつより俺の方がお前の好みだろう」 「貴方、何を言っているんですか?」 いきなり視界を遮ってきたかと思ったら、不機嫌そうに脈絡のない事を言うセフィロスに、は意味がわからず首を傾げる。 だが、の返答に目を丸くしたセフィロスに、彼女はすぐ自分の返事の悪さを理解した。 「失礼しました。そうですね。確かに、貴方が仰るとおり、彼らより貴方の方が、私の好みです。貴方の良いところも悪いところも、過去の行いもまとめて一緒に背負おうと思えるのは貴方だけです。生まれた世界でも、この世界でも、貴方以上に私が心を惹かれた男性はいません」 「……そこまで言えとはいっていない」 ややこしくなる前に誤解を解こうとした結果、は計らずにセフィロスの顔を赤くする事に成功した。 おや可愛らしいと頬が緩んだが、ここでからかうと後が恐いので、はあまり触れずに話を進めることにする。 「そうですか。それで、何故そんな話になったのでしょうか?」 「……その写真の男が、お前の好みなのかと、勘違いした」 「はい?」 「お前が好きになる男は、顔が良い。俺も、お前の初恋だというファリスもな」 「…………」 「その写真の店主も、顔が良いだろう?だから、勝手に勘違いをして、嫉妬した。すまなかった」 顔が良い男が好きと言われて反論しようとしただったが、セフィロスの顔とファリスの顔を思い浮かべて否定出来なくなった。 もしや、自覚がないだけで自分は面食いだったのかと考えたが、同じように顔が良いルーファウスには全くそんな感情は湧かないし、昔顔を合わせた事があるセフィロスの元同僚にも全く興味は湧かなかった。名前だってジェ何とかと言ったような気がする……というレベルだ。 他に面識がある顔が良い男を思い出そうとするが、昔勤めていた城に何人か綺麗な顔の男がいた気がするが、やはり名前も顔も思い出せない。恋愛感情を抱いた記憶もない。 単に惚れた相手が美形だっただけだ。 そう言えればよかったのだが、言うほどに恋愛経験はないし、セフィロスが言う通り彼もファリスも顔が良い。 ファリスは後に女だと判明したが、細身の美男子といって十分通じていたし、他でもないがそう認識していた。 ……あれ?私、顔が良い男が好きなのか? でも背中を預けられない男は嫌だな。いや、でもセフィロスもファリスも顔はいいし……あれ? 考えれば考えるほど分からなくなって、は宙を見上げたまま停止する。 一方勝手に嫉妬した恥ずかしさでと目を合わせられないセフィロスは、彼女の肩辺りで視線を彷徨わせていたので、彼女の様子には気づいていなかった。 「……それで、聞きたいんだが、何故そのリーフレットを飾った?」 「ん?ああ、それですか。店主が知っている二人なんです。昔、私が新羅の士官学校に勤めていた時期があるでしょう?その時の同僚と、教え子です」 「……そうだったのか」 「ミディールでの実習と、ミッドガルからジュノンまでの遠征で顔を合わせた事があるはずですが、流石に貴方は覚えていないでしょう?」 「そうだな。2回や3回顔を合わせた程度だと……」 何十年も前に数回会っただけの人間を覚えているなど無理がある。まして、その後の年齢を重ねた姿を見て、誰なのか分かるわけがなかった。 もう一度写真を確認するが、やはり思い出せなかったセフィロスは、首を竦めて見せるとソファに戻る。 誤解が解けて安心したも、彼の隣に腰を下ろし、ついでに自分が面食いなのかという疑問を頭の隅に仕舞っておいた。 やれやれようやくゆっくり休憩出来ると珈琲に手を伸ばしたは、ふと視線を感じて手を止めると、セフィロスを横目で見る。 今度はなんだろうと首を傾げると、彼は数秒考え、何でもないと言って自分のカップに口付けた。 少し気にはなったが、必要ならそのうち言うだろうと考えると、は気にせず珈琲を口に含む。 思えば、彼からこんな風に分かりやすく嫉妬されたのは初めてな気がして、彼女はその可愛らしさに小さく笑みを零す。 が、セフィロスに笑っていることを知られれば、どんな仕返しをされるか分からないので、はさりげなく彼から顔を背けながらクッキーに手を伸ばした。 |
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ん〜、長くなったので、今回はここまで。 2022.11.01 Rika |
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